上 下
59 / 123
第二章 魔導士学園 編

実技試験

しおりを挟む
 実技試験は5人ずづ行われた。名前を呼ばれた5人が1組になって、運動場や体育館や学校の外へと連れていかれることになった。

 俺は学校の外へと行くことになった。そこには5つ席が用意してあり、名前を呼ばれた順番に着席させられた。俺は左端の椅子に座ることになった。

 目の前に1人の試験官が立っており、いろいろ説明をしていた。そして、離れて右のほうに2人の試験官が手にペンと記録用紙の載った板を持って立っていた。

 どうやら、魔法の資質を見るために、試験官が指定した魔法を発動させ、横の2人が採点するということだった。

『これだよ、これ。これで昨日の失点を挽回できる。』
俺は全力で魔法を披露し、試験官の度肝を抜いてやろうと考えていた。

「では、右端のモネさんからお願いします。ファイアはできますか?」
前にいた試験官は手に持った板に目を落としながら、尋ねた。

「すみません。ファイアはできません。」

「では、氷槍アイス・ランスはどうですか?」

「それなら、大丈夫です。
『 氷精よ 森羅万象凍てつかせ 穿て、貫け、切り刻め 氷槍アイス・ランス 』」 
一つの小さな氷の礫がモネさんとやらの前方に飛んで行った。

『うぷぷ。俺なら無数の鋭利な刃物を飛ばしちゃうよ。』
俺は心の中で自分の力を再確認した。

「まだいけますか?」

「はい。あと一発くらいは大丈夫です。」

「では、氷壁アイス・ウォールはいけますか?」

「はい。『氷精よ 氷の守護で 万難を隔絶せよ 氷壁アイス・ウォール』」
顔と同じくらいの大きさの薄い氷が生じた。

『薄いよ。モネさん。それじゃあ、ひのきの棒も防げないよ。それに、なんかもう疲れているみたいだな。』

「わかりました。では次のコナー君お願いします。」
こうして、残りの3人も、試験官から言われた魔法をできるか、できないかを聞かれ、できる場合はその魔法を使うという事を繰り返した。だいたい、みんな2発か3発撃ったら疲れて終了となった。

 その度に、横にいた試験官は記録用紙に何かペンで書きこんでいっているようだった。
そして、右隣のやつが終わり、とうとう俺の番が来た。試験管の口が開いた。

「それでは、これで終了になります。お疲れさまでした。」

はっ??俺は?

「ちょっと待ってください。俺を忘れてますよ。まだ試験を受けてませんよ。」

「あー、あなたは昨日の試験で、魔法詠唱の部分が0点でしたので、勉強のために試験に同席できるようにしましたが、やっても無駄でしょう。」

「おい、聞いたか。」「0点だってよ。」「何でここに受けに来たんだ?」「くっくっく……失礼。」
横に座っていた受験者が、ざわついていた。

「いや、魔法は使えるんですよ。なんなら全部使って見せますよ。」

「この詠唱で、ですか?」
試験官は手に持った板に目をやりながら、聞いた。どうやら、手には昨日の俺の解答用紙を持っているらしい。

「第一問のファイアの詠唱に『 獄炎竜よ 我が魂を贄として 灼熱の門を開け 』と書いていますが、これではファイアの魔法は発動しませんよ。そもそも、魔法というものは精霊の力を借りるのであって、竜の力を借りるものではありません。 」

それを聞いた受験者は笑いながら、口々に俺を馬鹿にした。

「そんなんで発動するわけないじゃない。いくらなんでも、バカすぎでしょう。」
コノヤロー。さっき、あんたもファイアできないとか言ってたじゃねえか。

「書けばいいってもんじゃないんですよ。獄炎竜って、うぷぷ、笑えますね。」
許さねー。顔は覚えたからな。

「魂を贄としてどうするんだ。自分が死んじまったら意味ないじゃん。アホだな。」
後でぜってー、シメる。

「今時、灼熱の門って、中二病でも思いつかないぜ。あれだろ、小二病じゃね。」
殺す。どうやら、この世界に来て初めて殺人のハードルをクリアするための犠牲者はお前のようだな。

俺は心の中で、魂の雄叫びをあげ続けた。

「分かりましたか。こんな詠唱ではやるだけ無駄ですよ。あなたが恥をかくだけです。」
俺はそのとき脳裏に稲妻が走った。昨日のテストを逆転できるウルトラC的なアイデアが閃いた。
俺は冷静に戻り、切り出した。

「私の島国では、その詠唱で魔法を発動しているのです。試しにやってみてもいいですか?」

「この詠唱でできるならやってみせてください。どうせ無理でしょうけど………」

「できないって認めちまえよ。」「気持ちは分かるが、あきらめろ。」「往生際が悪いわね。」「くっくっく………失礼」

笑ってられるのも今の内だ。
俺は詠唱を開始した。それと同時に3種類の魔力を手で合成する。

『 獄炎竜よ 我が魂を贄として 灼熱の門を開け ファイア 』
詠唱が終わると同時に俺は魔力を放出する。前方には大きな炎があたり覆う。

「そ、そんな……」
試験管は驚いていた。

「えっ?」「何だ?」「何で?」「大きすぎる………」
受験者も何が起こっているのかわからなかった。
俺は炎を消した。

「どうですか?その詠唱でも魔法は発動したでしょう。」

「………では、風の刃ウィンド・カッターも、この詠唱で使えるのですか?」

「はい。大丈夫です。」

「 切り裂け 風の刃ウィンド・カッター 」
遠くまで風の刃が飛んでいく。

「馬鹿な。詠唱短縮だと。」

「いえ。そもそも、風の刃ウィンド・カッターに『切り裂け』、なんて一節ありましたっけ?」
横で採点していた試験官2人は見当違いの事を口にしていた。

 俺はその後も昨日書いた魔法の詠唱で、魔法を発動し続けた。全部覚えているのかって?当然だろう。この魔法の詠唱は半年もかけて自分で作り出したものだ。忘れるはずがないだろう。俺のあの忌まわしき病にかかった半年は無駄ではなかったのだ。

 途中何度も「まだ大丈夫なんですか?」と聞かれたので、俺は調子に乗って、「そこに書かれた詠唱だと魔力の効率があがるので、まだまだいけますよ。」と答えた。俺の答えが、正解よりも素晴らしいと思わせるためである。昨日答えた解答を全て正解に変える、まさにウルトラCの力技である。

 俺が昨日答えた魔法を全部撃ち終えたところで、試験管3人は集まり何かを話し合っていた。そして、1人が俺たちの前に戻ってきて告げた。

「ひとまず、これで試験終了です。では、皆さんお帰りください。」
俺は試験していた場所から離れて、そのまま宿へと帰ることにした。
後は合格発表を待つだけである。俺にも希望が出てきたかもしれなかった。

 これは後で知ることになるのだが、俺の答案用紙は魔法研究機関へと送られ研究されることになる。その研究は金と人を割き、1年にも及んだ。しかし、誰1人その詠唱を使いこなすことができなかったため、その研究は打ち切られ、その答案用紙は資料館に展示される事になるのだった………
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

ドグラマ3

小松菜
ファンタジー
悪の秘密結社『ヤゴス』の三幹部は改造人間である。とある目的の為、冷凍睡眠により荒廃した未来の日本で目覚める事となる。 異世界と化した魔境日本で組織再興の為に活動を再開した三人は、今日もモンスターや勇者様一行と悲願達成の為に戦いを繰り広げるのだった。 *前作ドグラマ2の続編です。 毎日更新を目指しています。 ご指摘やご質問があればお気軽にどうぞ。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

召喚されたリビングメイルは女騎士のものでした

think
ファンタジー
ざっくり紹介 バトル! いちゃいちゃラブコメ! ちょっとむふふ! 真面目に紹介 召喚獣を繰り出し闘わせる闘技場が盛んな国。 そして召喚師を育てる学園に入学したカイ・グラン。 ある日念願の召喚の儀式をクラスですることになった。 皆が、高ランクの召喚獣を選択していくなか、カイの召喚から出て来たのは リビングメイルだった。 薄汚れた女性用の鎧で、ランクもDという微妙なものだったので契約をせずに、聖霊界に戻そうとしたが マモリタイ、コンドコソ、オネガイ という言葉が聞こえた。 カイは迷ったが契約をする。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

婚約破棄された悪役令嬢は男装騎士になって推しを護ります!―女嫌いの王太子が溺愛してくるのは気のせいでしょうか―

イトカワジンカイ
恋愛
「私が王都までお守りいたします!殿下は私を男だと思ってますからバレなきゃ大丈夫ですよ」 スカーレットは唖然とする父と義弟にそう言い放った。 事の経緯としては、先日婚約者デニスに婚約破棄された際にテンプレながら乙女ゲー「マジらぶプリンセス」の悪役令嬢に転生したことをスカーレットは思い出す。 騎士の家系に生まれたスカーレットは並みの騎士よりも強いため 「もうお嫁に行けないし、こうなったら騎士にでもなろうかしらハハハハハ…」 と思いながら、実家の屋敷で過ごしていた。 そんなある日、偶然賊に襲われていた前世の推しキャラである王太子レインフォードを助ける。 ゲーム内でレインフォードの死亡イベントを知っているスカーレットは、それを回避するため護衛を引き受けようとするのだが、 レインフォードはゲームの設定とは違い大の女嫌いになっていた。 推しを守りたい。だが女であることがバレたら嫌われてしまう。 そこでスカーレットは女であることを隠し、男装して護衛をすることに…。 スカーレットは女であることを隠し、レインフォードの死亡イベントを回避することができるのか!? ※世界観はゆるゆる設定ですのでご了承ください ※たぶん不定期更新です ※小説家になろうでも掲載

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...