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Act 12.古都に舞う鳥
聞きたかったこと、聞けなかったこと。
しおりを挟む俺も覚えてるよ。
その一言が出てくるはずもなく、「そう、なんですか……」と頷いた。
「こんな話をされても困ったよね。中年男の戯言として、流してくれると嬉しいな」
もう一度会いたくない。
そう言ったその口で、今でも好きだとでもいうように思い出を語る隆二に、内心少し戸惑う。
でも、隆二の表情をみていたら、きっともう一度会いたくないと思う理由が別にあるんだと、そう思えた。
「その彼にとっても、この場所は思い出の場所だと思います」
「そう思って旅立ってくれてたらいいなぁ」
懐かしむように隆二が目を細める。
「理事長は、なんで彼の余命があと僅かだと分かっていて、気持ちを伝えようと思ったんですか?」
「そうだねぇ.....私が彼を1人にしたくなかったからかな」
どういうことですか?
言葉にはしなかったが、聞き返すように隆二の顔を振り返れば、隆二が柔らかく微笑んだ。
「完全に私のエゴなんだけどもね。私の好きだったという気持ちを彼に渡せば、彼とずっと一緒にいられるような気がしてたんだよ。冷静に考えれば、そんなことあるわけないのにね。あの時は少しでも彼と一緒にいたかったから、必死だったんだろうね」
もう20年近く昔の話だからね、私も若い頃があったんだよ。
そう言って隆二が寂しそうに笑った。
「まだ月命日に墓参りしてらっしゃるんですか?」
「あ、ああ、そっか、君には一度墓参りしてる時に会っていたよね。雅人さんにああ言われた手前こんなことを言うのはとても恥ずかしいんだけど、もうすっかり習慣になっててね。それにあそこに行くと落ち着くんだよ」
「落ち着く?」
「うん。彼が傍にいてくれているように感じれるんだ。そんな訳ないんだけどね」
「……早く忘れて、幸せになって欲しいって……雅人さんもそう言ってました」
「そうだね。僕も何度もそうしようと思ったよ。簡単に忘れられるなら、とうの昔に忘れてるよ」
「じゃあ、なんで……?」
「なんでだろうね。彼以上だと思える人に出会えなかったからかな」
「......」
「伊織くんはさ、雅人さんの言っている意味どういう意味かわかった? 彼はまだ生きている、みたいな言い方をこの前していたよね。あれはどういうことなんだろうって気になっているんだ。死者がよみがえるなんてことあるわけないんだけどね。霊でも見えるのかな」
「……さあ、わかりません」
「そうだよね。変なこときいてごめんね」
「いえ……」
眺めている景色の下で、数十匹の鳥が一気に羽ばたいた。
突風がふいて、よろけると同時に隆二と目があった。
「死者は蘇らない。でも、魂ならどうだろう?」
「え?」
「心臓移植をすると、心臓が記憶の一部を有してることもある。魂に重さがあると測った研究者がいたという逸話すらあるよね。心臓はあくまで記憶の一部と考えると、記憶を全て有してる可能性があるのは魂の移動。前世を覚えている人間がいるというのも、報告されているし、それなら雅人さんの言葉に辻褄が合う」
肌寒いはずの秋の京都で、背中から汗が噴き出してくる。
なにをそんなに焦っているのかわからない。
隆二にあんなに自分が自分であるとわかって欲しかったはずなのに、いざ近づいてくると一気に怖さを感じた。
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