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第二章 魔導士学園 編

魔法剣

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 地下に降りると、3人の男が血まみれで倒れていた。おそらく獣人がやったのだろう。
 部屋の隅に檻があり、その中に少年1人に少女が3人いた。檻の扉は開いていたが、4人は固まって檻の隅にいて震えていた。

 倒れた3人の脈を診ると、3人とも死んでいた。いきなり獣人が現れて3人を殺したところ見たら、こうなるのも無理はなかった。

「助けにきたんだけど。」

「………」
誰も返事はなかった。

「ポポって子に頼まれたんだけど、ピピって子はいる?」
一人の少女が顔をあげた。

「えっ? ポポが……」
どうやら、ピピのようだった。

「マスターについて来れば、みんな助かるにゃ。」
アーサーは頭の上で喋ると、他の3人も顔を上げた。

「えっ??」「猫が喋った。」「………」

「君たちを助けに来たんだ。だから付いて来てほしい。」

「そうにゃ。みんな付いて来るにゃ。」
子供たちは立ち上がって檻から出てきた。

 俺は4人を連れて、屋敷の外へと出た。途中で屋敷の人間が凍っている事にびっくりしているようだったが、何も言わなかった。

「俺はやる事があるから、ひとまずピピの教会にみんなで行ってくれ。後で合流するから。」
子供たちは頷いた。

「ピピ、みんなを村に案内できる?」

「大丈夫。」
俺はみんなを送ってあげたかったが、それよりもやる事があった。俺はピピを信じて任せることにした。
4人が村の方向に走っていくのを確認して、俺は地下へと戻った。

 3人の死体をこの世から消すのだ。少しでも息があれば師匠の薬で助けられたが、死んでしまったのなら仕方ない。

 死体が見つからなければ、3人は逃げたと思ってくれるのを期待したのだ。

『 地獄の火球ヘル・フレイム 』

 俺の出した黒い炎は着弾した対象を跡形もなく消滅させた。ひとまず、3つの死体をこの世から消した。
次は床についた血だ。おれはまず、部屋の乱れを整えた。そして、水と光の混合魔法を唱えた。

『 浄化結水ホーリィ・アクア 』

 全てを洗い流し、蒸発させた。血の跡どころか、指紋すらも消し去った。
 俺は地下室から出て、1階と2階を見回った。俺が凍らせた中に他に囚われたものがいないかを確認するためである。全ての部屋を見たが、全員武器を手にしていたので、奴隷業者の仲間だろう。俺はそれを確認すると玄関まで戻った。そして、玄関前で彫像となった4人を屋敷内に移動させた。
ここからである。

 俺はどうするか葛藤した。このまま、朝まで放っておいたら、屋敷内の人間は全員死ぬだろう。俺は今まで、魔獣は殺してきたが、喋る事のできるものは殺したことがなかった。ましてや、今回は人間である。

 殺すべきか、殺さないべきか。
 殺さなかったとしたら、また村に来るだろうか。
 しかし、殺しても、他の仲間が村に来たら殺さないのと一緒である。

 そして、俺の本心は殺したいとは思わなかった。死体を消滅させるのは何とも思わなかったが、まだ助けることができるものを、殺すのはいけないことのように思える。

 一番いいのは、屋敷にいるものに村に近づけないような魔法があればと思った・・・その時思い当たったのは、呪いの事だ。呪いは師匠をルード皇国に近づけないようにする事に成功していた。それが目的ではなかったが。
 
 使い方さえ間違えなければ、呪いもいいものなんじゃないのか。呪いの解除を目的として南の大陸へ来たが、呪い自体を使えるようにして、その過程で解除を学べばいいのでは、俺は今までになかった考え方をするようになった。
しかし、現時点で使えない事を考えても仕方がなかった。

「誰か来ましたにゃ。」
俺が迷っていると、アーサーが呟いた。俺はフードを被り、アーサーに頭の上から降りるように言った。
アーサーは、そのままの位置で横に浮きながら移動した。

