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兄弟
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「――ディサンテ様、聞いていますか?」
「え? あ、聞いていませんでした」
突然話しかけられ、ディサンテは素直に答える。教育係の言葉を考えたら、おそらく何か話しかけられたと判断した。
「素直なのはディサンテ様の良いところですが、今は真剣にお願いします。もう時間がありません」
時間がない。それは昨日から何度も言われていることだ。けれど、詳細は成人の儀を終えてからじゃないと教えてもらえない。なんとももどかしい。
そんな教育係とのやり取りのなか、廊下につながる扉からノックがする。
「ディサンテ、勉強中すまないが失礼するよ」
教育係は慌ててドアを開き、声の主を丁寧に迎えた。
「兄さん。視察は終わったの?」
「うん……まぁ、ちょっとあって。――それはともかく、ちょっと話がしたいんだけどいいかな?」
後の言葉は教育係に対して問いかける。それに対して教育係は静かに頭を下げた。
「少し座らせてもらうね。――ディサンテの勉強はどこまで終わっているかな?」
「レークス様。こちらの書物を昨日一晩で読んでいただき、その内容の確認を今しておりました」
「そう、ありがとう。では、この国の成り立ちや維持についても大丈夫だね?」
「はい。ディサンテ様は一晩ですべて覚えてくださいました」
ディサンテの兄、レークスは教育係に礼をいい、お茶を持ってくるように指示した。人払いをするときの言葉だ。
教育係は深く頭を下げて、部屋を退室していく。
レークスはディサンテに向き質問をする。
「さてと、ディサンテ。今朝、街の様子はどうだった?」
「朝市を中心に見ているけれど、活気があって特に変化はなかったです。ただ――」
「なにか他に?」
ディサンテは胸元にしまってあった、素朴な人形と布に包まれた小瓶を机の上にそっと置いた。
何も言わずレークスの様子をうかがう。
「……ディサンテ、これはどこで?」
「朝の市場でそれを売っているようです。それを仕入れた店から「売れないから」と言われて渡されました」
「…………」
ディサンテがそう答えると、レークスはしばらく黙って考える。危険はないとディサンテは思う。
「ディサンテ。お前の考えを聞きたい」
「――これ自体に危険はないと思います。けれど、街全体に違和感がありました。原因はわかりません。ただ、何かがありそうな……」
「そうだな」
そう言って再び考え込むレークスにディサンテは話をする。
「兄さん、これは俺の考えですが……。この人形の生地はこの辺の織物ではないと思います。そして、これは「魔除けの人形」と言ってました」
そこで一度言葉をきり、小瓶に巻き付けていた織物をレークスへ広げた。彼の目の前には、人形と織物と小瓶が並ぶ。
「この三つどれも、見かけないものです。さらにこの小瓶は「開けてはいけない」ものだと言ってました。しかも中身がないとも。――兄さん、俺にはこの小瓶の中に光っている何かが見えます」
レークスは黙って話を聞き続ける。
窓から入ってくる日は高く、部屋を明るく照らし日陰はより暗くなる。
「――結論から言いますと、すでに何かが起きている状態ではないかと。『魔除けの人形』これは明らかにこの国のものではない。それから『織物』のこのデザインは独特の感性を感じますから、やはりこれもまた……。最後にこの『小瓶』は何らかの力が封じてあるように見えました」
レークスは深くため息を吐いた。
「ディサンテの成人の儀は明日の午前中に決まった。父も妹も明日の朝までに城に到着するから、そのつもりで」
「兄さん?」
「え? あ、聞いていませんでした」
突然話しかけられ、ディサンテは素直に答える。教育係の言葉を考えたら、おそらく何か話しかけられたと判断した。
「素直なのはディサンテ様の良いところですが、今は真剣にお願いします。もう時間がありません」
時間がない。それは昨日から何度も言われていることだ。けれど、詳細は成人の儀を終えてからじゃないと教えてもらえない。なんとももどかしい。
そんな教育係とのやり取りのなか、廊下につながる扉からノックがする。
「ディサンテ、勉強中すまないが失礼するよ」
教育係は慌ててドアを開き、声の主を丁寧に迎えた。
「兄さん。視察は終わったの?」
「うん……まぁ、ちょっとあって。――それはともかく、ちょっと話がしたいんだけどいいかな?」
後の言葉は教育係に対して問いかける。それに対して教育係は静かに頭を下げた。
「少し座らせてもらうね。――ディサンテの勉強はどこまで終わっているかな?」
「レークス様。こちらの書物を昨日一晩で読んでいただき、その内容の確認を今しておりました」
「そう、ありがとう。では、この国の成り立ちや維持についても大丈夫だね?」
「はい。ディサンテ様は一晩ですべて覚えてくださいました」
ディサンテの兄、レークスは教育係に礼をいい、お茶を持ってくるように指示した。人払いをするときの言葉だ。
教育係は深く頭を下げて、部屋を退室していく。
レークスはディサンテに向き質問をする。
「さてと、ディサンテ。今朝、街の様子はどうだった?」
「朝市を中心に見ているけれど、活気があって特に変化はなかったです。ただ――」
「なにか他に?」
ディサンテは胸元にしまってあった、素朴な人形と布に包まれた小瓶を机の上にそっと置いた。
何も言わずレークスの様子をうかがう。
「……ディサンテ、これはどこで?」
「朝の市場でそれを売っているようです。それを仕入れた店から「売れないから」と言われて渡されました」
「…………」
ディサンテがそう答えると、レークスはしばらく黙って考える。危険はないとディサンテは思う。
「ディサンテ。お前の考えを聞きたい」
「――これ自体に危険はないと思います。けれど、街全体に違和感がありました。原因はわかりません。ただ、何かがありそうな……」
「そうだな」
そう言って再び考え込むレークスにディサンテは話をする。
「兄さん、これは俺の考えですが……。この人形の生地はこの辺の織物ではないと思います。そして、これは「魔除けの人形」と言ってました」
そこで一度言葉をきり、小瓶に巻き付けていた織物をレークスへ広げた。彼の目の前には、人形と織物と小瓶が並ぶ。
「この三つどれも、見かけないものです。さらにこの小瓶は「開けてはいけない」ものだと言ってました。しかも中身がないとも。――兄さん、俺にはこの小瓶の中に光っている何かが見えます」
レークスは黙って話を聞き続ける。
窓から入ってくる日は高く、部屋を明るく照らし日陰はより暗くなる。
「――結論から言いますと、すでに何かが起きている状態ではないかと。『魔除けの人形』これは明らかにこの国のものではない。それから『織物』のこのデザインは独特の感性を感じますから、やはりこれもまた……。最後にこの『小瓶』は何らかの力が封じてあるように見えました」
レークスは深くため息を吐いた。
「ディサンテの成人の儀は明日の午前中に決まった。父も妹も明日の朝までに城に到着するから、そのつもりで」
「兄さん?」
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