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第三章

気づいてる?

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「どう思う?!」

「近いと思う」

「え?…あっ、ごめんごめん」


目と鼻の先にいたクロスにそう言われて慌てて勢い余って近づけていた顔を離す

って

「違うよ!!ハルのことについてどう思ってるのかって話!」


あの後、コレットと合流して話を聞いたところ、私が去った後の教室は大騒ぎだったらしい
残ったハルは話を聞いてものらりくらりとかわすだけで話にならず噂だけが膨れ上がっていったらしい

「ごめんねセッちゃん…私もどうにかして誤解を解きたかったんだけど、誰も相手にしてくれなくて…」

「ううん全然!コレットのその気持ちだけですごく救われてるよ!それに、悪いのははっきりと誤解を解かないハルだからコレットは気にしないで!」

マイスイートエンジェルの気持ちに救われながら、ハルが戻ってきた時に今度こそ問い詰めてやろうと気持ちを新たにしたはいいものの
結局今日の授業が終わるまでハルが教室に戻ることはなかった


そして今、私はいつもの場所でクロスを待ち、今日一日あったことを一気にぶちまけた


特にハルに告げられたクロスに対する失礼すぎる呼び名を思い出したときは酷かった
怒りが蘇り正体を隠して陰でそう言っている奴らを見つけ出し闇討ちしてやろうかと本気で思った

何より驚いたのは、クロスがその呼び名を知っていたことについてだ
話の途中でクロスにその呼び名が知られないようにぼかしながら愚痴っていれば、あっさりと本人の口からそれが出てきたときは一瞬息が止まったものだ


「知ってたの!!?」

「あぁ」

「なんで言ってくれなかったの!!?」

「こうなるって分かってたからな」

「なんでそんな冷静なの!?」

「お前が熱くなりすぎなの」

「陰であんな呼び方されて悔しくないの!?」

「悔しい…とも違うな。それを初めて聞いたとき、俺は真っ先にお前のことが心配だった」

「!!……」

なんだよそれ

今までびっくりするくらい淡々としてたのに、なんでそういうことを言う時だけ……

「今みたいに俺の知らないとこでお前が爆発するかと思うと気が気じゃなかったからな」

「いやそういう意味かーい!!」

ちょっとドキッとしちゃったじゃんかよコノヤロー!!

「他になんの意味があると思ったんだよ」

少しからかうような笑みを浮かべるクロスに不覚にもまたドキッとしてしまった
なんだなんだ!たまに出るその顔はずるいっていつも言って……はいないけど、思ってるんだから!

「べ、別に」

自分の変になってる顔を見られたくなくてそっぽを向く私の耳にクロスのクスクスとした笑い声が届いた

こいつ~!!初な女の子をからかいやがって~!!


「そう拗ねんなよセツ」

「拗ねてないしーー」

「予想はしてたけど、実際に俺のために怒ってくれるお前を見て嬉しかったのは本当だ」

「……馬鹿にされてるのに嬉しいってなんだよ」

「だよな。我ながら不謹慎なこと言ってると思う。それでも、お前に言っておきたかったから。ありがとうって」

あぁ我ながらなんてチョロいのだ
こいつのありがとうっていう言葉だけでガキみたいな感情も和らいでいくなんて

「それと、そのハルってやつのことも、俺のことで引っかかってるならそれは考えるな。そいつがお前にとって害になりそうな時だけ警戒すればいい。…あまり気を張って人を遠ざけるな」


…人を遠ざけているつもりはない
仲良くなれるなら私からしたら大歓迎だ


「その顔は納得してないって顔だな」

「だって…遠ざけてなんかいないし…」

「お前は人懐っこいし仲良くなりたいと思った人とはすぐに仲良くなれる性質の人間だけど、そうじゃない相手に対して引く一線が深すぎる。自覚もあるだろ?」

「……」

確かに一線を引いてる自覚はあるけど深すぎるってのはちょっと言いすぎな気が…
それに

「…私は私に対して好意的じゃない人にしか一線を引いてないよ」

「お前は昔から人の気持ちに対して敏感というか妙に鋭いところがあるからなぁ、鋭すぎるのも困り物だな」


ポンッと頭の上に優しく置かれた手

別に悲しいや困ったと思ったことはない
むしろ人の気持ちがなんとなく分かってやりやすいとは思っていた
特に敵意なんかは分かりやすかったから私をよく思ってない人には自分から近づこうとは思わなかったし、私を利用しようとする人には一寸の隙も見せることなく徹底して強くいられた

ただ…その分疲れていたのも確かで…


「気を張って人を遠ざけるな…か、私のこと言えないよ、クロスは」


私なんかより、クロスのほうが何倍も人の気持ちに敏感じゃないか

「何言ってんだ、俺は気なんか張ってないし人を遠ざけてもいないぞ」

「そっちじゃないしー」

「…あぁ!……俺はいいんだよ、大事だと思ってる奴のことしか見てねえから分かるようにもなる」

「ははっ、なぁにそれ、すごい殺し文句」

「笑うな、俺だって恥ずかしいんだ」

今度はクロスがそっぽを向いたけど、横を向いたことで赤くなった耳が余計に目に付いた
珍しくクロスのかわいいとこが見れたのは妙に嬉しかった


「分かったよ、ハルのことはもうちょっと様子を見ることにする」

「あぁ、そのほうがいいだろうな」

「でも、あいつがまたクロスや私の家族のことで挑発してきたら、そん時は私も容赦はしない。それだけは言っとく」

「まあ…そん時はそん時だ」

「ふふっ、流石クロス。よく分かってる~」


いつの間にか、大事な人たち以外の前では気を張るようになってしまった私だけど
気づいてる?
そんな私が一緒に居る時一番気が緩んでいるのは誰か

聡いあなたはいつになったら気づくのやら



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