「下に降りないのか?」

「汚れますからにゃ。」

 …………

俺は足音のする方を見た。2人の人影が見えた。1人は黒い鎧を纏い、もう1人は銀の鎧を身に纏っていた。

「あなたが、バロワ商会に侵入したという獣人ですか?そちらの猫は………獣人ではなさそうですね。」
黒い鎧が喋りかけてきた。どうやら、ローブを着ている俺を獣人と勘違いしていた。

「こちらの商会には、世話になっておるからな。悪いがここで死んでもらうことになる。」
銀の鎧の声はかなり高齢である事を伺わせた。鎧から見せる顔には皺が刻まれ、白い長い髭をたくわえていた。

「団長が出るまでもありません。ここは私が………この魔剣ダーインスレイヴの餌食にしてやります。」

『ん、今まけんって言ったか?………まけん………魔剣……』

 あれか、切られたら毒状態になったり、触れたら精神がおかしくなるとかのあの魔剣か。
 黒い鎧は仰々しい鞘に納められた剣を抜いた。その剣は黒かった。見た感じ叩き折れそうな気はしたが、触れるのがやばそうだった。

 こんな魔剣なんてものが出てくるなら、剣を用意しておくべきだったと後悔した。しかし、今は言っても始まらない。俺は包丁で対抗することにした。

「アーサー、包丁だ。包丁をだせ。」

「うんにゃ?………はいにゃ」
アーサーは空間から取り出したものを俺に渡した。

『そうそう、これこれ、これでスープをよそってって………これ、お玉じゃねえか。』

「これじゃないって、平べったいやつだ。」

「うんにゃ?………最近いろいろ増えすぎて、どれがどれか分からないにゃ。………これにゃ。」

『そうそう。これこれ、これでご飯をすくってって………しゃもじじゃねえか』

「何を遊んでいる。行くぞ!」
黒い鎧は上段から俺に切りかかる。
仕方ない、これで戦うしかない。同じ材質だから、問題ないだろう。俺は俺の作ったお玉としゃもじを信じることにした。

「アーサー隠れてろ。」

「はいにゃ。」
アーサーは空間の中に逃げ込んだ。

 上段から振り下ろされた剣を俺は左手に持つしゃもじで受け止めようとした。念のため、しゃもじを通過した場合やしゃもじで防げなかった場合を考えて、剣の軌道上に俺の体が入らないようにした。しかし、その心配はなかった。

 俺のしゃもじは魔剣とやらの剣を受け止めることができた。
 俺はこの時確信してしまった。俺の恐ろしい鍛冶スキルを。俺の鍛冶スキルで作ったしゃもじは魔剣とやらに匹敵するのだ。

 もう一度振り上げて左斜め上からのニ撃目をしゃもじで受け止めて、右手に持つお玉で兜の頬の左の部分を思いっきり叩いた。

 兜の左側が割れて、生身の頬に当った。歯が何本かはじけ飛び、そのまま黒い鎧をきたものはその場に倒れた。

 俺のお玉は折れ曲がることなく無傷だった。俺は怖くなった。自分の鍛冶スキルが………
その一部始終を見ていた銀色の鎧を着たものは驚愕の顔をしていた。
「おのれ………」
銀色の鎧を着たものも剣を抜いた。その色は白く、少し黄金の輝きを放っていた。

「見るがいい。 剣精よ 契約に従い集い 舞い 荒れ狂え 」

剣に3種類の魔力の流れが見えた。火70:光15:闇15

「クラウ・ソラス」
剣が燃え上がった。

 面白い。師匠にもこれは教えてもらったことがなかった。魔法と剣が使えるのが魔法剣士だと思っていたが、剣に魔法を宿すことが魔法剣士なのかも。

 俺はしゃもじに魔力を込めた。
氷70:光15:闇15 アレンジしてみた。
すると、しゃもじから氷の剣が飛び出た。もはやしゃもじの原型がなかった。

「なん……だと………」
相手は驚いている。

 俺は右手のお玉にも魔力を込めた。
雷70:光15:闇:15 
今度は、バチバチという音を発しながら、電気で形作られたハンマーができあがった。

「ば…ばかな………」
相手は後ずさっていた。
まったく負ける気がしなかった………

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