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第二章

乱入

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大好きな弟の声が聞こえたと思ったら身体を後ろに引っ張られた


「ぬうお!」

いきなりのことで驚きの声をあげればそれと同時に肩に回される腕

今の一瞬で側に来たことにもびっくりしたが、何よりも意外だったのはユーリがこんなにも分かりやすく敵意をむき出しにしていることだ


「ユーリ?」

呼びかけてもユーリは私の隣に座っているソフィを睨みつけているだけ

戸惑ってソフィのことを見ればソフィはキョトンとしながら数回瞬きをしたかと思うとまさかの笑顔を浮かべた


「やあ、初めまして…じゃないか。初対面の時は緊急事態で自己紹介出来なかったよね、僕はソフィール・エリオット。君は確か」

「ユーリ・ノワール、セツ姉の義弟だ」

「そう、よろしく、ユーリ殿」

「……」


友好的なソフィとは反対にさらに私を抱きしめる力を強め警戒心を高めるユーリ

珍しすぎるユーリの反応に困惑しながらもここは姉としてきちんと言わなきゃいけないと思った


「こらユーリ!ちゃんと挨拶しなきゃダメでしょ?それにいつまでもそんな怖い顔してたらソフィに失礼だよ」

顔を横に向けてそう注意すれば明らかにむっとしたユーリ


「セツ姉…この子とどういう関係なの?ソフィール・エリオットって、この国の第三王子の名前だよね?どうしてそんな人がここに?しかも親しそうに愛称で呼んでるし」


目を細めていつもより低い声で問うユーリはどう見ても怒っていた
怒られるような理由は思いつかないがとりあえずここは自分とソフィの関係をはっきりさせることがこの険悪な空気から脱する方法だと考えた


「ソフィとはただの友達だよ!前に町で偶然会ってね、その時に名乗った名前がお互いの愛称だったからそれが定着したんだよ」

「ただの友達があんな風に顔を近づけて見つめあったりする!?」

げっ!!
まさかとは思ってたけどやっぱり見たのかよ!!

ユーリに痛いところを突かれてつい顔を引きつらせてしまう
別にやましいことはないとは言え、やはりあのような恥ずかしいところを人に、しかも弟に見られるなんて…!!姉としての威厳とか尊厳とかが…!


「そんなもん元々ないから」

「はい」


もう野暮なことは聞かないぞ
どうせあれだろ、また口に出してたんだろ
知ってる、私懲りない奴だから知ってるよ



黙る私を一瞥して再びソフィに目を向けるユーリ

眉を潜めながら口を開こうとしたその時


「ねえ、セツ。そろそろ彼の紹介もしてくれないか?」


先に口を開いたソフィの言葉に首を傾げ

そして、彼が誰のことをそう言ったのかすぐにピンッと来た


もしかして!と思って扉の方を見ようと少し首を伸ばせば
そこには気まずそうに扉の前に立っているクロスがいた


「クロス!」


思いの外自分でも少しびっくりするくらい嬉しそうな声が出た

私に名前を呼ばれて(むしろ叫ばれてと言った方が近い)苦笑を漏らすクロス

クロスの姿を見た瞬間条件反射で立ち上がった私を見てソフィが目を見張ったことにも
私に抱きついたまま一緒に立つことになったユーリがさらにむくれたことにも

クロスしか見ていなかった私が気づけるはずもなかった



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