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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。
*六十二・魔道具と魔鍛治士・魔鍛冶士の火野
しおりを挟む早苗のそこそこ広い部屋に集まったのは、西尾と早苗、花梨と咲希と紗耶香だ。
早苗は、紗耶香をちょっとだけ見つめた。
「紗耶香さんアナタは元もと、どのギルドに所属していたの?」
「ギルド狐の眼ですけど」
「咲希から話を聞いていたけど、魔力と闘気を合成させる技はそのギルドに使い手がいるから。もしそれが兄なら心当たりがあるかもしれないわね」
紗耶香としては自分で編み出した技のつもりになっていたけど、もしかしたら兄が既に編み出していた可能性も否定が出来ない。
もしかしたら、兄はそれを見越して闘気術も教えていた。
結果的にまた兄に助けられていたという悔しさや嬉しさ。それよりもそれらを凌駕して、手に入りそうな兄の手がかりは、紗耶香の胸の内をちょっとだけ踊らせた。
早苗は紗耶香へ声をかける。
「それはそうと。せっかく純度がめちゃくちゃ高い魔黒曜石のお持ち帰りに成功したんだし、わたしの知り合いの魔鍛冶師に連絡を入れてあるからそこに行きなさい。お兄さんの方は、私が心当たりをあたって行くから」
「ありがとうございます」
「咲希も花梨も、それで問題ないでしょう」
「わたしは、それで問題ないです」と咲希。
「わたしも大丈夫だよ」と花梨。
早苗は何故か、西尾をだけを見てない。
「紗耶香さんも、咲希も花梨も、今日は疲れたでしょう」
「早苗、俺も結構疲れているんだけどな」
西尾の台詞を無視するかのように、早苗は続ける。
「とりあえずはゆっくりしましょう、紗耶香さん、咲希も花梨も、今日はギルド巡礼に泊まりなさい。ということでお寿司の出前を頼んでいるから、皆で食べましょう。紗耶香さんがギルド巡礼へ入隊したお祝いもかねて、もちろん西尾君の全額おごりで」
こうしてギルド巡礼の夜は平和にふけていく。
「もちろんって、早苗」西尾はそう反発したが、「そんなこと言っていいのかしら」と何か続きそうな嫌な予感に勝てなかったからか、何故か只一人お寿司の代金を払った。
花梨も払おうとしたが、早苗の手によって阻止された。
「なんで俺だけ」と、不満をもらしていたがそれは仕方がないことだろう。西尾は間の抜けたところすらも花梨の師匠みたいな立ち位置で、元もとそういうキャラなのだから。
*
夜が明けたギルド巡礼。
テーブルと椅子と、一つのベッドしかない簡素な予備の部屋。
ベッドてベッドの間隔は近い。その上で、咲希と紗耶香は目覚めた。
だが二人とも、ぼんやりとまだ夢から完全に覚めていない。
目と目が近い。
紗耶香は大好きだった兄の夢を見ていた為に、とても良い表情をしていた。
咲希も憧れの彼の夢を見ていた為に、とても良い表情をしていた。
突然、開かれるドア。
そこに現れたのは早苗と西尾だ。
早苗はニヤリと笑う。
「取り組み中、ちょっと失礼したわね。見なかったことにしてあげるからゆっくりと続きを楽しんで」
夢から完全に覚めて状況を把握した咲希は、悲鳴に近い叫び声をあげた。
「ち、ち違うんです。早苗さん」
「違います。勘違いです」
紗耶香もそう必死に説明しようとしたがドアは既に閉められていた。
咲希と紗耶香は、ベッドから飛び降り駆けてドアを開けて。
「そんな趣味はありませんから」と、二人して必死に叫んでいた。
説明をするまでもなく、そんなことは早苗と西尾は分かっていた。
けれども、早苗がそれを咲希をいじるネタに使わないはずがない。そういうチャンスは、無理矢理にでも広げようと見逃さないのが早苗だ。
西尾はその件に関しては、口を開くことはなかったが。
あわただしい朝だったが咲希は早苗から紹介状を受け取って、花梨や紗耶香と共にギルド巡礼から魔鍛冶師の元を目指す。
草原を東へ進み、何ごともなく魔鍛冶師の住む町へと着く。魔物にあうことはあったが、簡単に咲希と紗耶香がなぎ倒していた。
魔黒曜石の町と同じようなレンガ造りの家。土を踏み固めた道。ローブを身につけている町人達や、マントを纏った旅人達。
そんな町中から魔鍛冶師を探すのは、難しくはなかった。一軒だけ木造りの平屋で目立っていたからだ。
その木造の家の入り口・木製のドアの前で来ると、それは開かれた。
現れたのは、黒い短髪で、真っ白な衣服を身に付けた咲希より頭一つ分低い小柄な男だ。
「早苗から聞いていたが、もしかしたら魔武器か魔道具の製作の依頼者か?」
咲希はうなずいて、ふところから紹介状を取り出して渡した。
「そうです。お願い出来ますか? それなりの料金は払います」
紹介状を受け取って数秒程かるく目をとおすと、小柄な男は顔をあげた。
「もちろんそれなりの料金はいただくが、条件がある」
紗耶香は不安そうに言う。
「難しいことでしょうか?」
「一つ目は難しいことじゃない。魔黒曜石を手にしていると聞いたが、まずはそれを求めた理由を訊きたい」
まず答えたのは咲希だ。
「あこがれの彼を求める為には、今のわたしは力不足だからです。それが八割」
「八割? ……まあいい。それだけか。魔族の血は関係していないのか」
「それは一割です」
「残り一割は?」
「そこは個人的なことなので、言えません」
その理由は、花梨に対してなんだか悔しかったという情けない理由だった。
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