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第一章
成長しました
しおりを挟む前世の記憶を思い出してから二年の月日が流れた
この二年の間で、私の印象がどう変わったのかは知らないが、それまで余所余所しかった使用人の皆々様が気軽に話してくれるようになった
正直めっちゃ嬉しかった、夜に一人で部屋で突然踊りだすレベルで嬉しかった
それからは使用人という概念は消え、この家のみーんなが家族っていう認識が普通になった
お父様も目つきの悪さは変わらないが、お母様とラブラブなおかげか雰囲気が随分と柔らかくなり、今じゃ使用人の皆からも生温かい目で見られている
前までは怖い当主だったのに今じゃ皆ただの愛妻家だと思っている
いや、いいんだよ?仲良きことは美しきかなって言うし
でもさ、父よ。あなた家での威厳とかめっちゃなくなってますが大丈夫ですか?
お母様もいつもの被害妄想はあるものの驚くくらい逞しくなった、もちろん精神的な意味で
これもお父様とのラブラブパワーのおかげなのか、ちょっとやそっとのことじゃへこたれないようになったし、今じゃ悲劇のヒロインバージョンの母を久しく見ていないのが現実だ
クロスとも相変わらず、というかもう本当の兄妹みたいな仲となり、何もかも順風満帆
どっからどう見ても幸せな人生を送っていた
だからこそ言いたい
平和すぎて怖い
最初の頃はいきなりの展開にパニックになったり、死亡フラグに絶望したり(まあすぐに開き直ったけど)して、精神的にめっちゃ忙しかったけど
今じゃこの絵に描いたような平和だ
だからこそこの後のしっぺ返しが恐ろしい
ていうか、こんなに平和だと腑抜けて肝心なときに動けなくなりそうで怖いんだけど…
…そうだ!私はもう6歳なんだから、まだまだ先とは言え、自分の身を守れるくらいの力は手に入れといた方がいいに決まってるよね!
そしたら、例え殺されそうな状況に陥っても護身術で生き延びられるし
うん!
「ということで、一緒に強くなろうぜ!」
「何がということなのかも分からないしなんで強くなる必要があるわけ?」
「クロス、もし私に何かあってもクロスは元気で生きてね!」
「お前何言ってんの?」
「私は負けない!運命に抗って見せるわ!!」
「人の話聞けよ」
よし、そうと決まったらまずエドさんに身のこなし方を習おうかな
あの人この前こけそうになった私の目の前にいきなり音もなく現れたんだよね
しかも直後に数メートル先のメイドさんが手を滑らせて落としそうになってた花瓶も難なくキャッチしてたし
あれはもう人間業じゃないよ、あの人絶対忍者だよ、水の上歩けるって言われても驚かないよ
「あっ、そうだ。セツ」
「いやぁ、まさかこんなとこで忍者に会えるとは思わなかったな~世の中って狭い!てか、忍者ってことはやっぱり手裏剣とかクナイとか持ってたりするのかな?うわうわやばいやばいやばい、エドさんが忍んで手裏剣構えてる姿とか絶対かっこい、い゛ッ!!」
「話聞けって言ったよね?」
表情にこそ出していないものの若干キレてるのが分かるクロスに強めのデコピンを喰らった
前にもこんなことがあったから「私のデコが凹んだらどうしてくれるの!」と言ってやりたかったけど、話を聞かなかったのは私だし、何より本能が逆らうなって言っていたから大人しく話を聞くことにした
「明日母さんが街に行くんだけど、お前も行く?」
「行く!!」
間髪入れずに答えた私の勢いに押されてクロスは苦笑いを浮かべた
クロスの話によれば、明日ミリアーナさんは友人の出産祝いを買いに行くらしい。そしてその人には私と同じ年頃の娘がいるらしく、その子へのお土産を一緒に選んで欲しい、ということだった
その話を聞いて、すぐにミリアーナさんは私に町に行ける理由を作ってくれたと気づいた
だって実際、私の助言なんてなくてもミリアーナさんのセンスは一級品で、人に何をあげれば喜んでくれるかを熟知しているプロだからだ
すぐにお礼を言いに行きたくてミリアーナさんを探し回った
お目当ての人物を見つけたら、そりゃもう突進する勢いでその柔らかい胸に飛び込んでいった
「お嬢様、明日は一緒に楽しくお買い物しましょうね?」
「はい!ミリアーナさんとのデート、とっても楽しみにしてますわ!」
「ふふ、私もです。あっ、でもこれだけはちゃんと守ってくださいね?勝手にどこかに行ったりしない、何かあったらすぐ私に言うって。約束できますか?」
「もちろん!私はもう子供じゃないしミリアーナさんを困らせるようなことはしませんわ!」
「流石お嬢様、頼もしいですね」
二人で笑いあって、早速明日のことについての話に華を咲かせた
ずっと前から行きたい行きたいと言っていたのに、まだ小さいからダメとか危ないからダメとか今日はダメとかって流され続けてきた
でも、そんな私にもついに下町デビューの日は訪れた!!
この時の私はすっかり浮かれていた
だから
さっきまで"フラグ"について悩んでいたことなんて綺麗さっぱり忘れていた
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