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Act 13.邂逅する小鳥

言い逃れ2

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「本当に寛人なの?」

 今度は振り向かず、屋上の扉に向かって歩き出す。

「ちょっと待って、寛っ!」

 肩を大きく引かれた。懇願するような、不安なような、何かに縋るようなその瞳に一瞬で心奪われる。

「あの…理事長、誰かと勘違いしてませんか?」

 自分の声なのにそうじゃないみたいに、声が震えていた。

「俺が寛を間違えるはずないよ」

「……」

「君、寛人なんでしょ?」

「……」

 何も答えられなかった。そうだよ、と一言言えばいいはずなのに、実際に秘密が暴かれれば、呆然と立ち竦む。

「あの屋上の話、俺と寛しか知っているはずないんだ」

「でも、薫に……」

「寛があの話を家族にするはずない。だから、君と俺以外知っているはずがないんだよ、寛。」

 そこまで言われれば、もう認めるしかなかった。確かにその通りで、屋上の話を俺が家族にするはずなんかないんだ。本当に隆二は俺のことをよくわかっている。

「バスケしている姿も、寛の墓で会った時も、清水寺の時も、何度ももしかしたらって思った。でもその度に、死んだ人が生まれ変わるなんてありえない、他人の空似だって、何度だって否定してきた。けどね、初めて会ったあの時からずっと、心が、魂が、君が寛だって、そう言ってやまないんだ」

「隆二…」

「会いたかったっ……」

 強く抱き締められた。その衝撃に、麦わら帽子がポトリと地面に落ちた。

「まさか、もう一度君に会えるなんてっ……夢みたいだ」

「でも、もう俺は寛人じゃない」

「どんな姿だっていい。もう一度、会えるだけで」

「でも、お前俺に会いたくないって」

 会えて嬉しいはずなのに、出てくるのはそんな皮肉めいた言葉ばかりだった。自分の中の保険。本当にずるいと思う。けど、そう聞かずにはいれなかった。

「こんな僕、見て欲しくなかった。毎月寛に会いに行って、結局結婚も出来なかった僕なんか、見ても落胆するだけだろう」

「落胆なんかしない。隆二は仕事もしてるし、その....指輪つけてるってことはそういう人がいるんじゃないのか」

「寛人との約束は、ちゃんと結婚するってことだっただろ?もし寛人が僕のことを空から見つけて、この指輪を見たら安心出来るかなって。そう考えて作ったんだ」

 作ったと聞いて、隆二のずるさが懐かしく思えた。そうだ。なんでも出来て運動神経も抜群で、勉強もできるこの幼馴染は、たまにずるいことを平然とやってのけることがある。最短ルートと問われれば、そうだし、人が思いつかなかった方法で簡単にやってのけるから、俺からしたらずるいと思っていたこともあったぐらいだ。

「ばか」

「うん。バカだよ。寛人が居なくなって、どうでもよくなってしまったんだ。高城の箱はそれに丁度よかったってだけで、仕事をやっているときだけは辛いことを忘れられたから」

「本当にばかだよ」

「うん。そうだね。それでも君が好きだったから。君のことを忘れるなんて僕には無理だったから」

「……ばか」

 最後は言葉にならなかった。涙が溢れてきて、前が見えなくて。抱きしめられたその腕に、自分の手を重ねて、肩に顔を埋めた。
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