上 下
8 / 99
第一章・夢はゲームで叶えよう花梨と芽衣と小百合の冒険譚

*八・マイナスお兄ちゃん

しおりを挟む
  
 彼女の見つめる先は何故かドヤ顔の花梨と、チンピラお兄ちゃんだ。

「小百合……お前は……俺を応援に来たのか? それとも……おちょくりに来たのか? どっちなんだ?」

「そんなの、おちょ……応援に来たに決まってるでしょう。チンピラお兄ちゃん」

「……すまん花梨……ちょっとタイムだ」

 花梨は笑いそうになったが、グっと堪えた。せっかく作り上げたシリアスな雰囲気が壊れそうになったからだ。
“シリアスは布石”。
 ギャグの匂いがする彼女へ彼を向かわせては駄目だ。

「逃げるの?」

 チンピラ・涼は負けず嫌いだった。相手はDランク上級の魔力を封印した落ちこぼれ。馬鹿にされた気分だ。
 チンピラは妹への台詞を、グっと堪えて台詞を返す。

「……それは俺の台詞だ。よく逃げずに来たな。それだけは誉めてやるよ」

 花梨も負けじと返す。

「あら嫌だ。それ、まるでやられ役のかませ犬のテンプレの台詞だよね。わたしをあまりめないことだよ」

 花梨は自信満まんに右の小指の一つの指輪を見せ付けて、言葉を続ける。

「この火魔の指輪ですぐにやっつけてあげるから」

 試合は開始された。
 ーーけれども花梨が指輪から放つ小さな炎の固まりは当たらない。
 やっぱり闘気を混ぜてやがるな。俺が気付かないとでも思ったか。だけど、あめぇ~~よ!
 チンピラは余裕で避け続ける。

 それは花梨の計画範囲内。

「あ、当たりさえ、すれば」

「だったら、当ててみるか?」

「え? いいの?」

「俺は動かないから、よく狙えよ」

「言ったね。だったらわたしの全力全開、逃げずにちゃんと受け止めて。言っとくけど、ホントに遠慮なしの全力全開攻撃だから覚悟しなさいよ」

 花梨は指輪へ込める闘気をさっきよりちょっと増やす。全力の十分の一ぐらいの量で。異質な全魔力は全解放する。

 チンピラは静かに体内の魔力を高める。
 闘気を混ぜた魔力に気付かない俺が油断してやられる筋書きだろうが、そうは問屋がおろさないぜ。

 花梨は指輪を振るう。指輪から小さな炎の固まりを放って、チンピラに当たる直前に異質な魔力のみを一気にはじけさせた。

 異質な魔力の一撃はチンピラの防御を容易たやすく撃ち破った。
 ペンダントはダメージ自体は吸収しても感触はそのまま伝わるので、チンピラは気を失った。

 花梨はVサインで微笑んだ。

「勝負ありだね」

 ーー床に大の字になったチンピラはすぐに目を覚ました。

「……負けたのか。花梨……魔力ゼロを馬鹿にして悪かったな。恐らくは、当たる直前に闘気を爆発的に高めたんだろう」

 清すがしいチンピラに対してどや顔の花梨。

「油断大敵というヤツだね。わたしも、チンピラって言って悪かったかも」

「そんなに気にする程の事でも、ねぇえよ。それに油断……もしかしたら、油断をしていたのかもな」

 言い訳は見苦しいだろう。それに小百合も見ているしな……
 ここまでは清すがしかったチンピラだが、
「これからは、マイナスって呼ぶね」
 花梨のこの台詞には表情を崩すしかなかった。
「……ちょっと待て、どうしてマイナスなんだ?」

「そんなの決まってるじゃん。魔力ゼロより下は、当然マイナスだからだよ」

「お願いだから、それだけはご勘弁を」

「何を」

 花梨が許すはずがない。
 さらには、周りにいる人達がチンピラの心を遠慮なしにえぐりまくる。 

「マイナス元気だったか」「マイナス久しぶりだな」「マイナス。まあ、頑張れ」

 花梨の読み通りだ。
 だからこそシリアスを布石にしたのだ。そうしたら周りは絶対に反応するはず。西尾お兄ちゃん馬鹿にしたチンピラへ復讐。シリアスから一気に堕とす為に。
 普段は頭悪い花梨だが、何故かそういう計画だけは一瞬で組み立てていた。

 マイナスの実の妹の小百合はというと、マイナスコールあふれる観衆の中で一番萌えていた。 

 チンピラお兄ちゃんは、チンピラを卒業。これからはマイナスお兄ちゃんに生まれ変わる。帰ってからマホスマホでこっそりと録画していた動画を、マホパソコンで編集しないと……タイトルは、チンピラからマイナスへの軌跡きせきで良いかな? んで、花梨お姉さんのお嫁さんになる。

 花梨の強さに萌えた小百合。だが花梨のお嫁さん第一候補は西尾お兄ちゃんだ。第二候補は早苗さん。その壁は厚いはずだ。

 観衆の中に混じっていた萌衣ーー萌衣で思う事があった。 

 闘気を一瞬だけ爆発的に高めたのか? 恐らく違うはずだ。……血の力は感じられないけど……花梨の奥底には、天界人と魔族の血が眠っているはず。それがどのように作用したか分からないけど、それしか説明のしようがない。

 最悪。

 その血の力が暴走したら……ボクは魔族の血のみだったから暴走したけど……魔族の血が強ければ、充分に暴走する可能性がある。自覚しているにしろ、自覚してないにしろ危険だ。花梨自身も。
 これは師匠から血の力を譲り受けたボクが見守る必要があるな。

 萌衣の推理はまったく的外れなまま最後まで突っ走ってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

処理中です...