上 下
151 / 173
Act 12.古都に舞う鳥

描いたシナリオ

しおりを挟む

 許すのは簡単だ。
 でも、どうしてもそれが斯波の為になるとは思えなかった。

 想像にすぎないが、きっと斯波は親にもあまり怒られていないような、そんな気がした。
 誰かに叱責されるというのは、愛情の裏返しでもあると思う。

 好きの反対は、嫌いじゃない。無関心。

 俺が斯波に対して出来ることは、無関心ではなく”嫌い”をぶつける事だ。その行動を受けて、どう行動をするか斯波自身にかかっている。

 だからこそ、此処で簡単に許しちゃいけない。そう思った。
 話す内容を固めて、ぐっと力を込めて斯波を見る。

 怒っているように見える様に、眉間に皺を寄せ、極力低い声を心がける。

「………許されないことだと思う。俺は。やられた方の気持ちを考えたら出来ることじゃない」

「ほんとうにごめん」

「ごめんで済むと思うのか?」

「………思わない。何をすればいい?」

「自分で考えろ」

「………考えてる。でも分からない」

「それは考えてるうちに入らない。分からないで投げていたら、いつまでも問題なんて解決できる訳がない」

「………それは………………」

 斯波の目に涙が滲んだ。
 力で勝ち打ち出来ず、少し怖いと思っていた斯波も、伊吹と同じように弟を見ているような気持ちになった。
 本当なら抱きしめて「大丈夫だ」「もう気にしてないから」と言ってやりたかった。

 この選択が正しいかは分からない。

 どちらを選んでも相応のデメリットは存在するし、俺との折衝だけで他人の人生が変わるなんて普段なら毛頭思わなかっただろう。

 だが、この選択を間違えてはいけないと直感的に感じたのは事実で、それを感じたのは斯波の危うさからだった。

「話はそれだけか?」

「え?」

「話はそれだけか、って聞いてるんだ」

「あ、うん」

 描いたシナリオ通りに行くかは一か八かだった。

「なら夜も遅いし帰ってくれ」

 ここで突き放す。
 一縷の望みも持たせぬよう、バッサリと。

「え……」

 絶望した表情で放心する斯波をよそに、ソファから立ち上がる。

「待って、伊織ちゃん」

 呼び止める声を無視して、玄関へと向かえば、背中に強い衝撃が走った。

「お願いだから、待って」

 余裕のある斯波からは想像も出来ないくらい弱々しい声だった。
 背中から伝わる体温と、泣いているのか時折鼻をすする音が聞こえた。

「……ごめん……」

「…………離せ」

「……ごめん、」

「謝るだけなら誰でもできる」

 ぎゅっと拳を握った。甘やかしてやりたくなる気持ちをぐっと抑えこむ。

「俺はどうしたら良い? どうしたらお前に許して貰える?」

「信用を積み重ねるのは時間がかかるけど、なくなるのは一瞬だ。俺にお前を信じろ、と言われても今は何も信用出来ない」

「…………」

 辛辣なことを言っているというのは、百も承知だった。
 斯波の息を飲むような音が背中ごしに伝わってくる。背中に伝わっていた体温がするすると離れていく。

「分かった……」

 緊張しているような硬い声だった。

「夜遅くにごめん……」

 消えるような声とともに、隣をすり抜けて玄関口へと向かう斯波の背を見つめる。
 扉を開けるときに、振り返った斯波と目があった。

「…………おやすみ」

「ああ、おやすみ」

 何か言いたげな視線を残しながら、斯波が部屋から出て行った。

 緊張感が一気に抜ける。
 のろのろとソファに戻り、薫に連絡をとった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

依存の飴玉

wannai
BL
 人に依存することで精神の均衡を保ってる男が出会い系で捕まえた男に依存させてもらってたら逆依存くらってなんだかんだでラブになる話

muro - 使われたい男、使う男 -

おさかな
BL
某所にある【muro】という店は、知る人ぞ知る『壁尻屋』だった。そこは自分の身体を使われたいキャストと、顔も素性もわからない身体を使いたい客の欲望が合致する場所……そこで働くキャスト・客たちの欲望のお話!

オレが受けなんてありえねえ!

相沢京
BL
母親の再婚で財閥の家族になってしまった勇人。 父親が後継者争いに巻き込まれないようにと全寮制の男子校に転入した。 そこには兄がいると聞かされていたが、すでにオレの偽者がいた。 どうするオレ? 拉致されたり、宇宙人みたいな奴が転校してきたり 兎に角厄介ごとに巻き込まれる主人公の話です。 お願い*********** お気に入り、誤字・脱字や感想などを頂き誠にありがとうございます。 未熟な私ですが、それを励みに更新を続けていきたいと思いますので よろしくお願いいたします。

