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第二章 魔導士学園 編

蜘蛛

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 ジュリエッタは伯爵領に出た魔獣を倒して欲しいとの事だった。
 魔獣が出たこととジュリエッタが奴隷として捕まっていた事にどうつながっているのかはよくわからなかったので道中に詳しく聞くことにした。

「なんで、奴隷業者に捕まっていたんだ?」

「私は領地を救うために、宰相の三男の息子ハリスという人のところに行くところでした。まさか、あんな待遇になるとは思っていませんでしたけど………」

「ジュリエッタがそこへ行くと、何で領地が救われるの?」

「私が行けば宰相の力で国への税金を数年間免除してもらえるという約束でしたので。」

「ジュリエッタの領地はお金に困っているという事?」

「端的に言えばそうなりますが、魔獣さえいなくなればなんとかなるはずなんです。父もそう考えて、魔獣討伐に向けて兵を募り、自ら指揮を執って戦いに向かいました。しかし、その魔獣に敗れて、光を失い、床から動けぬ体となってしまいました。それで、私はみんなには内緒で、自分を差し出すことにしたのです。」

「えっ、黙って出てきたの?」

「いえ、置手紙はしておきました。だから、私のことは諦めていると思います。・・・でも、もしアギラ様が魔獣を倒してくださるなら、私はハリスの元には行かずにすみます。そして、領民達も安心して暮らすことができるようになるでしょう。」
魔獣とかハリスとか、どういう風にお金が絡んでいるのかわからない事だらけだったけど、要するに魔獣を倒しさえすればいいという事だろう。

「私なら治せるかも。」
そこまで、黙って話を聞いてたリーンが口をはさんだ。

「あなたのお父さん、私の魔法なら治せるかも。」

「本当に?」
ジュリエッタが聞いた。

「任せておいて、こう見えても回復魔法は得意なのよ。大賢者を目指すからには、攻撃魔法だけじゃなく、回復魔法も使いこなせなければいけないのよ。私にドーンと任せておいて。」

………もちろん俺も治そうと思ってましたよ。言うのが遅れただけですよ。俺も、回復魔法は得意ですよ……

「じゃあ、お願いしますわ。」
ジュリエッタはリーンの手を握っていた。

 俺たちはその後もいろいろな事を話し合った。驚いたことに2人の年は俺より年上だという事がわかった。ジュリエッタが15歳でリーンが20歳という事だった。リーンがジュリエッタよりも年上という事はさらに俺を驚かせる事になった。リーンの方が少し幼く見えたからだ。
恐るべし妖精族エルフ

俺たちはプラダ家の屋敷に入ると、母親とジュリエッタの弟と妹が、ジュリエッタに抱き着いて泣いていた。

「あなたが犠牲になる必要なんてないのよ。戻ってきてくれて良かったわ。」

「お母さま………」
ジュリエッタも泣いていた。
少しして落ち着いた頃ジュリエッタは涙を拭いて本題に入る。

「お父様は寝室にいらっしゃるの?」

「ええ、でもまだ立つこともできないわ。」

「今日は治せるかもしれない方に来ていただいたの。」

「えっ………」
母親は俺たちを見る。外見からすれば、少年と少女である。あまり期待しているようには思えなかった。

「では、こちらに来てください。」
母親は父親が床に伏している寝室へと案内してくれた。

母親とジュリエッタと兄弟達は固唾をのんで見守っていた。
「 光の精霊よ 聖なる息吹で 万傷を癒せ 完全治癒ベルフェクトゥス・ヒール
リーンは毒や傷を回復させる光の魔法を詠唱した。
父親は光に包まれ、その光が消えた。

「どうなりましたの?」
ジュリエッタはリーンに聞く。

「成功したはずだけど………」
ベッドで横たわっていた父親は、唸り声をあげて、上半身を起こした。
「あなた。」「お父様。」「お父様。」「お父さん」
母親とジュリエッタ達が父親の元に近づく。

