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Act 3. 学園に入った鳥
理事長
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扉に向き直り、俺が理事長室のドアをノックする。
「本日付けで編入してきました、小鳥遊です」
「どうぞ」
その言葉に、失礼します、と中に入った。
中は他の高校と大差がない、理事長室が広がっていた。差があるといったら、無駄な広さと、調理室が備え付けられている当たりくらい。
デスクに座って、パソコンを見ていた理事長が、ノートパソコンの蓋を閉じる。逆行で顔は良く見えない。
「良く来てくれたね。どうぞ、こっちに座ってくれるかな」
デスクの前の応接セットに促されるままに、俺たちは座る。
「ごめんね、今コーヒー用意するから」
陰になっていた理事長の顔を漸く見たとき、俺は愕然とした。
――高城隆二。
見間違えるはずもない。
18年間一緒だった幼馴染の顔。
20年の歳月が顔に皺を増やしていたが、引き締まった身体のラインはそのまま。歳をとった事により、深みのある大人へと成長していた。
隆二。
思わずそう呟かなかった俺を、褒め讃えてほしい。
小鳥遊になってから、一度も水無瀬だった時の人に会った事はなかった。
同じ東京に住んでいるから会えるのでは。
子供の頃はそう考えていたが、意外に世間は望むものには広く変容するらしい。
生まれ変わってから、一度も忘れた事はなかった。
セピア色に変わってしまった思い出は、今も大事に大事に俺の記憶の中に仕舞われている。
そう、一度だって忘れた事が無かったよ隆二。
今にも叫び出しそうな気持ちをぐっとこらえた。
「私の顔に何かついているかい?」
しばらく隆二の顔を見続けていたらしい。俺は変な方向に暴れ出す心臓をひた隠しにしながら、「いえ」と答えた。
「伊吹君久しぶり。伊織君とは初めましてだね? 私は高城隆二、この学園の理事長をやってます」
女が見たら、蕩けてしまいそうな笑顔を顔に浮かべて隆二が挨拶する。隆二の口から、俺の今の名前を呼ばれるのは変な感覚だった。
寛。
そう呼ばれていた事が、酷く昨日の様に感じる。
「久しぶりです、高城理事長」
「初めまして、小鳥遊伊織です。この度は、このような素敵なお話ありがとうございました。この学園の名に恥じないよう、精一杯勉学に励みたいと思っております」
内心の動揺は誰にも悟られてはいけない。俺はいつもの学会の自分を頭で投影しながら、口上を口にする。
「そんなに畏まらないで。私は君たちに、勉学をしてもらいたくて、この学園に呼んだんじゃないんだ」
その言葉に、俺と伊吹は顔を見合わせた。
「というと?」
「確かに、他の生徒に示しがつかないから、主席はキープしてほしいけど、一番はこの学園を、学生生活を2人に満喫して欲しい」
「「え?」」
困惑する俺たちに、隆二は困ったように笑った。
「君達のお父さんに相談されてね。子供なのに、子供らしい事何一つしてやれてないって。丁度私が学園を保有していたから、どうか?
