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Act 6 .迷える小鳥

悪魔のささやき※

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 覚醒する意識。目の前に映る赤髪に、前髪の一部だけが銀で染められた髪が目に入る。
 先程唇に感じた感触は、間違えなくこの目の前の男のものであろう。

 男の口元は怪しく弧を描く。俺はその反省する事のない態度と笑みに無性に腹がたち、俺は目の前の男の頬を思いきり叩いた。

「痛っ」

「何してる!?」

「何って、ナニ?」

「そんな事を聞いているんじゃない! 知らない奴に……」

「キスするなんて? そんなの、お前が欲しいからに決まっているだろう」

「はあ!?」

 会ったばかりの男に欲される意味が分からない。

「ホモセクシュアルなら他でやってくれ。俺はノーマルだ」

 最近とても怪しいが。言い切った言葉を訂正している暇などない。

「この間の後夜祭、双子の片割れとあんな熱烈な抱擁をしていたのにか?」

「なんでそれを……」

「運営側だったからな」

「……お前、生徒会の……」

「これはこれは光栄だな。俺の事を知ってるなんて」

 面白そうに男は笑った。
 なんで忘れていたのだろう。真っ赤な髪の男はそうそう居ないというのに。

「俺ならお前を助けてやれる」

「話が繋がっていない!」

「なら、これで分かるか? Just tell me?」

「なっ……!」

 俺は言葉を失った。まさかあれが聞かれていた?
 最悪な事態にさっと背筋が凍る。俺はずるずると男から後ずさった。

「お前いつから……」

「いつからも何も、可愛い小鳥ちゃんが教会に入る前から」

 俺は息を飲んだ。

 どこの馬の骨ともわからない男に、自分の最大の秘密がバレたのだ。犯した罪に、自分の浅はかさを思い知ると共に絶望した。
 なぜ簡単に人がいないと思ってしまったのか。なぜ口に出してしまったのか。
 後悔は絶え間なくボロボロと身から出てくるようだった。

 男はじりじりと俺を追いつめる。とうとう椅子の端に来てしまい、俺が立ち上がると、男も一緒に立ち上がった。
 俺はよろめき、柱に背が当たる。
 男の口元が再び怪しく弧を描き、柱に背を付けた俺の顔の横に手が置かれた。

「逃げるなよ、小鳥ちゃん。俺が楽にしてやるよ」

 俺は腕からすり抜け、走り出した。

 まるで悪魔の様な誘惑。
 此処にいては、危険だ。全身で何かがそう訴えていた。
 教会の扉を開けようとした時、後ろから伸びてきた手によって阻止された。バンっとした音と共に、開きかけた扉が閉じる。
 両腕に囲われて、逃げ場を失う。

「誰にも言えないのだろう? 双子の片割れにも」

 俺は相手を見つめ返す事しか出来なかった。
 男は足の間に膝を潜り込ませ、更に密着した格好になる。
 お互いの息がかかる距離。

「知られていいのか?」

「……それは脅しか?」

「別に俺は構わないぜ?」

「……」

「お前の悩みを聞いてやれるのは、神の他には俺だけだが?」

 悪魔のささやき。
 しかし、今の俺にはそれを振り払う術など存在しなかった。この秘密を天秤にかけられれば、身動き出来ない事なんか、きっと目の前のこいつは分かってる。
 俺は近づいてくる悪魔の口づけに、身を委ねるしかなかった。

 キツく舌を吸われ、口内を蹂躙される。立ったままだとやりづらいと思ったのか、椅子の上に移動させられ、上から強く押さえつけられた。

 伊吹のとは違う官能の匂いが深いそれに、言い表しがたい嫌悪感。
 気持ち悪い。
 なんで知らないやつとこんな事をしなければいけないのか。

「やめろっ」

 口づけから逃れようと、顔を背けようとするが、強く顎を捕まれ戻され、再び吐息までも奪われる。
 お互いの息遣いと、卑猥な水音が教会の空間に反響する。
 神の前で行うその行為に、眩暈がした。

 ゆっくりと唇が離れる。それでも唇が触れるくらいの近さは保ったまま、男はじっと上から俺を見つめ、そしてニヤりと笑った。

「感じちゃった?」

「なっ!!」

「湿ってる」

 ズボンの上から触られて、ようやく気づいた俺は顔に一気に血が集まるのを感じる。
 気持ち悪い。嫌だ。そう思っていたはずなのに。

「嬉しいな、感じてくれてるなんて」

「違うっ!」

「一緒に堕ちようか、小鳥ちゃん」

「嫌だっ」

 慣れた手つきでベルトとチャックを外すと、男の手があっというまにパンツの中に忍び込んだ。
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