119 / 173
Act 9. 歯車が狂いだす鳥
揃いの傷痕
しおりを挟む意図的にやったことではないが、結果として伊吹を深く傷つけていたことを深く反省した。伊吹にこんな哀しい顔をさせる位、自分は酷いことをしたのだ。
自分は何をしているのだろう。
今を大切にせずに、過去のことばかり気にして。そう言われてもきっと仕方がない。
「ごめん……」
そう謝れば、伊吹がもっと泣きそうな顔をして俯いた。
伊吹が唇を噛み締めて、何かを堪えるようにしている姿をみて胸が締め付けられるような想いだった。
伊吹が何も言わずに俺の手を引いて車に行き、山口さんに「学園へ」とだけ告げた。学園への道中はあのおしゃべりな伊吹がずっと無言で、山口さんが時折こちらを伺うように見ていた。
学園へ着けば荷物はそのままに、車内からずっと繋がれていた手を引かれて伊吹の部屋までたどり着いた。同室も違えば部屋の雰囲気も違い、可愛いらしいキャラクターグッズが多く、雑多な印象を受けた。
「同室の子は?」
チワワに似た可愛らしい同室を思い出してそう聞けば、「ハワイ」とだけ答えてずんずんと部屋の奥へと引っ張られて行く。
伊吹の部屋は自分のと似ている。元々、寮の俺の部屋を作ったのが伊吹なだけあって、家具のチョイスは同じだ。
何度かきたことがある部屋まで連れてこられると、手を引かれてベッドへと倒れ込んだ。
ぎらりと欲望に光る伊吹の目を見た時、そこまできてようやく伊吹がしようとしている意図を知ることになった。
「また、やるのか?」
喧嘩した前日が伊吹との初めての夜だった。あれからやっていなかったため、抵抗感と恐怖に身体が震えた。
その問いに答えることなく、伊吹が覆い被さって唇を重ねてくる。
強引なキスだった。
「んっ、っ」
室内に水音が響き、吐息と共に飲み込まれて行く。深く口内を蹂躙してくる伊吹に翻弄されながら、何度も角度を変えて唇を奪われた。
「やめ、ろっ、…いぶきっ、」
何度も振ってくるキスの嵐に、息も絶え絶えになりながら抗議を漏らせば、ぐっと太ももに固い欲望を押し付けられた。
「僕とするの、やなの?」
責めるような口調だった。瞳に宿った苛立ちを感じれば、何も言い返せなくなる。それでも、この間のような不毛なことはもうしたくない。またお互い傷つくなら、兄弟という枠を越えたくないというのが本当だった。
「嫌だとかそういうんじゃなくて、」
「じゃあ良いでしょ」
そう言って抗議をする間もなく、唇を重ねられ言葉を奪われる。顔を捩って唇を避けようとしても、両手で両耳をホールドされそれも叶わなくなる。
「ふぅ……んっ、や、離せ」
「やだ」
抗議の声を上げる度に激しく唇を貪られる。
「いぶき!」
強く伊吹の名を呼べばようやく伊吹が止まって、俺を見た。
「何?」
「もうやめよう、こんなことは」
自分の出した声が思った以上に自信のない声で、部屋に空虚に響いた。
「こんなこと? 織にとって、こんなことなの?」
「っ、そうじゃない」
言葉尻をとられて、背筋が冷えた。そうじゃない、そういいつつも、きっと伊吹と自分の認識が違うということは分かっていた。
「何が違うの? あの時受け入れてくれたと思ってたけど、あれは嘘だったの?」
「嘘じゃない……でも」
「でも、なに?」
「……したくない」
「なんで?」
「怖い……。すればする程、兄弟じゃなくなる感じがして」
伊吹の表情が変わった。訝しげだった表情が、戸惑いの表情に変わる。
室内に重い沈黙が響き、お互い固い表情のまま見つめ合ったまま沈黙が続いた。
長い沈黙が続いた後、伊吹が何かを思いついたかのように「そうか」とだけ言った。
「じゃあ、兄弟じゃなくなるまですれば良いのかな?」
「はっ? 何言ってるんだ?」
何か恐ろしいことを聞いた気がして伊吹を見返せば、スッと伊吹の眼光が細められた。
「兄弟であっても1つになれないなら、兄弟じゃなくなれば1つになれるってことだよね」
「どういう理屈だ、そんな訳っ」
ない、という言葉は再び伊吹の唇によって遮られた。
荒々しい口づけだった。
1
お気に入りに追加
692
あなたにおすすめの小説
muro - 使われたい男、使う男 -
おさかな
BL
某所にある【muro】という店は、知る人ぞ知る『壁尻屋』だった。そこは自分の身体を使われたいキャストと、顔も素性もわからない身体を使いたい客の欲望が合致する場所……そこで働くキャスト・客たちの欲望のお話!
オレが受けなんてありえねえ!
相沢京
BL
母親の再婚で財閥の家族になってしまった勇人。
父親が後継者争いに巻き込まれないようにと全寮制の男子校に転入した。
そこには兄がいると聞かされていたが、すでにオレの偽者がいた。
どうするオレ?
