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第一章・夢はゲームで叶えよう花梨と芽衣と小百合の冒険譚

*四十四・喉元すぎれば熱さを忘れる

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 リゼがバーサク系統の魔法は使うなと伝える前に、ソフィアが不意打ちで言う。

「んじゃ始めましょうか」

 まともに戦えば勝率はほとんどない。
 だからこそパーティー単位で意識は失うが、個人の戦闘力が10倍以上にはね上がるミナギガバーサクにかける。覚えたての魔法だがランク500相手にはそれしかない。
 ソフィアは馬ヤロウの超激レアがめちゃめちゃ欲しかった。勝利して後腐れなくリゼから貰う為に手段は選ばない。それがソフィアだ。

 魔法陣を描いて、
「魔法陣にとおすは、月属性と火属性。火と風よ我に力を」
 詠唱する。

 途中でリゼが「ま、待て」と言った気がしたが、ソフィアは聞かなかったことにした。負けるのが嫌だったからだ。廃人相手に出ししみはしてられない。安全システムの異常というのも信じられなかったからだ。リゼのことだから、リゼの勘違いだろう。普段のおこないからリゼはそんなイメージしかもたれなかった。

 全身から力がみなぎり。
 リゼとソフィアとリヴァイの意識は途絶えた。

 ーーリゼとソフィアとリヴァイは、巨大な竜の形態へ。
 大きく息を吸い込んで、巨大なブレスを吐いた。

 小春はとっさに自身らを包み込む直径5メートルの巨大なドームを形成。

「やっぱりもしかして本当? ヤバい状況? やっぱり、普通ゲーム内でここまで傷付かないよね」

 瑠璃が肯定する。

「信じてくれて、ありがとうございます。お願いします助けてください」

 小春は即答。
「ん。いいよ」
 花梨も即答する。
「わたしもいいよ」

 戦斧の表情が思わず変わる。

「えっいいのか? しかも即答……いや俺は別か……」

 花梨は深く考えずに言う。

「えっ? 何を言ってるの? 皆で力を合わせてピンチを乗り切ろうよ」

 軽い。
 あまりに軽すぎる。
 戦斧は、花梨に対して何をしたか分かっているつもりだ。
 
 西尾が自身の命を削ったことまでは知らないが、普通なら許されるものではないはずだ。
 花梨は一度、絶望の闇に包まれていたはずだった。

 止まる気配のない猛攻を耐えながら萌衣は、勘違いした萌衣の中だけの真実を打ち明ける。 

「通常じゃあり得ない程の月属性の魔力。封印を解いて自身の命を削ってまで、花梨へ生命そのものと魔力の核のすべてを分け与えたんだから。普通ならいつまでも許さない人もいるかもしれないけど、花梨は、花梨だからね」

 それは早苗が、芽衣へ理解が出来るだろう範囲で意味を端折はしおって説明した結果だ。そのまま異世界の魔力を説明しても混乱するだけだろうから。西尾や花梨がその場にいるなら全てを説明しても良かったかもしれないが、時期が違った。

 この勘違いは、お馬鹿な花梨でも察した。西尾お兄ちゃんと自身の異世界の魔力は異質すぎるのだから。
 小春の性格からして、あの時、あれだけ泣いてしまった理由をほかの人へ説明しても不自然ではない。後の細かいことは、早苗さんか西尾お兄ちゃんに聞いたのだろう。

 だけど花梨は、なんとなくそれがむず痒い。

「萌衣ちゃん微妙に勘違いしてるよ。西尾お兄ちゃんは魔力の核の方は、ちょっとしか分け与えてないよ」

 萌衣は嘘としか思えなかった。
 天界人と魔族の血の力を受け継いで、魔力は普通の人より敏感に感じ取れるし勘も優れているからだ。その萌衣ですら魔力がまったく感じ取れないのだから。 

「西尾さんは現状魔力ゼロ。それは間違いはずだよ」

 寿命が縮んで魔力まで完全に失ったとなれば、原因を作った戦斧への怒りは計り知れないはずだ。
 あれ程泣いていたのにそれをあっさり許す花梨は、馬鹿にしか思えない。

 萌衣は自身の過去と重ねて感傷に浸りそうになるが、状況がそれを許さない。  

 猛攻を止めない巨大な竜らは、小春の結界に小さなヒビを入れた。 

「ごめん。ちょっとこの攻撃厳しいかも……」

 結界は小春が気合いで修復させる。
 花梨は結界の外へ出る。

「こりゃやるしかないね……巨大なトカゲ退治を」

 膨大な異世界の魔力が込められた結界にヒビが入った事実に、全力じゃないと無理だと判断する。

 花梨は月属性の魔力と異質な魔力を合成。
 右の小指は炎翼の指輪へ。
 左の小指は氷翼の指輪へ。
 左右の氷翼指輪と炎翼の指輪へ、自身の異質な魔力と月属性の魔力を合成して注ぎ込みーー背中へ自身を包み隠せそうな程に大きな蒼白い翼を作り上げた。 

 萌衣が反応する。

「花梨、もしかして相手は予想以上に強いの?」

「小春ちゃんの結界にヒビを入れているからね。あれ恐らくめちゃめちゃかたいよ。魔力の込められかたが半端ないもん」

「えっ?」

 萌衣はそう返したのは無理もない。
 花梨は異質な魔力のナイフを両手に形成し、リゼの爪による攻撃を受け止めた。

「説明は後」

「そうだね……ボクも加勢する」

 リヴァイ・緑色の風竜を含み10メートルを越える巨体だ。
 花梨も萌衣も二体を同時に相手をするのはきびしい。 

 ゆえに花梨も萌衣もいきなりの全力だ。
 
 萌衣は右の小指には風翼ふうよくの指輪を。
 左の小指には土翼どよくの指輪を。
 左右の土翼指輪と風翼の指輪へ、自身の月属性の魔力を注ぎ込みーー背中へ自身を包み隠せそうな程に大きな微かに赤みを帯びた白い翼を作り上げた。 

 花梨と萌衣はそれぞれ特殊な魔力を放出、大気中に漂う魔力を巻き込み左右の指輪へ循環させ始める。 

 花梨は大剣・ロリ真夢剛竜剣を握り構え。
 萌衣はナイフ状の百合真夢剛竜剣を握り構え。 
 地を蹴り空を駆けーー
 花梨はリゼという赤く巨大な火竜へ。
 萌衣はソフィアという蒼く巨大な水竜へ。
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