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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。

*五十・花梨の再出発と新たなパートナー

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 花梨かりんは、元もとは月属性を扱えるだけの普通の女の子だった。
 戦斧とパーティーを組んでいた時は過酷だった時期もあったが、途中で運命の流れは大きく変わった。

 原因は、異世界転移者の野村西尾との出会い。

 貴族ではないのに名字があることから異世界転移者というのはすぐに分かったが、西尾がその身に宿していた異世界の魔力はまったく想定外だった。

 とあるきっかけから花梨は死にかけ西尾から異世界の異質な魔力を譲り受けてーー
 異世界の魔法をーー異世界の陣と言霊を目にした花梨はなかなかそれを呑み込めなかった。無理もない、花梨の住む世界には存在するはずないの異世界の魔力なのだから。 

 だが決めたことがある。
 西尾お兄ちゃんのお嫁さんになる。

 花梨が宿す月属性は、火・水・風・土と比べると明らかに利便性の薄い落ちこぼれ属性だった。
 異質な魔力に気付いてないだけなのだが、“魔力ゼロ”で魔法を扱う西尾お兄ちゃんの姿は輝いてみえた。めちゃめちゃかっこ良かった。花梨には一筋ひとすじの希望にも見えた。

 その後、花梨はゲームにはまりながらも普通に過ごしていたがーー元もとあった自身の月属性は消滅した。

 ギルド巡礼でその噂はまたたく間に広がり、花梨のランクは前より下げざるを得ないと判断する。
 そして花梨は今、ギルド巡礼で正式な魔力検査を受けるために水晶玉の前にいた。

「その水晶玉に魔力を流してみて」

 ギルド巡礼の受付嬢にそう言われて、花梨は水晶玉に触れて異質な魔力を流す。
 けれども反応はない。
 花梨が住む赤い月が浮かぶ異世界の魔力と、西尾から譲り受けた蒼い月が浮かぶ異世界の魔力はまったくの別物。交流もなければ、互いに存在すら知られていない世界の魔力だ。今は月属性も失っている。

 当然、水晶玉は反応しなかった。

 赤い月が浮かぶ世界は、魔法や魔力でさまざまな技術を支えている。よって魔力がないということは、月属性以上の落ちこぼれを意味する。

 だけど花梨自身の性格から評判は悪くなく応援する者は多い。
 それ以外にも、
「役立たずの月属性のみしかなかったが、とうとう魔力まで失ってしまったか可哀想なもんだな」「魔力ゼロの癖して生意気だろぉ」「応援はしたいが戦力にはならないな」色いろな声が花梨の耳には入っていた。

 受付嬢は平静な表情で、花梨をEランク初級まで降格させる。救いだったのは、花梨が闘気術を扱えるため冒険者の権利を剥奪はくだつされなかったことのみ。

 *

「やっぱり、なんかしゃくに触るな。誰もわたしと組もうとしない。魔力ゼロだと馬鹿……実力不足だと認識されているのかな?」

 独り言をもらした花梨。
 依頼を受けようにも、魔力がゼロの花梨と組む人はいない。それは最低ランクの花梨にはかなりの痛手だ。
 ある程度危険だと判断した依頼は受付嬢が許可をしない。周りの人達も受付嬢に賛同する。
 花梨の夢は西尾との結婚だから、Eランク初級だとあまりにもかっこ悪すぎる。

 とあるきっかけから、ある意味強引と言っても差し支えないレベルで既に花梨は西尾お兄ちゃんと結婚する約束をしている。
 条件は、西尾お兄ちゃんが周りから認められるとだが。

 遠くない将来それは叶うはずだ。

 だって西尾お兄ちゃんの実力は本物だから。西尾お兄ちゃんがどんなに否定しても、時がたてば嫌でもその実力を認めざるを得ない時期は来るはずだ。だから今は、西尾お兄ちゃんのことは置いておくとして。
 まずは、最低ランクのEランク初級まで落ちてしまった現状を打破しないといけないだろう。 

 花梨のいる個室のドアを開けて、ギルド巡礼・トップクラスの実力者でSSSランク・氷と風の狩人の二つ名を持つ森川早苗もりかわ・さなえが近寄って来た。西尾同様、異世界転移者で。西尾と幼馴染みでもある。

 紫の服と真っ黒なロングスカートを身に付けている早苗という女性は、西尾より一つ年上。つやのある黒髪はショートカット。身長は花梨よりちょっとだけ高いだけでそう変わらなく、どちらも幼児なみに低い。

 現在の年齢は早苗と西尾が十九才、花梨が十七才だ。

 現状、SSSランクの早苗と、魔力ゼロでBランク上級止まりと噂される西尾の実力は互角だ。いや時と場合では西尾の方が強かったりもするが、逆も多い。

 花梨の実力はその二人に認められている。
  
「実力だけはあるんだから花梨さえその気になったら、どこかの誰かさんと違ってランクなんてすぐに上がるわよ。それと、わたしのとある目的に協力して欲しいの」

「だけど早苗さん、魔力ゼロといわれる現状がこんなにもやりづらいものだと思ってなかったよ。ある意味必要以上に皆が過保護になったり、馬鹿にされたり」

「そこらへんは、きちんと考えているから大丈夫よ」
 
 早苗はマホスマホをローブの内ポケットから取り出して、マホラインを送る。

「早苗さん、入りま~す」

 語尾に♪が付きそうな軽い返事をして中に入って来たのは、小柄な女の子だ。
 年齢は花梨と同じ十七才。背丈は早苗や花梨よりはるかに高いが、年相応だろう。花梨と早苗が低すぎるからだ。ぱっちりお目目で童顔。明るめの赤茶の髪は腰まで伸びており、紺色のカチューシャで後ろにまとめている。まとっているのは真っ黒なローブだ。
 少女は花梨をちょっとだけ見つめて頭を下げた。

「初めまして、咲希さきといいます。ところで、本当に魔力は失ったんですか?」

「まあ……そうかな。元もとあった魔力は全部失ってしまったよ」
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