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第二章 魔導士学園 編

冒険者達・その2

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 ~勇者(中堅)・クルーズの視点~

 仮登録の冒険者が失敗したという依頼はその難易度をBランクへと格上げされていた。この依頼の最初の難易度はEランクだったのが、Dにあがり、一気にBランクへとあがった。

 大方、騎士学校出の新米冒険者が油断したのだろうと考えた。そう考えると、この依頼はBランクではあるが、実際はDランク依頼と考えてよさそうだった。

 このBランク依頼をこなせば、俺たちの冒険者カードも赤くなって箔がつく。それを考えれば、美味しい依頼に思えた。

 さらに付け加えるなら、この依頼の報酬は2重依頼となっており破格の報酬であった。バロワ商会から金貨20枚に、ククリという町の鍛冶師から金貨10枚貰えるという事だった。

 ククリという辺境の町の鍛冶師が金貨10枚も払えるのか疑問に思ったが、少なくともバロワ商会が依頼報酬を払わないなんてことは考えられなかった。バロワ商会は表向きは物を安く仕入れ、高く売る総合商社のような会社である。しかし、その裏の顔は奴隷の売買などの非合法な商売にも手を広げている。その力は複数の王国の大臣や宰相と太いパイプを持ち、誰も取り締まることができない状態である。冒険者ギルドにも多額の寄付を行っており、いろいろ便宜を計ってもらっているという噂もある。

 とにかく、このエルフと少年を捕まえるという簡単な任務で、地位と最低でも金貨20枚という大金が手に入るのである。
これをやらない手はなかった。
そして、俺はここで仲間のアエリアにいいところを見せる必要があったのだ。

 俺が何度目かの依頼の時に仲間になった魔法使いである。それまで、男ばかりのパーティーを組んでいた俺はアエリアに夢中になった。しかし、そのアエリアは俺の事など眼中になかった。

 今同じパーティーを組んでいるドワーフのダンに恋をしていた。俺からすれば、あんなおっさんで髭面のドワーフの何がいいのか分からなかった。

 俺はダンとは一緒のパーティーになりたいわけではなかったが、アエリアはダンがいるから仕方なく俺とパーティーを組んでいるという状態だった。ダンがいなければ俺とパーティーを組むなんてことはないだろう。
しかし、俺はこの依頼をこなし、頼れることをアピールする事によってアエリアを振り向かせようと考えた。

 俺たちは馬車が通りそうな道で待ち伏せをした。
 何台か馬車が通り過ぎたが、俺は目印を見つけるまで動かなかった。そして、ついに見つけたのだ。頭に猫を乗せた男の乗る馬車を。

俺は、馬車の進路を塞ぎ、黒と白のローブに身につけた2人組が馬車から降りるのを待った。
「お前らが暴れているエルフと盗みを働いた少年か?」
黒いローブを着ていた少年はフードを取り答えた。

「それは違いますよ。盗みなどした事はありませんし、暴れたというのは少し事実と違います。先に手を出したのは向こうです。」

「犯罪を犯した者はみんなそのように言うな。おとなしく罪を認めれば手荒なことはしないぞ。」

「いえ、本当にやってないんですよ。向こうはエルフだからって、奴隷にしようと考えていたんですよ。」
ダンの手が後ろから俺の肩に置かれた。

「どうやら何か裏がありそうじゃ。ワシはあの少年が嘘を言ってるようには見えんが………」

 ダンはお人よし過ぎるのだ。こんなことではすぐに騙されてしまうだろう。アエリアの事はやはりダンに任せるわけにはいかない。手荒な真似はしたくなかったが、俺がやるしかない。見たところ、大したことはなさそうだった。やはり、仮登録の冒険者の情報なんてあてにはならないのだ。

 俺は少年の腕に切りかかった。腕を失えば、抵抗する気も失せるだろう。そう思った時に、俺の意識は途切れた。

~魔法使い(中堅)・アエリアの視点~

 私は魔力の流れを色で可視化する事ができた。ひと目見て、この2人の異常性に気づいた。白のローブを纏った方は明らかに属性の複数持ちだった。4つか5つの属性を持ってるのがわかる。3年前に魔導士学園にいたという天才と言われた魔法使いでさえ、3つの属性しか持ち合わせていなかった。

 そして、もっと異常だったのは、黒のローブを纏った少年の方だった。全く色が見えなかった。闇属性ならば、黒い色が見えるし、魔力の流れが見えないなんて今までこんな事はありえなかった。普通の魔法防御ぐらいなら、私のこの力には関係ないはずであった。しかし、何も見えないという事は、もっと大きな力で自分の力を隠蔽しているに違いなかった。

