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第一章
ノワール夫妻
しおりを挟む実は、私が、セツィーリアが物心つく頃からノワール夫妻の不仲は有名だった
お父様は常に眉間に皺を寄せていて元から鋭い目付きはまさに鋭利な刃物のようだった
綺麗な顔立ちが余計その恐ろしさを引き立てていた
仕事も忙しいのか家族揃って食事を取れるのなんて月四回あったら快挙だと言われるくらい
口数も少なく口を開いたかと思えばドスの効いた声で「精進しろ」的なことを言うだけ
我が父ながらそんなにいつも厳つい顔と声をしていて疲れないのかと聞きたくなった
お母様はというと、波打つ栗色の髪を腰より長く伸ばした儚い系美人だ。ちなみに儚いのは見た目ももちろんだけど中身もだ。
あっ、違った。中身は儚いというより女々しいのだ。そこらの悲劇のヒロインバリに女々しいのだ
いつもいつも私に会う度に悲しそうに笑って「あぁ、愛しい愛しいあの人と私のセツィーリア、せめてあなただけはお母様の代わりに幸せになって?」と言うが
お母様、ハッキリと言います
あなたは被害妄想が激しすぎです
というのも、この母悲劇が大好きなのだ。観劇のテーマは悲劇から外れた事がないし、何より単純なのか純粋なのか感化されやすい。そして観劇を終える度に劇の内容に自分の境遇を重ねてああでもないこうでもないと勝手に自分の設定に加えていく節があるのだ
口癖は「私はいつまでもあの人を愛しています…でも世界は残酷ですわ」だ
ことある事にそれを言うから私は三回目の時にして
あっ、この人はおバカさんだ
と確信した
でも、お母様の話を抜きにしても、お父様がお母様に愛情を向けてるとは私にも思えなかった
顔を合わせれば形式的な挨拶だけで2人ともニコリともしないんだもん
だから食事の場はとても息苦しい
物音一つ立てれば射殺されるんじゃないかと毎回ヒヤヒヤとしながら食べている
こういう時だけはセツィーリアの何にも動じない図太さが欲しかったぜ
そんな状態がずっと続けられるはずもなく、ついに離縁間近!?という噂が流れている
そしてそんな噂が流れ始めてから我が家はさらに大変なことになった
お母様はさらにメソメソしやすくなり部屋に引きこもりがちになるしお父様はもうあなた何人か殺っちゃってるでしょ、と思ってしまうくらい目付きが悪化していた
あの凶悪を上回る凶悪があったのはびっくりだ
ていうか後ろに大魔王的な何かが見えているのは私だけでしょうか?
「ねぇ、クロスたんや、私はどうすればいいかね」
「さぁ?セツはどうしたいの?離縁してほしいの?あとクロスたん呼びやめろ」
「え~、一緒にいるのが辛いっていうのならしょうがないとは思うけど…でもあの二人は離縁したらしたでもっと苦しむような気がするんだよね」
今私達は私の部屋で秘密の会議中だ
ため息をついてクロスが淹れてくれた紅茶を一口飲む
あっ、うま
この子まだ7歳でこの腕前とか紅茶ソムリエにでもなるつもりか?
「なんかまたアホな事考えてるんだろうけどさ、そう言うってことは何か根拠でもあるの?」
アホな事とは失敬な!クロスたんの大事な将来のことなんだから!
と心の中で訴えた
私は大人だからわざわざ子供みたく口に出したりしないのだ
「根拠っていうか、あの噂が流れ始めてから明らかに二人の様子がさらに変になってんだよね。本当のことならあんなに動揺するのおかしいでしょ?」
「確かに。旦那様は見るからにあの噂に苛立ってるし奥様は傷心で床に伏せる程だもんね」
「そうそう!なんとかしてあげたいんだけどさ~、私みたいな子供が口を出した所で解決するとも思えないし…もー!」
頭を抱えて唸ってる横でクロスはじーっと静かに私を見ていた
おいおい、悩んでるレディが近くにいるんだからなんか慰めの言葉をかけるのが紳士の嗜みってやつだろ~?こういうとこはまだまだお子ちゃまだね~クロスたんは
「いたっ!!ちょっ、クロス!?」
「あっ、ごめん。なんかすごい失礼な事言われたような感じがして。あと、顔もなんかムカついたからつい」
デコピンされた額を押さえながらギクッと体を震わす
え、何この子読心術でも使えるの?下手な事考えなんないじゃん!
「あと、さっきの話だけど、俺が思うにそんなことは無いんじゃない?」
「え?どういうこと?」
ニヤリと笑ったクロスの笑みに不覚にもドキッとしたのは秘密だ
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