拉致されたり、宇宙人みたいな奴が転校してきたり
兎に角厄介ごとに巻き込まれる主人公の話です。
お願い***********
お気に入り、誤字・脱字や感想などを頂き誠にありがとうございます。
未熟な私ですが、それを励みに更新を続けていきたいと思いますので
よろしくお願いいたします。
モブの俺が甥っ子と同級生からエロいいじめをうけまくるのは何故だ
爺誤
BL
王立魔法学園のモブとしてごく普通に生きていた俺は、ある日前世の自分が現代日本人だったことを思い出す。だからといってチートがあるわけではなく、混乱している間に同い年の甥っ子に性的な嫌がらせを受けてメス堕ちしてしまう。そこから坂を転げ落ちるように、あちこちからエロいいじめを受けるようになり……。どうなってんの俺!?
※なんでも美味しく食べられる方向けです。地雷のある方はご遠慮ください。
ムーンライトノベルズにも投稿しています。
【異世界大量転生5終】辺境伯次男は鬱展開を全力で回避する
とうや
BL
※本編、シリーズ共に完結しました。ありがとうございました!
日本国の一般的市民であった天海穂高は人違いで駅のホームに突き落とされ、ドーン王国辺境伯家次男グレン・ナイトレイに生まれ変わっていた。
あれ…?これって前世でやってたVRMMORPG『ブレイブリー・ドーン』の世界じゃね?待って!俺が浮気された挙句に殺されて闇堕ちする『闇の聖者グレン』なの!?
魔王討伐の旅から帰ってきた俺の前には、浮気相手の腹の上でアンアン言ってる嫁。
うん、離婚して王都屋敷を更地にしよう!
は?自重?恋愛フラグ?原作強制力?知るかそんなの後にしろ。俺は忙しい。
無事に離婚できた俺を待っていたのは、嬉しい楽しい開発三昧の生活……の筈だった。
異世界大量転生シリーズ『ナイトレイ編』開幕です!
残念なほど中身がぶっ飛んだ儚げ美人総受けの争奪戦。
お相手は兄、勇者、幼馴染み。
シリアスやざまぁはフレーバー程度にほんのりと。結婚前後の後半エロ入ってきます。
*********************
* ATTENTION *
*********************
*オリジンとか、第●世代とか、シリーズ中の独自設定が出ます。わからない設定は随時更新する【ネタバレ含む裏設定と登場人物紹介】を見てください。
*タグを良くご確認下さい。苦手な方はご遠慮ください。多忙のためコメントのお返事はしません。
*予告なくエロ入るかも知れません。
*毎日12時更新。
遠のくほどに、愛を知る
リツカ
BL
とある理由で政略結婚をした、貧乏伯爵家の三男であるヴィンセントと公爵家の嫡男であるクロード。しかし、結婚から一年が経っても、ふたりの関係は良好とは言い難かった。
ヴィンセントが良かれと思って第二夫人を勧めたことでクロードを激昂させてしまったある日、クロードは出先で落馬事故に遭ってしまう。
それから二週間後──ようやく意識を取り戻したクロードは記憶を失い、まるで別人のような大人しい青年になっていた。
公爵家嫡男(23歳)×元騎士の貧乏伯爵家三男(28歳)
※世界観はすごくふんわり。
※同性同士でも結婚や妊娠などが可能な世界です。
※タイトルは後々変更するかも。
本編完結済み。時々後日談などを更新してます。
だいきちの拙作ごった煮短編集
だいきち
BL
過去作品の番外編やらを置いていくブックです!
初めましての方は、こちらを試し読みだと思って活用して頂けたら嬉しいです😆
なんだか泣きたくなってきたに関しては単品で零れ話集があるので、こちらはそれ以外のお話置き場になります。
男性妊娠、小スカ、エログロ描写など、本編では書ききれなかったマニアック濡れ場なお話もちまちま載せていきます。こればっかりは好みが分かれると思うので、✳︎の数を気にして読んでいただけるとうれいいです。
✴︎ 挿入手前まで
✴︎✴︎ 挿入から小スカまで
✴︎✴︎✴︎ 小スカから複数、野外、変態性癖まで
作者思いつきパロディやら、クロスオーバーなんかも書いていければなあと思っています。
リクエスト鋭意受付中、よろしければ感想欄に作品名とリクエストを書いていただければ、ちまちまと更新していきます。
もしかしたらここから生まれる新たなお話もあるかもしれないなあと思いつつ、よければお付き合いいただければ幸いです。
過去作
なんだか泣きたくなってきた(別途こぼれ話集を更新)
これは百貨店での俺の話なんだが
名無しの龍は愛されたい
ヤンキー、お山の総大将に拾われる、~理不尽が俺に婚姻届押し付けてきた件について~
こっち向いて、運命
アイデンティティは奪われましたが、勇者とその弟に愛されてそれなりに幸せです(更新停止中)
ヤンキー、お山の総大将に拾われる2~お騒がせ若天狗は白兎にご執心~
改稿版これは百貨店で働く俺の話なんだけど
名無しの龍は愛されたい-鱗の記憶が眠る海-
飲み屋の外国人ヤンデレ男と童貞男が人生で初めてのセックスをする話(短編)
守り人は化け物の腕の中
友人の恋が難儀すぎる話(短編)
油彩の箱庭(短編)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる