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第二章 魔導士学園 編

『強敵』と書いて『ライバル』と読む

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 呪術研究会は5人揃って、時間に余裕ができた。一時は潰れてしまうのではないかと諦めかけていたが、特別クラスのソロモンという人が入ってくれることになった。入った理由は言葉を濁して要領を得ないものだったけど、理由なんてどうでもいい。人数が揃ったことの方が重要だった。案外、ティーエ先生目当てで入ってきたって事もありえるしな。

 ティーエ先生も最初は3日に一度とやる気がなかったけど、3回目くらいから、毎日来てくれるようになった。呪いの研究にはまってしまったのかもしれない。呪いに関しては魔法と違って分からない部分が多いから、人数がいた方が分かる事も多いだろう。いい傾向だ。

 そして、今日は休日である。
 俺はこの休日を利用して、ティーエ先生の知り合いがいるという鍛冶を訪れるつもりである。驚いたことに、その鍛冶の工房の名前がダン&ガラフ工房となっていた。俺の記憶が正しければ、片方の名前が旅の途中でロックブレイカーの価値を教えてくれた人の名前であった。鍛冶工房を立ち上げると言っていたので、同じ人かもしれない。

 そんな事を考えて、出かける準備をしていると、寮の部屋の扉からノックの音がした。

 俺は扉を開けた。
 そこには特別クラスにいる少女が立っていた。リーンと話をしているのを見た事がある。リーンより少し背が高いくらいで、小柄なのだが、そのせいで胸の大きさが目立っていた。確かマリオンという名前だ。

「おはよう。突然なんだけど、今日は予定、何かある?」

「鍛冶工房に見学に行こうと思っているけど。」

「そっか。じゃあまた今度にしようかな………」
少し沈んだ表情になった。可愛い子にこんな表情をされてしまっては、放っておく事はできまい。

「何か用事があるのか?」

「ちょっと助けてもらいたい事があって。リーンから聞いたんだけど、力とがすごい強くてスピードも凄いって聞いたから。」
ルード皇国にいる時には自覚がなかったが、外に出て分かったのは、師匠から教わった身体強化ブーストのおかげもあって、俺の力はこの世界でかなり強いようだ。
しかし、謙虚な心を忘れてはいけない。

「そうだな。少し強い方かもしれないな。鍛冶工房の見学は1日中じゃないから、時間がかからない事なら、手伝うけど。」

「本当に?たぶんそんなに時間はかからないと思うよ。」
マリオンは嬉しそうな顔をした。

「そうなの?じゃあ、先にそっちを済ましてから工房に行くことにしようかな。」

「ありがとう。じゃあ、ちょっと待って。確認を取ってみる。」
そう言うと、マリオンは黙ったまま静止していた。
確認とは何の事なのか。誰にも確認を取っているそぶりはなかった。
そのまま1分くらい沈黙が流れたので、俺は尋ねた。

「どうした?俺は何をしたらいいんだ?」

「もうちょっと待って、今確認を取ってるから。」
意味が分からなかった。しかし、言われるまま俺は待った。
5分くらい過ぎた頃、マリオンは話を切り出した。

「確認がとれたよ。学校の近くの広場に一緒に来てほしいんだけど。付きまとわれている奴がいて困っているんだ。そいつを追い払ってほしいんだけど。いいかな?」
なるほど。ストーカーか何かをやっつけて欲しいという事か。俺は了解した。しかし、特別クラスに入れくらいだから、自分で撃退できるような気もした。それに、さっきは何の確認を取っていたのだろうか。俺は聞いてみた。

「確認って、さっき何かしてたの?」

「付きまとってるやつを広場に呼び出したの。」

「へー。そうなんだ。」
どうなんだ?何か通信ができる魔法か何かだろうか。そういう魔道具があるのだから、通信できる魔法もあるのかもしれないな。

「そんな魔法もあるんだ。すごいな。俺も使ってみたいところだ。」

「これは魔法っていうか、僕の特技みたいなものかな。」
テレパシーみたいなものかな。この世界には呪いといい、まだまだ知らない力が多いみたいだな。
俺は支度を済ませて、部屋を出た。お互いに名前を自己紹介し合って、マリオンと一緒に指定の場所へと移動した。道中では森の大切さを懇々と説明された。森林伐採による世界への影響は良く知っていたので、気を切った時に出る二酸化炭素による温暖化の話をしてみたら、「よく知っているね。」と感心された。

 広場には2人の男が立っていた。
 その1人の男の体格はかなり大きかった。2mくらいはあって、体つきも分厚い筋肉で覆われているのが服の上からでも分かった。

 もう1人は、身長は俺よりも小さく、160cmくらいだろうか。体つきも俺と大差なかった。
そして、2人には明らかに人族とは違う特徴がその額にあった。角である。かなり小さい角だが、大きな体格の方に2本、小さな体格の方に1本角が生えていた。

「お前が魔導士学園のアギラか?」
体格の大きい方が叫んだ。
俺の代わりにマリオンが答えた。

「そうよ。僕たち付き合ってるんだ。だから、もう付きまとわないでくれるかな。」
んん?そういう設定でいくのか。ここで俺が否定するとややこしくなりそうなので、俺は何も言わなかった。

「くそが。そんなやつのどこがいいんだ。俺が目を覚まさせてやる。おい。アギラ。俺と勝負しろ。俺に勝てばマリオンを諦めてやる。俺の名はカイゲン。それがお前に勝負を挑む者の名だ。」
そう言って、何かを俺に投げつけてきた。俺は咄嗟によけた。

「神聖な決闘の申し出をよけるとは………お前はそれでも男か。やはりお前などにマリオンを任せるわけにはいかん。」
決闘?後ろを振り返り、地面を見ると手袋が落ちていた。受け取らねばならなかったのだろうか。
俺は困惑した。それにしても、何だって勝負を挑まれているのだ。
俺が困惑していると、横にいたマリオンが説明した。

「鬼人族は、全て力比べで白黒つけるらしい。その決闘で勝った者に負けた者は従うという文化があるんだってさ。」
鬼人族?鬼と人間のハーフか。鬼族の力は竜人にも匹敵すると習った事がある。鬼人族の中には鬼族に匹敵する力を持って生まれる者もいると聞くが、大丈夫だろうか。

「けど、俺達は鬼人族じゃないから決闘なんて意味ないんじゃ。」

「だよね。けど、全然納得してくれないから、アギラに頼むことにしたんだ。リーンに聞いた話だとアギラは凄く力が強いって聞いたから・・・。力だけで倒してくれれば、納得してくれると思う。」

「という事は、魔法は使わない方がいいのか?」

「できれば。それで負ければ彼も諦めてくれると思う。」

身体強化ブーストを使わないと流石にやばそうな気がするが………

そんな事を考えていると、俺達の会話が聞こえていたカイゲンが喋った。
「はっ。魔導士学園のようなもやし野郎が魔法を使ったって俺様に勝てるわけないだろう。使いたかったら、いくらでも使っていいぜ。俺は決闘で魔法なんてものに頼るつもりはねーからな。」

「そーっスよ。アニキがあんなチビに負けるわけないっスよ。」
カイゲンから見たら小さいが、お前に言われたくないぞ。身長は俺の方がお前より高いだろう。
そして、言われなくても身体強化ブーストは使うつもりでいたが、ああ言ってる事だし、三重・身体強化トリプル・ブーストをかけて一気に片をつける事にした。

俺は自分に身体強化を重ね掛けしていった。

『 三重・身体強化トリプル・ブースト 』
俺は構えた。

「ふん。やる気になったか。それじゃあ、マリオンをかけて決闘を始めるぞ。」
カイゲンは右の拳を顔の横に構えながら突進してきた。そして、俺との間合いに入ると大きく弧を描いて右のパンチを放った。

 俺の顔面を狙ったその拳は、空気を押しのけて、腕の周りに凄まじい風圧を生みだしていた。
しかし、そのスピードは遅すぎた。俺には止まって見える。ムーンウォークで避ける余裕さえあった。
俺は回避を選ばず、右の前蹴りでカイゲンの腹を蹴り、その反動で後ろに飛びのいた。攻防を兼ね備えた一打を放ったのだ。

 最近の戦闘から考えて、この一撃で終わるかと思ったが、カイゲンは後ろに吹っ飛びながらも立った姿勢を崩さなかった。地面には2本の線ができていた。カイゲンが足で作った跡だ。俺の蹴りで5mくらいは後ろに飛ばされたようだった。

「ぐっ。ゴホッ・・・。はあ、はあ・・・リア充のくせしやがって、いい蹴りしてやがるぜ。どうやら手加減はいらないみたいだな。」

「アニキー。力を見せつけてやってくださいっス。」
カイゲンは右拳を顔の横に構えて、再度突進してきた。そして、パンチを放った。その軌道はさっきとあまり変わらなった。懐に入るのはやばそうなので、俺はまたさっきと同じように、前蹴りを放ち、後ろに飛びのいた。

「ぐばほぉっ。・・・はあ、はあ・・・同じ場所を狙ってくるとは、なんてやつだ。オーガだ。」

「鬼っす。鬼がいるっす。弱ってるところを狙うなんて、鬼畜すぎっす。」
いやいや。鬼はあんたらでしょ。

「アニキー。動きが単調になってるっす。変化をつけた方がいいっす。」

「そうか。俺の動きは先読みされていたのか………魔導士学園に受かるだけはあるな。」
カイゲンは左拳を顔の横に構えて、再度突進してきた。そして、そのパンチの軌道は、左右が反転しただけで、さっきまでとほぼ変わらなかった。
俺は、同じように前蹴りを放ち、後ろに飛びのいた。

「ぐぼばへっ………はあ、はあ………今の攻撃にカウンターを合わせるだと。はあ、はあ………何手先まで読んでやがる。俺が落ちた魔導士学園はそこまでのところなのか。」

「アニキー。そんな事はないっす。アニキもケアレスミスさえなければ受かってたっス。今のはたまたまっス。2分の1の勘が当たっただけにちがいないっス。」

「そ、そうだな。右、右、と来てからの左のパンチを読むなんてできるはずがないな。そうか、勘か。それなら納得できる。次で決着をつけてやる。次に4回目のお前の勘が当たる確率は1/2×1/2×1/2×1/2で………ええと、いくらだ。」

「アニキー。16分の1っス。」
その計算は違うだろう。次の一回に限って言えば1/2なのは変わらない。そもそも、俺は勘で攻撃に対処しているわけではないのだ。

「ふははは、つまりは次の一撃でお前が避ける確率はほぼ皆無という事だな。」
カイゲンは次の一撃に自信をみなぎらせていた。
確かに、破壊力のありそうな攻撃ではあるが、当たらなければ意味がない。俺は次の一撃で決める事にした。

 3回も見れば、カウンターを合わせて顎を打ち抜く事ができる。さっきまでは掴まれたりするのを警戒して、懐には入らなかったが、見た感じかなり弱っているので次の一撃で決めれるだろう。念のため更に身体強化をかけた。

『 四重・身体強化クアドラプル・ブースト 』

 その弱っているのが演技である可能性もある。しかし、それはほぼゼロに近いだろう。
 なぜなら俺は悟ってしまったのだ。

 この2人はバカであるという事に………
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