「おお、動く、動くぞ。」
父親はベッドから足を下ろし、その足で立ち上がることができた。
しかし、その後、父親はベッドに腰を下ろし、目を抑えていた。

「あなた、どうしたの?」

「う、うむ。目がまだ見えないようだ………」
どうやらリーンの魔法では視力の回復まではできなかったようだった。

「そんなはずは………」
リーンはかけより、ジュリエッタの父親のまぶたを開き眼球の状態を見ようとする。

「こ、これは………」
どうやら、眼球が失われていたようだった。父親の話では、魔獣の毒を目に受けて眼球が腐敗してしまったという事だった。

 魔法では傷を治したり、切断面をくっつけたりはできるが、失ったものを復元する力はないのである。そう、師匠の薬とは違うのだ……

 そこで俺は、師匠の薬をアーサーに大量に預けていたのを思い出した。師匠の薬なら失った視力も取り戻せるんじゃないかと思った。

「リーンさん。お父様を動けるようにしていただいて、ありがとうございます。」
ジュリエッタが礼を言う。

「私からもお礼を言わせてもらうわ。ありがとうございます。」
母親も頭を下げる。

「うむ、目は見えずともなんとかしてみせる。リーン殿とやら本当に礼を言う。そしてジュリエッタ、心配かけてすまない。お前をハリスの元へなど行かせはせん。」

「お父様。」
ジュリエッタは父親に抱きついた。

「完全に治せなかったのに、そんな………」
リーンは申し訳なさそうにしていた。

なんか言い出しにくくなってきたな………

「アーサー、師匠からもらった薬を出してくれ。」

「はいにゃ。」
フードの中にいたアーサーが薬を俺に手渡す。

「猫が喋ってる。」

「うわー。」
ジュリエッタの妹と弟がアーサーに好奇の目を向ける。

『アーサーは子供には絶大な人気があるな………』

 俺はその薬をジュリエッタに渡し、父親に飲ませるように言った。
「お父様、これを飲んでください。」
ジュリエッタは父親に薬を飲ませてやる。

すると父親から光が発し、すぐに消えた。
父親が瞼を開けると、そこには白い眼球と黒い瞳があった。

「………見える………見えるぞ。」
父親の視力は戻ったようだった。やはり、師匠の薬は凄いな。

 俺とリーンは本題に取り掛かる事にした。魔獣を討伐しにいくのである。本音をいえば一人で行きたかったのだが、ピピ救出の時に一人で行った事を怒っているようなので、仕方なく2人で行くことにした。

 ジュリエッタも付いてきたがったが、さすがにそれは止めておいた。
 父親は最初俺たちが行くの止めていたが、ジュリエッタの熱弁に負けて止めるのを諦めたようだった。ただ、危ないと思ったらすぐ逃げるようにと言ってくれていた。

 魔獣の情報としては、鉱山を発掘するための洞窟の中に蜘蛛の魔獣が巣食っているということだった。攻撃方法は糸や毒などで相手の動きを封じてくるという事だった。

 俺達は洞窟へと入った。鉱山だったというだけあって、洞窟内部は、ところどころにある魔道具のランプで照らされていたので明るかった。しかし、500mくらい歩くとその魔道具は壊されていて、暗くなっていた。

 リーンは光魔法で辺りを照らした。
「 光の精霊よ 恒久の聖光を以って 闇夜を照らせ 発光ルーメン」    
リーンはさっきの目を治せなかった事を悔いているようで、取り返そうと俺の前へ前へと出る。できれば、俺の魔法が当たらないように後ろにいて欲しかったが、言えそうな雰囲気ではなかった。

 しばらく歩くと、前から3mはあろうかという蜘蛛の魔獣が現れた。
 リーンは魔法の詠唱を開始する。

「 雷精よ 一条の光となりて 降り注げ 雷光電撃ライトニングボルト 」
1筋の電撃が蜘蛛に直撃する。蜘蛛はその一撃であっけなく倒された。

 前に海で見た魔法を使ったようだった。たしか、リーンはあの後魔力切れを起こしていた気がする。ましてや、今日は治癒魔法なども使ってるからそろそろ限界なのではないだろうか。

「どう?1人で蜘蛛の魔獣をやっつけたわよ。私もなかなかやるでしょ。」
たしかに、今回は俺の出る幕はなかったようだった。

「凄かったよ。今回は、俺の出番がなかったね。」
その言葉を聞いてリーンは嬉しそうだった。
しかし、リーンが俺の方を振り向いて話していると、その後ろから大量の糸がリーンを襲った。
もう戦いが終わったと思って、反応が遅れてしまった。
 リーンは蜘蛛の糸に巻かれ繭状になってしまった。

『  氷壁アイス・ウォール 』
俺は氷魔法でリーンと蜘蛛の間に氷壁を張った。

 そして、リーンの光魔法が解けたので、代わりに俺が光魔法で辺りを照らした。
 氷壁の向こう側には1匹、2匹、3匹、4匹………うじゃうじゃと蜘蛛の魔獣が現れた。蜘蛛の魔獣は1匹ではなかったらしい。
 ひとまず風魔法で、蜘蛛達からリーンを遠ざけるべく、来た方向へとそっと繭を移動させた。

「アーサー、リーンの蜘蛛の糸をとってやってくれ。」

「お安い御用にゃ、任せるにゃ。」
俺は氷壁の向こう側の蜘蛛達を一掃する事にした。

『 地獄の火球ヘル・フレイム 』
蜘蛛達は黒い炎に焼かれて消滅した。

 少し先にある広い空間まで行ってみると、そこには信じられない光景があった。

 蜘蛛、蜘蛛、蜘蛛、3mの大きさはある蜘蛛が所狭しと密集していた。よく見ると、共食いしているものもいた。

「きもっ」
思わず声が出てしまった。その声を聞いた蜘蛛達が一斉にこちらを向いた。

うわーーーー、気持ち悪ぅーーーー。

地獄の火球ヘル・フレイム』『地獄の火球ヘル・フレイム』『地獄の火球ヘル・フレイム』』『地獄の火球ヘル・フレイム』『これが余のメラだ』『地獄の火球ヘル・フレイム』『地獄の火球ヘル・フレイム

 俺は気持ち悪すぎて、一心不乱に火の魔法を撃ち込んだ。
目の前がすっきりして落ち着いた俺は、広範囲の火の魔法で全ての蜘蛛を一掃する事にした。

地獄の業火インフェルノ
広い空間は炎に包まれ、その炎が消えた後には何も残っていなかった。

俺は後ろを振り返り、大声で2人の無事を確認した。

「アーサー、リーン、大丈夫か~?」

「マ、マスタ~、助けてほしいにゃ~。」

『しまった。向こうにも、蜘蛛がいたのか?』
俺は急いで戻ってみると、丸い糸の塊がもぞもぞと動いていた。

「アーサー、何やってるんだ?」

「からまって動けなくなったにゃ~。」

アーサーは蜘蛛の糸に埋もれて、もがいていた……

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