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Act 9. 歯車が狂いだす鳥
意思決定の義務と責任2
しおりを挟む「ねえ……こういうのはどう?」
伊吹が何かを閃いた表情で瞬きした。
「なんだ?」
「織が自分の幼馴染の生まれ変わりだって気づいたら、理事長の勝ち。気づかなかったら僕の勝ち」
「なんだよそれ」
妙な提案に思わず眉を顰める。
「だって、織だって本当は自分が生まれ変わりだって気づいてもらいたいんでしょ? だから今まで言わなかったんでしょ?」
「そういう訳じゃ………」
「ないとは言い切れないと思うよ、僕は」
そう心を見透かされて、否定出来ずに言葉を飲みこむしかなかった。
どこかで気づいてほしい。
そう思っている自分がいることは認めざるを得ない事実だ。
それがどこか自分の甘えであるような気もするし、気づかなければ隆二の中で俺は過去の人間だったと割り切る事もできる。それが逃げであることには変わりないが、面と向かって言う勇気が振り絞れないことも確かなのだ。
「もし織が自分が寛人さんの生まれ変わりだと言って、それを理事長が知って簡単に身を翻すような大人なら、僕は織を彼に渡すことは絶対に嫌だし、納得も出来ない。でも、もし織が何も言わずに理事長が気づいたとしたなら、……それはなんか認められる気がするんだよ」
「伊吹……」
「織を渡すのは絶対に嫌だ。でも、織が幸せじゃないのはもっと嫌だ。我が儘で無理なお願いをしてることは分かってるし、都合の良い事だってのも知ってるけど………」
それが伊吹の最大の譲歩である事に気がついたのは、その痛烈な表情を見た直後だった。
分かった。
そう頷いて、伊吹との約束が成立した。
期限は卒業まで、それまでに理事長が自分に気がつかなかったら、理事長の事は忘れる。卒業後は理事長との接点も減るだろうから、きっと卒業までに分からなかったらこの先も気がつく事がないとの伊吹の見解だった。
こんな茶番。
そう思うかも知れないが、俺は伊吹のこの提案が無ければもやもやと不明瞭な事を抱え続ける。そんな気もあった為、この提案を受けた。
きっと伊吹はそんな俺の性格も分かった上での提案なんだろう。
その上で納得出来る自分のラインを提示し、やんわりとそれでいてはっきりと俺に決断を迫ったのだ。
意思決定は義務であり責任だ、と。
どっちも大事だから、選ばない。それは優しさで見えて、酷く残酷な事だと。
選ばないのは、どっちも大事じゃないって事と同義だと。
伊吹のいつになくキツい言葉に俺は面食らい、自分の優柔不断さでどれだけ伊吹を傷つけてきたのか、それを思うと心が痛かった。
こうして夏が終わり、秋が徐々に色を魅せ始めた。
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