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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。
*五十三・ギガントグリズリー退治・咲希の奮闘と花梨
しおりを挟む咲希は内心くすりと笑みをもらして、再び気を引き締める。
「今度は前を向いてください。やっぱりギガントグリズリー以外にも魔物がいるみたいです」
「そうだね」
約10メートルかで、赤い月明かりと陽光を反射する赤黒い眼。
「何をのんびり構えているんですか? はっきり言ってヤバイくらい殺気を放っているで、とりあえずは下がってください」
言葉どおり花梨は後ろへと下がり、咲希は魔力を足へ流して、硬い岩の地面を強く踏みしめてから一蹴りする。
咲希は、左右の手に刀身が30センチぐらいの炎のナイフを作り出して魔物へせまり跳躍。顔面目掛けて右拳に纏ったナイフを内から外。真横へ一直線に振るう。
赤黒い眼をもつ全長2メートル以上はある狼はそれを右の前足で払おうとするが、そのまま引き裂かれた。
「一匹目」
次の狼へ意識を移した瞬間、とてつもない衝撃が咲希の頬を襲った。地面を転げるようにぶっ飛ばされるが、姿勢を低くしながらも体勢を立て直す。
激しく何かに強打されて熱と痛みが走る頬だが、一つダメージ吸収の水晶が砕けちり身代わりとなった。
なんです? と、顔を上げ視界にとらえたのはギガントグリズリーだ。
体長5メートル。狼よりもはるかに巨体な灰色の熊。ギガントグリズリーは鋭い爪を持った手のひらで、狼を凪ぎ飛ばす。
凪ぎ飛ばされた狼は咲希の後方を一瞬にしてとおりすぎ、花梨の目と鼻の先へ。
咲希は強く地面を一蹴りして、バックステップで近付いて振り向き。
ギガントグリズリーは追いかけ手の爪を、咲希の頭上から背中へ。
炎翼の指輪の魔力を纏った花梨は地面を一蹴りして両手で咲希を突き飛ばした。
ぎりぎりのところでギガントグリズリーが振り落とした攻撃は、空を切る。
花梨は二匹の狼を引き付けて後方へ、その牙を手に纏った炎の翼で防ぐ。
「狼の方はわたしに任せて大丈夫だから」
「魔力ゼロのクセして、でしゃばりすぎです。助かりましたけど。だけどーー」
咲希としては一人で両方とも相手をしたかったが、相手が思った以上に強い。
炎翼の指輪の魔力を借りているといっても今は魔力ゼロ。
そうなると自然と選択は限られてくる。
「逃げましょう。わたしが甘かったです」
咲希はそう言ってから魔法陣を描いて、
「魔法陣にとおすは、火属性。炎よ壁となり燃え上がれ」
詠唱する。
巨大な炎の壁がギガントグリズリーの前方の通路を塞ぎ、咲希は左右の炎のナイフで残り二匹の狼を一瞬で切り裂き、花梨の腕をつかんで走り出す。
「わたしは、てっきり逃げずに戦うと思ったんだけど」
「そもそもそういう判断も出来ないと、Aランクは無理です。独りならまだしも。いや、独りでも状況によって逃げないといけない強敵です。というか走りながら喋りますと、舌を、噛み……ますよ」
咲希の目はうっすらと涙がにじんでいる。
「噛んでいるの咲希ちゃんの方じゃない?」
「……そっ……そんな余計な突っ込みはいらないです……というかさん付けはいらないと言いましたが、いきなりちゃん付けは……」
「照れちゃうんだね……」
咲希は花梨の性格を諦めてなにも言い返さず、周りを警戒しつつも逃げることに専念する。いざという時は花梨を守れるように。
道が人の字の形で分かれている前で咲希は立ち止まり、
「あれ、どっちから来ましたけ?」
花梨も立ち止まる。
「んとっ? どっちだったかな?」
「ものすごく嫌な足音がせまっているです。迷っている暇はないです。勘ですが、右に進みましょう」
「分かった。右だね」
花梨は駆け出し、咲希も駆け出す。そのまま駆けるがその先は行き止まりだった。
あせるにあせる咲希。つられて花梨もあせるにあせる。
あせりまくって引き返すが二人の予想どおり、ギカントグリズリーが行く手をはばむ。さらには赤黒い眼をもつ狼も一匹増えていた。
逃げられない。
咲希も花梨もそう判断するしかない。
危機的状況に咲希はすぐに行動を起こせないでいたが、花梨は違った。出力を上げた炎翼の指輪の魔力を纏いギガントグリズリーの横を一瞬にして通りすぎ、狼の顔面へ握りこぶしを叩き込んでいたからだ。
ダメージはそこまでなかったが、めんくらった狼は後ずさる。
「ギガントグリズリーの方は任せたね」
まったく予想できなかった行動。その速さに驚いて返事が遅れる咲希。
「なら、そっちの方は任せたですよ。けど、無理はしないでください」
咲希に残された道は、全力でなるべく早くギガントグリズリーを倒して狼を片付けるしかない。
そういう思い込みがあるが咲希は知らない。
本当のところ花梨は狼とギガントグリズリーぐらい余裕で倒せるのだが、咲希の実力が見たくってわざと手を抜いているということを。
今。ギガントグリズリーの殺気は咲希に向けらているが、いつ花梨へ動く分からない。
一撃くらっただけで分かったギガントグリズリーの強さ。
全身から汗が吹き出し流れ、緊張が走る。
咲希は宙に魔法陣を描いて、
「魔法陣にとおすは、火属性。収束せよ炎よ」
詠唱。
すると咲希の頭上に2メートル以上はある炎が浮かび、それは小さく小さく収束していく。
数ミリまで圧縮された炎は、ふわりと右の手のひらの上へ。浮遊。一瞬だけ動きを止め、弾丸のようなスピードでギガントグリズリーへ。
まったく防御をしないギガントグリズリーのどてっ腹へ直撃し、その炎がはじけ赤い閃光と爆音を発した。
瞬間、その二つを隠れみのとして小咲希が駆け、左右の炎のナイフでギガントグリズリーの焦げたどてっ腹を切り付けた。さらにそこへ右回し蹴りを放つ。
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