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Act 13.邂逅する小鳥
言い逃れ
しおりを挟む「理事長、知っていてくださったんですか……」
「勿論。そろそろ授業始まる頃だね。今日は授業はいいから、部屋でゆっくり休みなさい」
「はい」
その時屋上の扉が慌ただしく開いた。
「翔吾!!」
日下が呼んできてくれたのか、生徒を呼ぶ、同じく小柄な生徒が屋上に飛び込んできた。
「陸……」
翔吾と呼ばれた生徒はまた泣いていた。そして、そのまま陸と呼ばれた生徒に見ている限り全力で抱きしめられていた。
「何馬鹿なこと考えてるんだよ。心臓止まるかと思っただろ! もう絶対こんなこと考えるなよ。考える前に俺に絶対相談してよ。じゃないと、俺一生後悔する……」
「ごめん……陸……」
ボロボロと涙が後から後から溢れでているようだった。寛人の時の自分もそうだったなぁと。俺もああやって隆二に抱きしめられて、泣けるだけ泣いたっけ。
「今日は1日付き添ってあげてくれる?」
隆二が入ってきた生徒にそういうと、陸と呼ばれた生徒は強く頷いた。
「それでは、失礼します」
「気をつけて帰るんだよ」
「「はい」」
強く手を握り、翔吾と呼ばれたその生徒を引っ張って二人は屋上を後にした。
「じゃあ、俺も授業があるので失礼します」と頭を下げた。
パンパンと手の汚れを叩く動作をして、隆二が帽子を被りなおす。
「小鳥遊くんはちょっと残ってくれるかな」
「え?」
何が残っているのだろうか。隆二の真面目な声に少しヒヤっとする。
出席日数がそろそろ足りなくなってきたのだろうか。それとも今回の指示で何か悪いところでもあっただろうか。逡巡していた内容とは全く別のことが隆二の口から出てくる。
「ねえ、今の話、誰から聞いたの?」
「え……?」
いつから聞いていたんだろうか。俺は何を話していた?
ぐるぐると混乱し始める脳内。
「地区で有名だった選手だったんだよね? 名前は?」
被っている麦わら帽子がこの場にとても不釣り合いだった。農作業でもしていたのか、ズボンもスラックスではなく、ジャージを着ている。そんなアンバランスさを感じさせない強い問いにたじろいだ。
「あの、…知りません」
苦しい言い訳。
「じゃあ、誰からあの話聞いたの?」
「……薫、…水無瀬君から」
「今の人の話、薫くんから聞いたってことは、水無瀬寛人ってことだよね?」
「すみません。人伝いで聞いた話なので、そこまでは……」
「そっか、引き止めちゃってごめんね」
「いえ、大丈夫です。失礼します」
薫からの話ということで納得してくれたのか、ホッと内心胸をなでおろして踵を返す。
この時俺はうまく言い逃れできたと思って、油断していたのだ。そこを隆二が見逃すはずがなかった。
「寛!」
名前を呼ばれ、反射的に振り返ってしまったのだ。
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