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第三章
特殊
しおりを挟む「クロス?」
今さっきまで感じていた焦りも忘れて眉を顰めながらハルの顔を凝視する
どうしてこいつがクロスのことを?
「わお、クロス・ウェルシーの名前を出しただけでセツィーリアちゃんってばそんな顔するんだ~」
「なんでクロスのことを聞くの?そもそも、どうやって知ったの?」
「あれ?もしかして知らない?クロス・ウェルシーって結構有名だよ~、"セツィーリア・ノワールの優秀な僕"ってね」
「…なんですって?」
そんな話、聞いたことない
確かにクロスのお母さんのミリアーナさんはうちの正式な使用人だけど、クロスは自由な身のはずだ
ノワールの名前で縛られることなんて…さらに言えば"僕"なんて言葉を使われていい存在じゃない
「そんなに彼のことが大事?ただの"僕"なのに?」
ハルがわざとこういう言い方をして私を挑発してるのは分かる
カチンとは来るけど、私はそれに乗るつもりはない
前に一度失敗しているから
例え状況が違っていても、もうアイシャの時のような失態を犯すつもりは無い、二度と
「クロスは"僕"なんかじゃないわよ、私たちの家族よ」
事実を淡々と述べるも、ハルは納得がいかないのか食い下がってくる
「それはおかしくな~い?だって聞けばクロス君って使用人の息子でしょ~?使用人とすら呼べないような存在なのに家族って、色々と間違ってると思うけど~?」
ハルがそう言うのも無理は無いと思う
ていうか、もうそういうことを言われ飽きたし聞き飽きた
今までにだって私たちノワール家とクロスとの関係について色々と口を出してくる部外者が沢山いた
「あのような身分の子どもを軽々しくあなた方の身内としないでください、付け上がりますよ!」や「そのような子ではなくうちの息子と親交を深めてみてはいかがですか?」「まあ!?使用人の子どもだなんて!身の程を知りなさいよ!」
色々と言われたし聞かされた
最初はそんなことを言う奴ら全員に噛み付いてやりたかったけど、私が怒る前にお父様とお母様が無難にそいつらの相手をしたから私の怒気は削がれた
その後二人にどうして反論しなかったの!と八つ当たりも兼ねて聞けば
「当主がそう簡単に感情を露にするわけにはいかない。笑顔を浮かべながら嫌な事を流せるような人に成らなければいけないのだ。」
今はその言葉の意味がよく分かるが、当時まだまだ未熟中の未熟だった私はお父様を冷たいと思い一時期拗ねて口も聞かなかったことがある
そんな私に一番呆れていたのはクロスだった
私はそれに対しても納得がいかなかった
だって、こっちはクロスのことで怒ってるのに!確かに、勝手に私が怒ってムカついてるだけだけどさ!でもクロスはもっと気にするべきだよ!私はクロスが酷く言われてるのが許せない!
それをクロスに言えば
「その人たちの言ってることは正しいよ。セツや旦那様たちが特殊なだけで」
「そんなこと!」
「あるんだよ。本当なら、俺とセツは同じ席に着くことはおろか、軽々しく名前を呼べるような関係じゃない」
話しかけることすら阻まれるんだよ、俺とお前の本当の関係は
クロスのこの言葉は少なからず私にショックを与えたし、この世界の身分制度というものを思い知った
この件以降、私はしばらくの間考え込んだ
で、考え込んだ結果
誰にも何も文句を言われないくらい立派な、ノワール家に相応しい令嬢になれば、私がクロスや他の使用人たちのことを家族として扱っても誰にも咎められないのではないか、という結論が出た
そしてここで漸くお父様の言っていた言葉の意味も理解出来た
一家の主はそう簡単に弱みを見せてはいけないのだ
大切なものや人達ほど強みにも弱みにもなる得るし、そこに付けこもうとするやつはこの世界には山ほどいる
その人たちを守る為にも、どんなことでも冷静に流せるような力を身につけなければならないのだと知った
だから私も何があっても動じない人間になった
まあ、まだまだ感情の方が勝っちゃう時もあるけどそれでも大分自分を律することが出来てると思う
それに、発散の方法も分かったしね
ある時クロスに「最近大人しくなったね」と言われたことがある
それがどういう意味なのか分かっていたから笑顔で言ったのだ
「物理的に仕返し出来ないから社会的に仕返し出来るって分かったからね」
この言葉を聞いた時のクロスの顔は傑作だった
少年よ、結局私はやられたら黙ってはいられない人種なのだよ
それに、このやり方はお父様の受け売りだから呆れるならお父様の優秀な遺伝子に呆れてね
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