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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。

*八十九・日常と息抜き・雷鳴の指輪とチラシ

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「た~~……いく~つ」

 小春は背もたれに背中を思い切りあずけてあくびをしてから、ため息と不満の声をもらした。
 やりたいことはやった為、暇をもて余していた。

 ロベルト教師はそう思ったからこそ声をかけた。

「小春、これからプリントを運ばないといけないから手伝ってくれ」

「え~~っ。わたし今忙しいよ」

「嘘を付くな」

 花梨が机に顔を突っ伏したまま続く。昨日は久しぶりに、ファイナルドラゴンクエストをつい夜中までやって眠かった。

「そうだよ小春ちゃん。わたしは忙しいんだから、ロベルト教師を手伝ってもいいんじゃない?」

 花梨は口に手を当ててからあくびをした。
 その明らかな嘘に、ロベルト教師はついこめかみを押さえる。

「お前も嘘を付くな」

「嘘じゃないよ。わたしは、食後のお昼寝に忙しいんだから。そういう訳でおやすみ」

 そう言って数秒でいびきをかき始めた花梨から、再びロベルト教師は小春へ視線を移す。

「小春は何に忙しいんだ?」

 小春は即答する。

「明日は、この学園お休みだから何して遊びか考えるのに忙しいんだよ。貯金も結構あるし」

「よ~~く、分かったよ」

「でしょでしょ」

「お前らが、思いきり暇だってことがな。そういうことがだから、俺を手伝え。もし手伝わなかったら、宿題を山程だすから覚悟することだな」

「えっ? 何それ職権濫用だよ! 酷いよ!」

「とりあえず頼むぞ」

 小春は腰をゆっくり持ちあげて、椅子から跳び跳ねて立ち上がった。

「分かったよ。こんな美少女が手伝ってあげるんだから、後で何かおごってよ」

「しょうがないな。後でチョコレートパフェ、」
 その言葉に小春は感激の声をもらす。
「おっ!」
 ロベルト教師が次をつむぐまで。
「超ミニをおごってやるよ」

「せっこ~~。けど、まあいいよ」

 ちなみにチョコレートパフェ超ミニとは、大きさも値段も普通の五分の一の代物だ。

 小春はプリントを運ぶ途中、紛れ込んでいたあるチラシに目がとまる。

「ふむふむ。先着百名様に限り」

 バシッと、

「小春は見なくっていい」

 冷や汗を浮かべていたロベルト教師はそのチラシを取り上げた。

「ケチッ」

 小春はそう言いながらも、その場所をしっかりと記憶していた。

 *

 約束どおりロベルト教師が、小春にチョコレートパフェ超ミニをおごった次の日。
 賑やかな話声のする、ギルド巡礼へと続く行列の中。
 ロベルト教師は、注意深く辺りを見回そうとして。不意に後ろに気配を感じて振り向くと、そこには小春がいた。

 小春はいつもの笑みで声をかける。
「ヤッホー、元気?」
 次に花梨。
「結構このイベントって人気あるんだね」
 次に咲希。
「結構、長い行列ですね」
 次に早苗。
「でもこれなら、なんとか先着百名に入るんじゃないかしら」
 次にロイ。
「まあ、それなりに結構早起きしたからな」

 ロベルト教師は動揺のあまり口をパクパクとさせてから、なんとか言葉を絞り出す。

「なんで、お前らがここにいるんだよ?」

 小春は能天気にピースまでして即答する。

「そんなの面白そうだからに決まっているよ。それはそうとロベルト教師って、その服しか持ってないの?」

 ロベルト教師は黒いスーツ姿だ。

「単純に着なれている分、意外と落ち着くんだよ。そう言うお前も変わってないように見えるが」

「ふっ、甘いな」

「ん?」

 ロベルトは教師は目をらすがいつもと同じ白いワンピ姿だ。

「もっと下」

 ロベルト教師は視線を下へのばすが、分からない。
 ……

「分からないかな? 靴。今日は、新品の靴をはいているんだよ。おしゃれは足元からってね」

 ロベルト教師はあらためて視線を、白い靴下の先にある小春の靴へを向けなおすと、いつもと違って光沢をはなっていることに気付いた。いつもの黒から鮮やかな青へ。

「しかもこの靴、風属性の魔力を高める魔法陣が描かれているんだよ。凄くない? 今回の目玉商品、雷鳴の指輪と合わせて使ったら凄そうだよね」

 ロベルト教師は動揺を隠せない。

「ちょっと待って、何故小春がそれを知っている?」

「そりゃ、チラシに書いてあったからね」

 小春にロイも続く。

「そのチラシ、俺の家にも来たぞ」

 ロベルト教師は小春にダメージを与える言葉を放つ。

「新聞のチラシだからな。いかにも新聞に興味なさそうな能天気な小春が、チラシをあの時以外に読んでいるとは思えないんだよ。能天気だからな。まさかあの一瞬で記憶しているとは、能天気なくせして」

「ちょっと待って、能天気って三回も言う必要ないよね? 只、面白そうな匂いがしたから、わたしの勘が自然と、全神経を集中させただけなのに」

 何故か、花梨が続く。

「小春ちゃんが能天気なのは事実だから仕方ないよ」

 ロイも事実を言う。

「そんな事実はおいといて、ロベルトがあせったのは小春が強いからだろう」

 小春に疑問が浮かぶ。

「先着、百名って、それと強さがどう関係あるの?」

 ロイは、ちょっとあきれてしまった。

「戦う必要があるからだよ。言っとくが、雷鳴の指輪は一つしかないからな」

「百個は、あると」

 つい小春は、密かに思っていたことを暴露してしまった。
 あきれたままロイは続ける。

「だから、能天気って言われるんだよ」

 小春は、しれっと話の流れを変えようとする。

「そもそも、雷鳴の指輪って何?」

 小春の意図を理解しながらも、ロイは説明する。

いかづちを操れるんだよ。属性は、今は扱える人はほとんどいないとされるひじりと風の属性を宿した超レア物の指輪だ。威力は凄いが、それなりに魔力をくらうといわれているな。知らないで、その靴と組み合わせて使う気でいたのか?」

「そうだけど? 知らないでも何とかなるって思っていたけど。ん~っ、やっぱりいらないや。そんな指輪ならわたし魔力ゼロだし、扱いきれそうにないから」
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