狡猾な狼は微笑みに牙を隠す

wannai
BL
 VRエロゲで一度会って暴言吐いてきたクソ野郎が新卒就職先の上司だった話

モブの俺が甥っ子と同級生からエロいいじめをうけまくるのは何故だ

爺誤
BL
王立魔法学園のモブとしてごく普通に生きていた俺は、ある日前世の自分が現代日本人だったことを思い出す。だからといってチートがあるわけではなく、混乱している間に同い年の甥っ子に性的な嫌がらせを受けてメス堕ちしてしまう。そこから坂を転げ落ちるように、あちこちからエロいいじめを受けるようになり……。どうなってんの俺!? ※なんでも美味しく食べられる方向けです。地雷のある方はご遠慮ください。 ムーンライトノベルズにも投稿しています。

【異世界大量転生5終】辺境伯次男は鬱展開を全力で回避する

とうや
BL
※本編、シリーズ共に完結しました。ありがとうございました! 日本国の一般的市民であった天海穂高は人違いで駅のホームに突き落とされ、ドーン王国辺境伯家次男グレン・ナイトレイに生まれ変わっていた。 あれ…?これって前世でやってたVRMMORPG『ブレイブリー・ドーン』の世界じゃね?待って!俺が浮気された挙句に殺されて闇堕ちする『闇の聖者グレン』なの!? 魔王討伐の旅から帰ってきた俺の前には、浮気相手の腹の上でアンアン言ってる嫁。 うん、離婚して王都屋敷を更地にしよう! は?自重?恋愛フラグ?原作強制力?知るかそんなの後にしろ。俺は忙しい。 無事に離婚できた俺を待っていたのは、嬉しい楽しい開発三昧の生活……の筈だった。 異世界大量転生シリーズ『ナイトレイ編』開幕です! 残念なほど中身がぶっ飛んだ儚げ美人総受けの争奪戦。 お相手は兄、勇者、幼馴染み。 シリアスやざまぁはフレーバー程度にほんのりと。結婚前後の後半エロ入ってきます。 ********************* * ATTENTION * ********************* *オリジンとか、第●世代とか、シリーズ中の独自設定が出ます。わからない設定は随時更新する【ネタバレ含む裏設定と登場人物紹介】を見てください。 *タグを良くご確認下さい。苦手な方はご遠慮ください。多忙のためコメントのお返事はしません。 *予告なくエロ入るかも知れません。 *毎日12時更新。

遠のくほどに、愛を知る

リツカ
BL
とある理由で政略結婚をした、貧乏伯爵家の三男であるヴィンセントと公爵家の嫡男であるクロード。しかし、結婚から一年が経っても、ふたりの関係は良好とは言い難かった。 ヴィンセントが良かれと思って第二夫人を勧めたことでクロードを激昂させてしまったある日、クロードは出先で落馬事故に遭ってしまう。 それから二週間後──ようやく意識を取り戻したクロードは記憶を失い、まるで別人のような大人しい青年になっていた。 公爵家嫡男(23歳)×元騎士の貧乏伯爵家三男(28歳) ※世界観はすごくふんわり。 ※同性同士でも結婚や妊娠などが可能な世界です。 ※タイトルは後々変更するかも。 本編完結済み。時々後日談などを更新してます。

だいきちの拙作ごった煮短編集

だいきち
BL
過去作品の番外編やらを置いていくブックです! 初めましての方は、こちらを試し読みだと思って活用して頂けたら嬉しいです😆 なんだか泣きたくなってきたに関しては単品で零れ話集があるので、こちらはそれ以外のお話置き場になります。 男性妊娠、小スカ、エログロ描写など、本編では書ききれなかったマニアック濡れ場なお話もちまちま載せていきます。こればっかりは好みが分かれると思うので、✳︎の数を気にして読んでいただけるとうれいいです。 ✴︎ 挿入手前まで ✴︎✴︎ 挿入から小スカまで ✴︎✴︎✴︎ 小スカから複数、野外、変態性癖まで 作者思いつきパロディやら、クロスオーバーなんかも書いていければなあと思っています。 リクエスト鋭意受付中、よろしければ感想欄に作品名とリクエストを書いていただければ、ちまちまと更新していきます。 もしかしたらここから生まれる新たなお話もあるかもしれないなあと思いつつ、よければお付き合いいただければ幸いです。 過去作 なんだか泣きたくなってきた(別途こぼれ話集を更新) これは百貨店での俺の話なんだが 名無しの龍は愛されたい ヤンキー、お山の総大将に拾われる、~理不尽が俺に婚姻届押し付けてきた件について~ こっち向いて、運命 アイデンティティは奪われましたが、勇者とその弟に愛されてそれなりに幸せです(更新停止中) ヤンキー、お山の総大将に拾われる2~お騒がせ若天狗は白兎にご執心~ 改稿版これは百貨店で働く俺の話なんだけど 名無しの龍は愛されたい-鱗の記憶が眠る海- 飲み屋の外国人ヤンデレ男と童貞男が人生で初めてのセックスをする話(短編) 守り人は化け物の腕の中 友人の恋が難儀すぎる話(短編) 油彩の箱庭(短編)

処理中です...