目覚めたら天使でした。

momo

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ふぅ、とわざとらしく小さな溜め息を吐くと、リリーアはあくまでも優しい眼差しでマリアを見つめる。
それはまるで聖母のような眼差しで周囲に居た何人かの領民の視線を一身に集めるものであった。
それを自覚した上でリリーアは殊更穏やかにマリアに語りかけた。

「マリアリール様。きっと今までご家族は優しさで貴女に教えて差し上げられなかったのだと思います。
でもそれでは貴女の為にはならないわ。だから敢えて私は貴女にお教え致します。

精霊とは厳密には人の心に住まう主のご意思。私たちが日頃扱うことの出来る魔素の事なのです。
妖精も精霊も御伽噺の中にしか存在していないのですよ」

マリアは酷く戸惑う。リリーアはマリアが見えているのは精霊ではないと言う。
では、今まで家族の皆が認めてくれていたのは何だったのだろう?皆精霊の存在を信じていなかった?
マリアが嘘を言っていると思って、それでもその嘘に付き合っているつもりだった?

マリアは何だか悲しくなってきた。ちゃんと此処に居るのに。今も聖の精霊はマリアに寂しげに話しかけているのに。
それを否定された事がマリアは悲しかった。でもリリーアの言葉を否定も出来なかった。
マリアにとって“ 人間”は慈しみ愛すべき存在。どうしてもそんな事ないなんて言えなかった。

それにマリアは見えているけど、だからこそ見えない人の考え方はマリアには理解する事は出来ない。
見えない人にとって見えないものは存在しない事と同義である、という理屈を流石のマリアでも知っているから。

“ 精霊は居ます”と本当は伝えたい。精霊の為にも、リリーアに知って欲しい。マリアはどう言えば良いか分からず口ごもっていると、心配になったのか、アベルが近付いてきていた。
それに最初に気付いたのは幸か不幸かリリーアの方だった。咄嗟にリリーアはマリアを少しだけ演出する事を思い付いた。
何を言っても気分を害した様子がないマリアに段々と焦っていたのだ。あまり口汚い事も、自分のイメージを考えると言えないリリーアは、仕方なく自分から動く事にした。

頃良い距離まで来た事を視界の隅で確認すると、ガタッと大きな音を立ててリリーアは立ち上がった。

「ご、ごめんなさい。・・・いいえ、申し訳ありませんでしたマリアリール様。差し出がましい事を申しました。高貴なご令嬢に何て事を・・・」

顔色を悪くしたリリーアは早口でそう言うと、腰を折り曲げて頭を下げた。周囲に居た人々も話す内容までは聞こえていなかったはずだ。
現状が周りからはどう見えるのかリリーアは充分に理解していた。その上で目に涙を浮かべ、体を震わせた。
それを見たアベルは慌ててリリーアの元に駆けつける。マリアが何か言ったのだろうか?アベルには何も分からなかった。
ただ、こんなにも震えているリリーアが可哀想でこの場から離した方が良いと判断しリリーアの肩をそっと抱いて足早に立ち去った。

残されたマリアは何が起こったのか理解出来ず、突然起きた出来事に為す術もないまま立ち竦むだけであった。
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