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Act 4. すれ違う鳥達

酷似する視線

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「え、駄目ですか?」

 桐生がおろおろと心配そうな目で俺を見てくる。

「いや、信じるよ。今日すぐには無理かもしれないけど、ちゃんと話合ってみる」

 根拠も仮定もあやふやだ。けれど、人間関係は理論じゃない。

「ありがとな?」

 俺がそう言うと、桐生は口元を抑えて顔を赤くした。

「伊織さん、その顔もう一回してください。今度は写真に、」

「次同じ事言ったら、フィルムとネガ全部没収するから覚えておけ」

「……はい」

 目に見えて肩を落とす桐生。
 こういう所が無ければ頼れる良い先輩で終わるのに、何処までも変態という代名詞がついて回るらしい。
 神は二物を与えずというのはあながち間違ってない。

「お前のクールって言われる一面を見てみたいよ」

「もしかして、クールな方が伊織さんの好みですか?」

「まあ、変態よりは良いんじゃないか?」

「分かりました」

 今までの間の抜けた顔から一転して、真面目な顔になる。
 2連の泣きぼくろが、男前で整った顔立ちに更に色気も追加しているようで、酷く妖艶だった。色男とはこういうのを言うのだろう。
 桐生は流れるような動作で俺の隣に移動すると、俺の頬を淫猥な手つきでなぞった。

 何かがおかしい。

「お前、何を」

 しようとしているんだ。という言葉は、桐生の唇に遮られた。

「んっ!」

 抗議しようと開けた口にあっさり侵入され、舌を絡めとられる。
 顔を離そうと身をよじっても、更に深く口づけようとしてくる桐生に腹がたち、俺は桐生の舌を思いっきり噛んだ。

「痛っ」

「何勘違いしてんだ馬鹿」

「変態じゃなければ、良いんですよね?」

 これが真剣な気持ちであれば、変態ではありませんよね?と桐生は言葉を続けた。

 射抜くような桐生の熱い視線と、紅い血がついた唇を艶かしく舐めとるその姿に、ぞくりと背中が粟立った。

「好きなんです」

 目がそらせなかった。その瞳が昨日の伊吹のものにあまりにも酷似していたから。

「あなたが愛おしすぎてどうにかなりそうで」

「……何の冗談、」

「冗談なんかじゃありません。黙っておくつもりでした。このまま頼られる先輩の立ち位置を築けば、良いと思っていたはずなのに、あなたを目の前にしたら抑えなんか効かない」

 欲情を孕んだこの瞳を俺はよく知っていた。
 伊吹が時折、こんな目で俺を見ていた事があったから。
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