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第一章・夢はゲームで叶えよう花梨と芽衣と小百合の冒険譚
*二十八・落風の試練・一回戦目へ
しおりを挟む西尾の顔は所どころ赤くはれていたが彰は訊かなかった。
早苗の笑顔に、何かしら良く分からない恐怖を感じたからだ。
「久しぶりね、彰……朝早くからごめんなさい……ちょっとその花梨って言う人に話さないといけないことがあってね。そうよね西尾君?」
「……です早苗さん」
食事の手が止まっている花梨の前に来て、西尾は土下座をした。
「花梨ちゃんごめんなさい。俺が寿命を削ってしまったことを黙ってて、悪かった! 昨日のマホデンもいきなり切って悪かった!」
「いいよ。昨日のマホデンはともかく……西尾お兄ちゃんは悪くないんだから、悪いのはわたしだから」
彰や小夜・萌衣や小百合・夕維は意味が良く分からない。
彰と小夜は昔、リアルで風の洞窟の手前までパーティーを組んでいた仲だ。
彰は説明を求める。
「朝早くからいきなり来て、その女の子に土下座をする意味がさっぱりなんだが? 確かに朝からいつもと様子が違っていたけど、説明ぐらいあってもいいんじゃないか? 昔パーティーを組んだ仲だろ西尾」
小夜も続く。
「わたしも説明を求める」
それに反応したのは早苗だ。
「ごめんなさいその話は後でお願い」
花梨は、明け方にやっと泣き止んで赤くなった目から再び涙を流して……涙が止まらない。
「わたし許せない。あの二人は、殺してやりたい!」
「俺も許せとは言わない。だけど殺そうとか馬鹿な事は考えるな。前も教えただろ? 復讐したところで意外と心は晴れないものだって」
「だけど、わたし!」
「心は晴れないし後悔するだけだぞ……可能な限り花梨のお願いなら聞くからさぁ」
「んじゃ……わたしと結婚してくれる?」
「それは話が飛躍しすぎだ。俺なんかよりいい男は沢山いるぞ」
「……西尾お兄ちゃんは花梨のこと、嫌い?」
「いや好きだぞ」
「だったら結婚して」
花梨のお願いはあまりにも飛躍しすぎだ。
西尾は自分のような駄目なやつと結婚しては駄目だと思う。
だけど花梨は真っ赤な顔で涙を流しながら懇願する。ちょっと上を向いたその顔は可愛いかった。
西尾はつい照れる。
「だからその感情は、家族とか兄弟愛とかそういうものを勘違いしてるだけだと思うぞ?」
「違うもん花梨、西尾お兄ちゃん大好きだもん!」
……西尾は返事に困ってしまった。
「……そうだ三日後リアルで魔法感謝祭があるから、一緒に行こう。祭りに行けば、憂さ晴らしになるだろうし」
「本当、西尾お兄ちゃん?」
「あっあ。ほんとだ」
花梨はバンザイをした。
「やったー! 約束だからね西尾お兄ちゃん!」
両手を上げたままウキウキだ。
花梨の機嫌が直ってホッとした西尾だった。
彰は最初の疑問点が引っ掛かったままだったが、とりあえず西尾の肩に手を置いた。
「なんか良く分からないが、西尾お前はロリコンだったんだな。俺は詳しくことはもう訊かねぇよ。三日後、デート頑張れよ」
彰の台詞に小夜も続く。
「わたしも応援するから、デート頑張れ。三日後も応援するからロリコン」
何だか疲れた西尾はガックリと肩を落とした。
西尾と早苗はギルド・巡礼へ帰り、花梨達は再び落風の洞窟へ。
萌衣は落風の試練の道チキチキトーナメント戦を勝ち進み、試練を受ける権利を得た。
*
萌衣は試練の魔法陣に足を踏み入れると、上半身だけ岩の巨人・高さ2メートル以上、横幅ゴーレム1メートル50センチ・ジャアイントゴーレムが地中から現れた。
移動は出来ないが相手を自身の体に引き付ける『引き寄せ』を使い、身体も堅い強敵だ。
ーー萌衣は圧倒的な強さでここまで勝ち進んだ。
萌衣が負ければトーナメント戦で三戦目でまけた人達にもチャンスはある。
トーナメント戦が終わればそのバトルフィールドは自由解放しているので、気になった相手と模擬戦をする人もそれなりにいるが試練を観戦する人も多い。
観戦する人はいつも多いが昨日より更に多かった。そして今日も多かった。
何故かと説明すると、落風の洞窟の風の流れとゴーレムの引き寄せ。
洞窟の内の風の流れとゴーレムの引き寄せる風がぶつかり合い、試練を受ける者が動く時に自然と流れる大気の流れ。
それらの要素が混ざり合いスカートがめくれやすいのだ。
スパッツ装備で防御するのがセオリーだが中にはその知識がない人もいたり、それどころか下着が見えることを気にしない女性もいたりする。
実力はあっても小春はランク1。
萌衣もランク1。ランク1ということ以外何も知らない人達からしたら、昨日の小春のようにスパッツを装備してない可能性が高かった。
更には萌衣のアバター装備は竜の魔法使い。パフスリーブで裾の短く白いワンピースだ。構造上、上昇気流とかの影響を受けやすく裾も短いから確立は倍増だ。
それがいつもより観客が多い理由だ。
萌衣は圧倒的な強さで勝ち進んだ為ちょっとした優越感に浸り、竜の魔法使いのアバター装備の特性を忘れていた。
ーージャアイントゴーレムとの勝負は一瞬だったが、萌衣は自身が思い切りパンモロしたことに気付かなかった。
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