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第一章・夢はゲームで叶えよう花梨と芽衣と小百合の冒険譚

*一・追放

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 風の洞窟の入口近くの草原。

 そこには二本のナイフを二本の鞘におさめた軽装の男性と、武具らしき物をほぼ装備してないとある男性と、女性の三人がいた。

 二本のナイフを二つの鞘におさめた軽装の男性の視線は真っ直ぐで、とある男性を見つめている。

「残念だがここまでだ。この先は、お前にはキツい。それに夜も近いしな」

「それじゃ仕方ないですね。俺抜けます。どう考えても、昼より夜の方が危険だったりしますもんね」
 
 軽装の男性の隣にいる、杖を背負う女性は無表情。いや、微かに意外そうな表情が浮かんでいる。

「いやにあっさり逆に拍子抜け。現時点での実力ならわたしと大差ないのに……」

「闘気術だけでBランクになったプライドはありそうなもんだけどな」

 軽装の男性のランクはBランク。初級・中級・上級の三段階のうち、上級成り立て。
 対する、とある男性はBランク初級。但し、中級に限りなく近い。

「俺そういうのないんで。俺知ってるんですよ。魔力ゼロだから限界があるだろうって、そういう話」

 無表情の女性はBランク中級成り立て。内心はかなり動揺しているが。

「……知ってたの?」

「上手く隠せるとでも思っていたんですか? 俺を思ってでしょうけど」

「……まあ、お前なら他のところでも上手くやれるさ」

「というか俺がいると、Aランクに駆け上がったら邪魔でしょう。先輩らは肩書き抜きにしたら、パーティー単位の実力ならAランクはありそうなんで」

「確かにそれは否定出来ない。だけどそれは、西尾がいたからの話。西尾……お前抜きだとこのパーティーは、Bランク成り立てぐらいの実力しかない。本当なら連れて行きたい」

 西尾と呼ばれた彼は、異世界転移者。魔力も戦うすべもない。そう周りから思われていたが闘気術を覚え、それは一年で逆転した。
 異世界転移。最低のEランク初級~上級。D~C~Bランク初級へ。現在十七才だ。

 西尾の実力は本物。魔力さえあったら、その上のAランク。さらにその上である最高のSランクにさえ手が届くだろうと噂もされている。
 だけど、

「俺は魔力がないから周りからの圧力もあるでしょう」

「……それは結局。単なる俺達の我が儘だぞ。普通なら恨まれるところだ」

「先輩らしいですね」

「餞別だ。貰って行け」

「風竜の指輪か……いいんですか? これ、お高いですよ」

「お前は魔力がゼロだからな。俺のパーティーを抜けるとなると、根も葉もない噂が立つかもしれないからな。その時にトラブル巻き込まれる可能性を考慮してだ」

「けど逆に魔力ゼロが使うには過ぎた代物って、絡まれる可能性も……だから遠慮しときます。それにやっぱり高い品物ですし」

「そういう奴らは魔力ゼロでBランクという時点で、たいてい絡むから心配するな。あった方がいい持って行け」

「そういう事。だから、遠慮はいらない」 

「……お前は、実はどこかに魔力が眠っているんじゃあ……そう俺はたまに妄想すんだよ。俺はその確率はかなり高いと思っている。もしお前の実力で魔力まであるなら、俺達のパーティーだったら力不足だしな。まあ……言い訳にしかならないか」

「色いろ考えているんですね……なら遠慮なく貰って行きますよ。先輩ありがとうございます。使い方は俺の自由にさせて貰います」

 女性は無表情から微かな笑みを浮かべて。

「当たり前」 

「最後に俺からアドバイスだ。ギルド・巡礼、そこに行け」

 軽装の男性の視線は真っ直ぐだった。

 *

 ギルド巡礼の広間。
 魔力ゼロの西尾からしてみたらギルド・巡礼は馴染みのある場所だった。
 幼馴染みの森川早苗がいるから。早苗も異世界転移者だ。魔法がまったく存在しない世界からの。西尾と同じ十七才。
 早苗も最初の頃は色いろと大変だったが、ギルド・巡礼トップクラスの実力者となる。ランクは最高のSランク・初級。

 ギルド巡礼最高実力者の早苗は視線を、胸当てを身に付けた屈強な戦士二人・戦斧せんふと陣、白いローブをまとう銀髪の少女・花梨かりん、魔力ゼロの西尾へと流す。
 
 その中で一名だけ顔がちょっと赤く染まった。

 花梨だ。

 花梨は、早苗に強い憧れを持っているから。Cランク成り立ての花梨からしてみたらまだ遠くの存在で。紫のローブを纏うその姿は、自身と同じように背丈が幼児なみに低いから親近感も湧く。早苗より二才年下の十五才だが。

 早苗から西尾は幼馴染みだからと聞かされていたが、花梨は魔力がゼロだと思ってなかった。

「早苗さん。その人、魔力ゼロですよね? 大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫よ。アナタより強いから」

「そうかもしれないですが」

 巨大な斧を背負う屈強な戦士の一人が、がははと笑う。 

「まあBランク初級なんだから、そこそこは使えるだろう。少なくともそこら辺りの雑魚より。花梨は所詮しょせん物持ちだからな。んで、西尾だったか」

「ですよ」

「西尾お前は、花梨の護衛な。陣は俺のサポートだ」

「了解した。しかしそこの彼は、魔力がゼロで本当に使えるのか?」

 西尾はちょっと昔なら、魔力がゼロで悪かったなと即答していたかもしれないが、今は慣れて自信ありげな笑みを浮かべているだけだ。

「それなりに役には立ってみせますよ」

 早苗は丁寧に頭を下げた。

「なら決まりね。ギトグリズリー退治の依頼宜しく頼みます、戦斧せんふさん」

「ああ任せとけ。まあ、大船に乗ったつもりでいろ」
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