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Act 12.古都に舞う鳥
告白
しおりを挟む雅人が帰ってから、丸3日間寝込むことになった。
常駐の医者が往診に来てくれたが、薬が思うように効かず、今回の風邪はかなり頑固な風邪だった。
寮監にも交渉したのか、熱が下がるまでの間、伊吹が夜も付きっきりで看病してくれた。
その甲斐あって、4日目の朝になれば重たい身体はどこへやら、全快を迎える事が出来たのだった。
同室の薫にも迷惑をかけてしまい、健康の大事さを身をもって知った4日間だった。
「本当にもう大丈夫? あともう一日位休んだ方がいいよ」
母親のように過保護に心配する伊吹に苦笑しつつ、「本当にもう大丈夫」と言えば、煮え切らない表情ながらも引き止められはしなかった。
伊吹に寛人の時の事を話してから、以前のような危うさはなくなった。
「風邪がうつるから」と言っているのに「一緒に寝る!」と言い張って聞く耳をもたなかった所は以前のままだが、一緒のベッドに入って手を繋いで寝るだけだったから、逆にこちらが拍子抜けしてしまった位だった。
前は薫への当たりもキツかったが、他人の薫がみても顕著に感じる位、丸くなったようだった。
日本に帰ってくる前の伊吹に戻ったようで、ホッとすると共に、原因を招いていた己を改めて反省した。
「ずっと気になっていたんだが、伊吹と何かあったのか?」
そんな伊吹の変化に疑問をもつのは当たり前の事で、お風呂上がりに思案していた薫に理由を聞けば、そう返ってきた。
「何かあったといえば、あったんだけど……」
何から話していいのかこちらも考えこんでしまう。
「無理に言わなくて良い。ただの好奇心だ」
「別に言いたくないわけじゃないんだ。どこから話せばいいかちょっと迷って……」
今まで避けてきた話題に触れると薫も感づいたらしく、お風呂上がりの緩んだ空気が一瞬ピリっと締まった。黙っていても問題は起こらないが、薫には聞いて欲しかった。
今ならすんなり話せると思い、意を決する。
「……嘘みたいな本当の話なんだけどさ、俺……実は生まれる前の記憶があるんだ」
「え?」
さすがの薫もまさかそんな話になると思っていなかったという表情をしていた。
それもそうだろう。
伊吹の心境の変化があった理由や事柄を聞いただけなのに、いきなりスピリチュアル的な話題になったら誰だって同じ反応をするだろう。
「水無瀬寛人、それが俺の前の記憶なんだ」
「………水無瀬? 寛人?」
薫が呆然と復唱する。
水無瀬薫である、薫自身が知らないはずはなく、次の瞬間には唖然とした表情がこちらに向いていた。
「俺の叔父さんの水無瀬寛人か?」
「生きていたらそうなると思う」
「以前話していた例え話はあながち嘘でもなかったんだな」
「例え話?」
「前に俺の家……伊織の家でもあるのか、夏に来た時そんな話をしていただろう」
言われる前には記憶から抜けていたが、今更ながら思い出した。
あの時は、伊吹にも雅人にも話す前で、薫に背中を押してもらった。
「うん。あの時はありがとう。薫の言葉が無かったら、俺踏み出せてなかった」
「そうか。信じてくれただろう?」
「え?」
「お前が話したことを、嘘だと疑う奴はいなかっただろう?」
「そう言えば………」
そう言われてみれば、こんなに非現実的な内容であるにも関わらず、雅人や伊吹、斯波から疑いの言葉を聞いた事が無かった。
「頑張ったな」
いつものように頭をぽんぽんしていた薫の手が、突然止まった。
「どうした?」
不思議に思って聞いてみれば、珍しく困り顔の薫。
「いや……」
薫が動揺を誤摩化すかのように、手を開いたり閉じたりしていたが、何か言うべきことを考えているようだった。
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