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Act 7. 嘘に巻かれる鳥

Betrayal(裏切り)

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「神っ!」

 俺の呼びかけに応ずることなく、俺を所曰く”お姫様だっこ”した状態で、寮に向かって力強い歩調で進んで行く。
 怒り以上の感情を感じて、俺は良い知れぬ恐怖に神の顔をまともに見れなかった。

 逃げ出したい。

 そう思っても、見た目以上に力がある神の腕から逃れる事は不可能で、俺はなすがままになるしかなかった。

 神が教会に入ってきた後、斯波が火に油を注ぐように、「お別れのキスするんだから一回扉しめてよ会長」と臆面もなく言い放ったのだ。
 固まる会長を尻目に、斯波は本当に俺にキスを迫ってきた。そのキスを避けるように、ぐいっと突如引っ張られた俺は、会長に抱きとめられていた。

 弁明の余地はなかった。
 きっと、何を言っても信じてくれない事は安易に想像がついた。何を言っても、言い訳にしか聞こえなくて、言葉が出なかった。

「横恋慕?」

「黙れ」

 低い声で、しかし良く通る声でそれだけ言うと、神はそのまま俺を抱え上げた。

「お、下ろせっ」

 俺の言葉を聞き入れる事はなかった。

 そして、今に至るわけで。
 俺は、以前仕事部屋だと連れてこられた部屋の奥にある、仮眠室にいた。

「すぐに終わらせてきますから、待っていてください」

 それだけ言うと、俺をベッドに座らせて、神は部屋を出て行った。
 不幸中の幸いと言えば、此処に来るまでの間他の生徒に見られなかった事だろう。日が落ちた時間帯だったからか、カードキーを通さないと入れない裏口から入った事もあってか、日下達の恐れる事態にはならなかった。

 全部神の考えあっての事なのだろう。
 あれだけの事をしたのに、俺にとってのベストを違えない。

 裏切り。理由はどうあれ、神の好意を踏みにじった事には変わりなかったのに。
 俺は自己嫌悪に頭を抱えた。

 相当怒っていた。俺を扱う手は優しかったが、辺りも凍るような空気に、息が詰まりそうになった。
 クールな会長、と日下達が言っている意味を、ようやく体感したように思えた。

 初めてだったんだ、と神に相談したあの日。

 ―――恋する男に余裕なんて無いんですよ、伊織さん

 神は、そう言った。

 あの時の状況と似ているはずなのに、全く違っている。
 転生の秘密と天秤にかけてしまえば、身体を明け渡す事ぐらい軽いものだ。そう割り切っていたし、最初は嫌悪感を感じていた。それなのに、その内快感を感じていました、なんて、斯波の言う通り淫乱以外の何者でもない。

 端から見れば『前のが演技で騙していた』そう思われても不思議はなかった。
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