って提案したんだよ。ここから先は伊吹君も居たから知ってるだろうけど」
高城の父も、父様も製薬会社だった事を思い出した。
製薬会社の知り合いって、隆二のことだとは夢にも思わなかったが。
「だから、純粋に学生生活を謳歌してほしい。私も君たち位の時が一番人生の中で楽しかった時だったからね」
人生の中で一番楽しかった時。当時の事を思い出しているのだろうか。隆二は哀愁帯びた顔で、俺たちに微笑みかけた。
胸が締め付けられる。
俺はここにいるよ。お前の目の前に。
神様がもう一度お前に会う事を許してくれたんだ。
気を抜けば、今にでも泣き出してしまいそうだった。
叫び出してしまいそうだった。
お前の左手の薬指には、指輪が輝いていて。俺の言った事をちゃんと実行してくれたようだった。
――今度会って、お前が結婚してなかったら、大嫌いになってやるから。
お前の事大嫌いになんてなれる訳ないのに。
お前が前に進んでくれていて良かった。
「本日付けで編入してきました、小鳥遊です」
「どうぞ」
その言葉に、失礼します、と中に入った。
中は他の高校と大差がない、理事長室が広がっていた。差があるといったら、無駄な広さと、調理室が備え付けられている当たりくらい。
デスクに座って、パソコンを見ていた理事長が、ノートパソコンの蓋を閉じる。逆行で顔は良く見えない。
「良く来てくれたね。どうぞ、こっちに座ってくれるかな」
デスクの前の応接セットに促されるままに、俺たちは座る。
「ごめんね、今コーヒー用意するから」
陰になっていた理事長の顔を漸く見たとき、俺は愕然とした。
――高城隆二。
見間違えるはずもない。
18年間一緒だった幼馴染の顔。
20年の歳月が顔に皺を増やしていたが、引き締まった身体のラインはそのまま。歳をとった事により、深みのある大人へと成長していた。
隆二。
思わずそう呟かなかった俺を、褒め讃えてほしい。
小鳥遊になってから、一度も水無瀬だった時の人に会った事はなかった。
同じ東京に住んでいるから会えるのでは。
子供の頃はそう考えていたが、意外に世間は望むものには広く変容するらしい。
生まれ変わってから、一度も忘れた事はなかった。
セピア色に変わってしまった思い出は、今も大事に大事に俺の記憶の中に仕舞われている。
そう、一度だって忘れた事が無かったよ隆二。
今にも叫び出しそうな気持ちをぐっとこらえた。
「私の顔に何かついているかい?」
しばらく隆二の顔を見続けていたらしい。俺は変な方向に暴れ出す心臓をひた隠しにしながら、「いえ」と答えた。
「伊吹君久しぶり。伊織君とは初めましてだね? 私は高城隆二、この学園の理事長をやってます」
女が見たら、蕩けてしまいそうな笑顔を顔に浮かべて隆二が挨拶する。隆二の口から、俺の今の名前を呼ばれるのは変な感覚だった。
寛。
そう呼ばれていた事が、酷く昨日の様に感じる。
「久しぶりです、高城理事長」
「初めまして、小鳥遊伊織です。この度は、このような素敵なお話ありがとうございました。この学園の名に恥じないよう、精一杯勉学に励みたいと思っております」
内心の動揺は誰にも悟られてはいけない。俺はいつもの学会の自分を頭で投影しながら、口上を口にする。
「そんなに畏まらないで。私は君たちに、勉学をしてもらいたくて、この学園に呼んだんじゃないんだ」
その言葉に、俺と伊吹は顔を見合わせた。
「というと?」
「確かに、他の生徒に示しがつかないから、主席はキープしてほしいけど、一番はこの学園を、学生生活を2人に満喫して欲しい」
「「え?」」
困惑する俺たちに、隆二は困ったように笑った。
「君達のお父さんに相談されてね。子供なのに、子供らしい事何一つしてやれてないって。丁度私が学園を保有していたから、どうか?
って提案したんだよ。ここから先は伊吹君も居たから知ってるだろうけど」
高城の父も、父様も製薬会社だった事を思い出した。
製薬会社の知り合いって、隆二のことだとは夢にも思わなかったが。
「だから、純粋に学生生活を謳歌してほしい。私も君たち位の時が一番人生の中で楽しかった時だったからね」
人生の中で一番楽しかった時。当時の事を思い出しているのだろうか。隆二は哀愁帯びた顔で、俺たちに微笑みかけた。
胸が締め付けられる。
俺はここにいるよ。お前の目の前に。
神様がもう一度お前に会う事を許してくれたんだ。
気を抜けば、今にでも泣き出してしまいそうだった。
叫び出してしまいそうだった。
お前の左手の薬指には、指輪が輝いていて。俺の言った事をちゃんと実行してくれたようだった。
――今度会って、お前が結婚してなかったら、大嫌いになってやるから。
お前の事大嫌いになんてなれる訳ないのに。
お前が前に進んでくれていて良かった。
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