上 下
155 / 173
Act 12.古都に舞う鳥

聞きたかったこと、聞けなかったこと。

しおりを挟む

 俺も覚えてるよ。

 その一言が出てくるはずもなく、「そう、なんですか……」と頷いた。

「こんな話をされても困ったよね。中年男の戯言として、流してくれると嬉しいな」

 もう一度会いたくない。

 そう言ったその口で、今でも好きだとでもいうように思い出を語る隆二に、内心少し戸惑う。
 でも、隆二の表情をみていたら、きっともう一度会いたくないと思う理由が別にあるんだと、そう思えた。

「その彼にとっても、この場所は思い出の場所だと思います」

「そう思って旅立ってくれてたらいいなぁ」

 懐かしむように隆二が目を細める。

「理事長は、なんで彼の余命があと僅かだと分かっていて、気持ちを伝えようと思ったんですか?」

「そうだねぇ.....私が彼を1人にしたくなかったからかな」

 どういうことですか?

 言葉にはしなかったが、聞き返すように隆二の顔を振り返れば、隆二が柔らかく微笑んだ。

「完全に私のエゴなんだけどもね。私の好きだったという気持ちを彼に渡せば、彼とずっと一緒にいられるような気がしてたんだよ。冷静に考えれば、そんなことあるわけないのにね。あの時は少しでも彼と一緒にいたかったから、必死だったんだろうね」

 もう20年近く昔の話だからね、私も若い頃があったんだよ。

 そう言って隆二が寂しそうに笑った。

「まだ月命日に墓参りしてらっしゃるんですか?」

「あ、ああ、そっか、君には一度墓参りしてる時に会っていたよね。雅人さんにああ言われた手前こんなことを言うのはとても恥ずかしいんだけど、もうすっかり習慣になっててね。それにあそこに行くと落ち着くんだよ」

「落ち着く?」

「うん。彼が傍にいてくれているように感じれるんだ。そんな訳ないんだけどね」

「……早く忘れて、幸せになって欲しいって……雅人さんもそう言ってました」

「そうだね。僕も何度もそうしようと思ったよ。簡単に忘れられるなら、とうの昔に忘れてるよ」

「じゃあ、なんで……?」

「なんでだろうね。彼以上だと思える人に出会えなかったからかな」

「......」

「伊織くんはさ、雅人さんの言っている意味どういう意味かわかった? 彼はまだ生きている、みたいな言い方をこの前していたよね。あれはどういうことなんだろうって気になっているんだ。死者がよみがえるなんてことあるわけないんだけどね。霊でも見えるのかな」

「……さあ、わかりません」

「そうだよね。変なこときいてごめんね」

「いえ……」

 眺めている景色の下で、数十匹の鳥が一気に羽ばたいた。
 突風がふいて、よろけると同時に隆二と目があった。

「死者は蘇らない。でも、魂ならどうだろう?」

「え?」

「心臓移植をすると、心臓が記憶の一部を有してることもある。魂に重さがあると測った研究者がいたという逸話すらあるよね。心臓はあくまで記憶の一部と考えると、記憶を全て有してる可能性があるのは魂の移動。前世を覚えている人間がいるというのも、報告されているし、それなら雅人さんの言葉に辻褄が合う」

 肌寒いはずの秋の京都で、背中から汗が噴き出してくる。

 なにをそんなに焦っているのかわからない。

 隆二にあんなに自分が自分であるとわかって欲しかったはずなのに、いざ近づいてくると一気に怖さを感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

掃除中に、公爵様に襲われました。

天災
BL
 掃除中の出来事。執事の僕は、いつものように庭の掃除をしていた。  すると、誰かが庭に隠れていることに気が付く。  泥棒かと思い、探していると急に何者かに飛び付かれ、足をかけられて倒れる。  すると、その「何者か」は公爵であったのだ。

王道学園のハニートラップ兎

もものみ
BL
【王道?学園もの創作BL小説です】 タグには王道学園、非王道とつけましたがタイトルからも分かる通り癖が強いです。 王道学園に主人公がスパイとして潜入し王道キャラ達にハニートラップ(健全)して情報を集めるお話です。 キャラは基本みんなヤンデレです。いろんなタイプのヤンデレが出てきます。 地雷の方はお気をつけて。 以下あらすじです。 俺、幸人(ゆきと)はある人物の命令で金持ちの息子が集う男子校に大きな会社や財閥、組などの弱味を握るために潜入させられることになった高校一年生。ハニートラップを仕掛け部屋に潜り込んだり夜中に忍び込んだり、あの手この手で情報収集に奔走する、はずが…この学園に季節外れの転校生がやって来て学園内はかき乱され、邪魔が入りなかなか上手くいかず時にはバレそうになったりもして…? さらにさらに、ただのスパイとして潜入しただけのはずなのにターゲットたちに本気で恋されちゃって―――――って、あれ?このターゲットたち、なにかがおかしい… 「ゆきとは、俺の光。」 「ふふ、逃げられると思ってるの?」 (怖い!あいつら笑ってるけど目が笑ってない!!やばい、逃げられない!) こんな感じで、かなり癖のあるターゲット達に好かれてトラブルに巻き込まれます。ほんと大変。まあ、そんな感じで俺が終始いろいろ奮闘するお話です。本当に大変。行事ごとにいろんなハプニングとかも…おっと、これ以上はネタバレになりますね。 さて、そもそも俺にそんなことを命じたのは誰なのか、俺に"幸せ"は訪れるのか…まあ、とにかく謎が多い話ですけど、是非読んでみてくださいね! …ふう、台本読んだだけだけど、宣伝ってこんな感じでいいのか? …………あれ……え、これ―――――盗聴器?もしかしてこの会話、盗聴されて… ーーーーーーーーーー 主人公、幸人くんの紹介にあったように、執着、束縛、依存、盗撮、盗聴、何でもありのヤンデレ学園で、計算高い主人公がハニートラップかましてセレブたちの秘密を探ろうとするお話です。ヤンデレターゲットVS計算高いスパイの主人公!! 登場人物みんなヤンデレでいろんなタイプのヤンデレがいますので、あなたの推しヤンデレもきっと見つかる!

真冬の痛悔

白鳩 唯斗
BL
 闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。  ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。  主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。  むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。

管理委員長なんてさっさと辞めたい

白鳩 唯斗
BL
王道転校生のせいでストレス爆発寸前の主人公のお話

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々

BL
SECRET OF THE WORLD シリーズ《僕の名前はクリフェイド・シュバルク。僕は今、憂鬱すぎて溜め息ついている。なぜ、こうなったのか…。 ※シリーズごとに章で分けています。 ※タイトル変えました。 トラブル体質の主人公が巻き込み巻き込まれ…の問題ばかりを起こし、周囲を振り回す物語です。シリアスとコメディと半々くらいです。 ファンタジー含みます。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

まだ、言えない

怜虎
BL
学生×芸能系、ストーリーメインのソフトBL XXXXXXXXX あらすじ 高校3年、クラスでもグループが固まりつつある梅雨の時期。まだクラスに馴染みきれない人見知りの吉澤蛍(よしざわけい)と、クラスメイトの雨野秋良(あまのあきら)。 “TRAP” というアーティストがきっかけで仲良くなった彼の狙いは別にあった。 吉澤蛍を中心に、恋が、才能が動き出す。 「まだ、言えない」気持ちが交差する。 “全てを打ち明けられるのは、いつになるだろうか” 注1:本作品はBLに分類される作品です。苦手な方はご遠慮くださいm(_ _)m 注2:ソフトな表現、ストーリーメインです。苦手な方は⋯ (省略)

処理中です...