 私はクルーズが飛び出した時、恐れで止めることができなかった。
 クルーズは予想通り、気付いたら倒されていた。どうやら、この依頼は受けるべきではなかったようだ。この依頼難度はBランクではない。おそらくA………いやSランククラスの可能性があった。
 私は半ばあきらめていた。
 その時、私の前にダンが立ちふさがった。その魔力の色は穏やかな色を帯び、私の心を落ち着かせてくれる。

「ワシの命はどうなってもいいから、後ろにいるアエリアは見逃してほしい。」
ああ、私のためにダンは犠牲になろうとしている。私は覚悟を決めた。私もダンと共に戦って死ぬことを………

~鍛冶師(中堅)・ダンの視点~

「いや、誰も殺すつもりはありませんよ。こちらで倒れている人も殺してはいません。」
ワシはクルーズが切りかかってしまったので、戦闘を避けられないと思っておったが、どうやら怒っている様子もなく、話が通じるようだ。

 話を聞くに最初にワシが思ったようにこの2人の話は信用できるように思えた。バロワ商会というところが裏で悪どいことをやっとるのは大抵のものなら知っている。
しかし、ククリという町の鍛冶師の件はどいうことなのか。

「ククリという町の鍛冶師から何か奪ったのでは?」

「えっ?その町の鍛冶師には素材を売却しただけですが。………アーサー!!」

「はいにゃ。」
頭の上に乗っていた猫が喋りおった。それだけなく、空間から何か角のようなものを取り出しおった。

「この素材を売却して、換金しただけなんですけど。」
ワシはその角のようなものを手に取り硬度を確かめた。何度か叩いて分かったことは、ミスリルと同程度の硬度をほこっているということである。そしてこの量ならば、金貨7,8枚にはなるだろう。それはあくまで素材としての価値である。ワシがもしこの素材を活かし武具や防具を作ったなら、金貨10枚相当の武具や防具を5個は作ることができる自信があった。

「この素材をどこで?」

「北の大陸の魔獣を狩って手に入れました。」
北の大陸と聞いて驚いたが、先ほどの強さを思い出すと納得させられるところもある。
この素材は南の大陸では見たことがなかった。という事は、鍛冶師と目の前の少年のどちらが嘘を言っているのかは明らかだった。

「分かった。ワシはお前さんを信じることにする。こちらから仕掛けてしまって申し訳ない。冒険者ギルドには必ず報告をしておくよ。」
ワシは手に取った素材を返そうとした。

「本当ですか。助かります。お礼に、そちらの素材をよろしかったら差し上げますよ。まだありますし。銀貨で渡したいところですが、それほど持ち合わせていませんので………換金するところに困っていまして………そちらの素材は銀貨50枚の価値にはなりますよ。」
どうやら、この少年はこの素材の価値を勘違いしているようだった。

「この素材は銀貨50枚じゃなくて、最低でも金貨5枚の価値はあるぞ。それでも、もらってもいいのか?」

「えっ?そうですか………でもいいですよ。さっきも言ったように、まだありますし。本当の価値を教えてもらえたお礼という事で。冒険者ギルドにはよろしくお伝えください。」

「分かった………ワシの名前はダンじゃ。ワシはメガラニカ王国の王都で今度、鍛冶師の工房を立ち上げるつもりじゃ。もし何かあったら訪ねてきてくれ。」

「分かりました。僕たちもメガラニカ王国の魔導士学園を目指していますので、何かあれば伺います。」
ワシ等は2人を見送った。

ワシはアエリアに告白をした。
「聞いての通りじゃ。ワシは冒険者をやめて、工房を立ち上げるつもりじゃった。今日期せずして、この素材が手に入ったのも何かの縁じゃ。ワシは明日にでも工房を立ち上げる準備にとりかかる。………その、もし良ければでいいんじゃが………ワシと一緒になってくれんか。」
アエリアの顔は涙で濡れていた。そして、その首を縦に振ってくれた。

 その後、クルーズには報酬としてワシの貯金から金貨2枚を渡した。角の素材の3分の1の額であった。しかし、すぐにクルーズは結婚祝いだと言ってワシらに金貨2枚を渡してくれた。最後までかっこいい男じゃとワシは思った。何故クルーズに女がいないのか不思議なくらいだ。ワシと一緒によくパーティーを組みたがったようじゃが、そっちの気があるわけじゃあるまい………もしそうだとしても、これでワシの事をあきらめて誰か好きな女子おなごができてくれればいいんじゃが……

 ワシは冒険者ギルドへ事の真相を報告した。しかし、すぐには信じてもらえなかった。そのために、ワシはあの2人のために何度も冒険者ギルドへと足を運ぶ事になった………
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