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Act 5. 祭に興ずる鳥
もう一度……
しおりを挟むあっという間に文化祭が通り過ぎたように感じて、少し寂しい気持ちになる。中々打ち解けられなかったクラスとも、仲良くなれて、すごく楽しかった。
伊吹とも仲直り出来て、心に鎮座していた重石がとれたような気がした。
「終わったな」
風呂を入り終えて、薫のいれてくれたココアを持って、ソファーでひと息ついていた。
「そうだな」
テレビは薫がいつもチョイスしているが、今日はミュージカル映画が流れていた。ヒロインが、主人公に歌を返している所で、ぼんやりとしながらこの文化祭を振り返る。
本当に早かった。
楽しい時というのは、本当にあっという間で、明日からまた普通の日常に戻ってしまうと思うと少し寂しい気持ちもした。
「楽しかったか?」
「ああ、すごく。薫は?」
「去年より楽しかった」
「そうなんだ?」
「ああ、お前がいたからかな」
「なっ……」
真面目な薫が、あまりに率直にそんな事をいうものだから、思わず言葉に詰まる。
「伊織、バスケ部に入る気はないか?」
「え……」
真っ直ぐな瞳。
この瞳を、俺は知っている。バスケが好きな人の目だ。
「バスケ……」
「好きだと言っていたから多少出来るだろうとは思っていたが、正直あそこまで上手いと思わなかった」
映画の物語は、佳境。
主人公が悪と敵対し、ヒロインに出会う事を決意するシーンだった。
バスケをやりたくない、と言ったら嘘になる。
でも、もう一度バスケをしよう!と言われたら、俺はこの映画の主人公とは違って、決断出来ずにいた。
「練習すれば、レギュラー入りも夢じゃないだろう。昨日のストリートは他の部員も見ていたし、もしその気があれば、俺から監督にも話をつける」
言葉数の少ない薫が、今日はよく喋った。
いつもより瞳に熱が籠っているのは、バスケへの情熱だ。きっと、昔の俺もバスケをしている時は熱に浮かされた瞳をしていたんだろう。
「でも……」
でも、なんだろう?
俺は何を言うつもりなんだ?
断るなら早い方が良いに決まっているのに、決定的な否定を出来ずにいた。
「文化祭があってお流れになっていたが、明日部活見学にこないか? 決めるのはそれからでいい」
映画の主人公が頷く。
それに釣られるようにして、俺も首を縦に振っていたのだった。
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