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Act 9. 歯車が狂いだす鳥
小さな嘘
しおりを挟む「おりいいいいいぃぃ」
夏の終わり。学園ももうすぐ始まるため、伊吹の帰国の日。
空港に迎えに行けば、到着ゲートから姿を現した伊吹が大きなキャリーを引きながら全力で走ってきた。
「待て、伊吹。うわっ」
そのまま勢いで抱きつかれて、後ろに倒れそうになるがなんとか踏ん張って抱き返す。
名前の入ったプラカードを持って同じように到着者をまっている、周りの視線が少し痛い気もするが、同じように再開を喜んでいる人も多いので、気にしないことにした。
「会いたかったよ、織」
「俺も会いたかったよ」
背中をポンポンと叩き返せば、安心したのか抱きしめる力が弱まった。
「織にこんなに会えなかったの生まれて初めてだったから、本当に辛くて」
「確かにこんなに離れているなんてこと今までなかったな」
何かしら顔を合わせてはいた。会えない時もあったが、せいぜい3、4日程度ということが多かった為2週間というのは初めてだった。
「元気そうで良かった」
「織もね」
そう言って、伊吹はにこりと笑う。その笑顔をみて、心がホッと落ち着いた。会えなくて寂しかったのは、どうやら伊吹だけでもないんだな、と人ごとのように自分でも感じる。
毎日のように伊吹が側にいることが多かったからか、側にいるとなんとなく安心する。
「お昼食べたか?」
「うん。機内食がこれでもかって程出たから結構お腹いっぱい」
「そうか。じゃあ、学園に戻るか」
「うん」
伊吹のスイスとフランスでの話を聞きながら、車へと向かった。
空港から学園に向かう途中、「この辺りで降ろしてもらっていいですか」と運転手の山口さんに言えば、「はい、わかりました」と路肩で車を止めてくれた。
「どこ行くの?」
それを見ていた伊吹が不思議そうに首を傾げる。
「ちょっと忘れ物を思い出したんだ。伊吹は疲れているだろうから、先に学園に戻っていてくれ」
「僕も一緒にいくよ?」
「一人で大丈夫だ」
「……どこにいくの?」
もう一度伊吹が聞いてくる。
行きたいところは、寛人だった時の墓があるこの間行った霊園だった。外出届を出さなきゃ外に出れない学園内の中に入る前に、もう一度あの場所に行ってみたかった。
だが、それを正直に答えたとしても、伊吹にとって疑問を拭えるはずもない。
「薫の家に。すぐ戻るから」
小さな嘘。
そういってしまえばそうだが、嘘であることにはなんら変わりはない。胸が痛んだが、俺の言葉に納得したように伊吹がなるほどと頷いてくれてホッとする。
「そっか。じゃあ、僕は先に行っとくね」
「ああ、ごめんな。また後で」
「うん」
伊吹と別れを告げて、道でタクシーを拾った。
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