上 下
148 / 173
Act 12.古都に舞う鳥

告白

しおりを挟む

 雅人が帰ってから、丸3日間寝込むことになった。
 常駐の医者が往診に来てくれたが、薬が思うように効かず、今回の風邪はかなり頑固な風邪だった。

 寮監にも交渉したのか、熱が下がるまでの間、伊吹が夜も付きっきりで看病してくれた。
 その甲斐あって、4日目の朝になれば重たい身体はどこへやら、全快を迎える事が出来たのだった。

 同室の薫にも迷惑をかけてしまい、健康の大事さを身をもって知った4日間だった。

「本当にもう大丈夫? あともう一日位休んだ方がいいよ」

 母親のように過保護に心配する伊吹に苦笑しつつ、「本当にもう大丈夫」と言えば、煮え切らない表情ながらも引き止められはしなかった。

 伊吹に寛人の時の事を話してから、以前のような危うさはなくなった。

 「風邪がうつるから」と言っているのに「一緒に寝る!」と言い張って聞く耳をもたなかった所は以前のままだが、一緒のベッドに入って手を繋いで寝るだけだったから、逆にこちらが拍子抜けしてしまった位だった。
 前は薫への当たりもキツかったが、他人の薫がみても顕著に感じる位、丸くなったようだった。

 日本に帰ってくる前の伊吹に戻ったようで、ホッとすると共に、原因を招いていた己を改めて反省した。



「ずっと気になっていたんだが、伊吹と何かあったのか?」

 そんな伊吹の変化に疑問をもつのは当たり前の事で、お風呂上がりに思案していた薫に理由を聞けば、そう返ってきた。

「何かあったといえば、あったんだけど……」

 何から話していいのかこちらも考えこんでしまう。

「無理に言わなくて良い。ただの好奇心だ」

「別に言いたくないわけじゃないんだ。どこから話せばいいかちょっと迷って……」

 今まで避けてきた話題に触れると薫も感づいたらしく、お風呂上がりの緩んだ空気が一瞬ピリっと締まった。黙っていても問題は起こらないが、薫には聞いて欲しかった。
 今ならすんなり話せると思い、意を決する。

「……嘘みたいな本当の話なんだけどさ、俺……実は生まれる前の記憶があるんだ」

「え?」

 さすがの薫もまさかそんな話になると思っていなかったという表情をしていた。

 それもそうだろう。
 伊吹の心境の変化があった理由や事柄を聞いただけなのに、いきなりスピリチュアル的な話題になったら誰だって同じ反応をするだろう。

「水無瀬寛人、それが俺の前の記憶なんだ」

「………水無瀬? 寛人?」

 薫が呆然と復唱する。
 水無瀬薫である、薫自身が知らないはずはなく、次の瞬間には唖然とした表情がこちらに向いていた。

「俺の叔父さんの水無瀬寛人か?」

「生きていたらそうなると思う」

「以前話していた例え話はあながち嘘でもなかったんだな」

「例え話?」

「前に俺の家……伊織の家でもあるのか、夏に来た時そんな話をしていただろう」

 言われる前には記憶から抜けていたが、今更ながら思い出した。
 あの時は、伊吹にも雅人にも話す前で、薫に背中を押してもらった。

「うん。あの時はありがとう。薫の言葉が無かったら、俺踏み出せてなかった」

「そうか。信じてくれただろう?」

「え?」

「お前が話したことを、嘘だと疑う奴はいなかっただろう?」

「そう言えば………」

 そう言われてみれば、こんなに非現実的な内容であるにも関わらず、雅人や伊吹、斯波から疑いの言葉を聞いた事が無かった。

「頑張ったな」

 いつものように頭をぽんぽんしていた薫の手が、突然止まった。

「どうした?」

 不思議に思って聞いてみれば、珍しく困り顔の薫。

「いや……」

 薫が動揺を誤摩化すかのように、手を開いたり閉じたりしていたが、何か言うべきことを考えているようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

掃除中に、公爵様に襲われました。

天災
BL
 掃除中の出来事。執事の僕は、いつものように庭の掃除をしていた。  すると、誰かが庭に隠れていることに気が付く。  泥棒かと思い、探していると急に何者かに飛び付かれ、足をかけられて倒れる。  すると、その「何者か」は公爵であったのだ。

真冬の痛悔

白鳩 唯斗
BL
 闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。  ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。  主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。  むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。

全校生徒の肉便器

いちみやりょう
BL
人気投票で生徒会などが選ばれる学園で肉便器に決まってしまった花倉詩音。まずは生徒会によるみそぎと開通式ということで全校生徒の前で脱糞ショー。これから始まる肉便器生活はどうなっていくのか!? ーーーーーーーーーー 主人公は終始かわいそうな目にあいます。 自己責任で読んでください。

全寮制男子高校生活~行方不明になってた族の総長が王道学園に入学してみた~

雨雪
BL
スイマセン、腐男子要素どこいった状態になりそうだったんでタイトル変えました。 元、腐男子が王道学園に入学してみた。腐男子設定は生きてますがあんま出てこないかもです。 書いてみたいと思ったから書いてみただけのお話。駄文です。 自分が平凡だと本気で思っている非凡の腐男子の全寮制男子校での話。 基本思いつきなんでよくわかんなくなります。 ストーリー繋がんなくなったりするかもです。 1話1話短いです。 18禁要素出す気ないです。書けないです。 出てもキスくらいかなぁ *改稿終わって再投稿も終わったのでとりあえず完結です~

親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺

toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染) ※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。 pixivでも同タイトルで投稿しています。 https://www.pixiv.net/users/3179376 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/98346398

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

或る実験の記録

フロイライン
BL
謎の誘拐事件が多発する中、新人警官の吉岡直紀は、犯人グループの車を発見したが、自身も捕まり拉致されてしまう。

処理中です...