上 下
34 / 123
第一章 ルード皇国 編

勇者一行の帰路・その4

しおりを挟む
帰路83日目
~勇者・ジークの視点~

 俺たちは平原を順調に進んでいた。しかし、そいつは唐突に空から現れた。
「何か大きな魔力を持つものが近くにいます。」
ティーエが皆に注意を呼びかけた。

 俺は剣を構え、あたりを見回す。それらしい生物はいなかった。気のせいかと思ったら、空から大きな獅子が舞い降りた。いや、よく見ると獅子ではなかった。ライオンの頭を持ち山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つ生物。その胴体には翼が生えていた。その口は人間を一飲みできるほどの大きさだった。

 俺はそいつの名前を知っていた。神話の世界で語られるキマイラという生物だった。
『こいつは、やばい。』
1目見てわかった。俺は退却を指示しようとした。そのときである。

「動ける。ワシは動けるんじゃーー!」
ガラフが斧を振り上げて、キマイラに突っ込んでいった。

「待てガラフ、戻れ。」
俺の言葉と同時に、キマイラの口から炎が出た。俺とティーエとマヤカは回避した。ガラフは盾でガードをした。しかし、その盾はドロドロと溶かされていた。
それを見てティーエは魔法の詠唱を開始した。

「 水精よ 万物を産みし力を以って 天地を洗い流せ アクアフラッド 」
ティーエの手から水の魔法が打ち出され、ガラフの周りを炎から守る。

 それでも、火の勢いは止まらなかった。ガラフはたまらず盾を捨てて、右へと回転して火から遠ざかる。
 キマイラの視線が、ガラフの方をチラリとむける。
 俺はそのすきに、左の方へと移動して、キマイラの右前足を切りつけた。
 キマイラは俺に気づき、俺に噛みつこうと大きく口を開けて俺に襲い掛かった。
俺は剣を振り、頭を切ろうとした。その剣は、キマイラの牙にぶつかり、折れてしまった。

『まずい。』
その時、キマイラの左前足が地中に落ちて、バランスを崩した。ティーエの土魔法だった。俺は折れた剣を口の中に投げ入れた。キマイラは苦しんで雄たけびをあげた。

「今だ、逃げろ。」
後方にいたティーエとマヤカに指示を出す。俺はガラフのところへ駆け寄り、ガラフを担いでその場を去った。キマイラは両方の前足が自由にならず、すぐには追いかけてはこなかった。

 俺達は離れた場所まで移動して、ティーエの土魔法で、地中に隠れてやり過ごした。
どうやらキマイラは俺達を見失ったようだった。

 それよりも、ガラフの状態が危なかった。全身酷い火傷を負っていた。マヤカの回復魔法で危険な状態を脱する事ができたが、盾を持っていた指が3本ほど失われてしまった。損傷した部位があれば、マヤカの回復魔法で何とかすることができただろうが、どうやら指は盾の持つ部分に引っ付いたまま失われてしまったようだった。そこで、俺は奇跡の水を飲ませてみた。噂では失われた腕を復元したということだったからだ。

 その効果は驚くべきものだった。
ガラフがその薬を飲むと一瞬光に包まれたかと思うと、失われた指が再生されたのだ。

「すまない。ワシのために……」
ガラフは申し訳なさそうにしていた。

「いや、ガラフ以外の皆は1本ずつ飲んでいる。それに、こんな時のための薬じゃないか。まだ、全部で6本残ってるから大丈夫だ。気にするな。」

「それが………ワシも一本飲んでしまっておるんじゃ。ワシも呪いにかかっておったからのぅ。」
それは初耳だった。ティーエもマヤカも言っていたが呪いとは一体……

「それでもまだ5本残っている。この薬の効果は本物だという事が分かった。1本持ち帰ればいいと考えれば、あと4本も余ってるんだ。絶対にみんなで無事に帰ろう。」
俺は皆を鼓舞した。ここでギクシャクするよりは、団結して前に進んでいくべきだ。

帰路125日目
~魔法使い・ティーエの視点~

 キマイラの戦闘の後、ジークは剣をすべて失い、ガラフは盾を失い、私たちのパーティーの戦力は激減しました。

 私たちは平原を慎重に進みました。平原には丘や木々もあったので、私たちは隠れるようにして進んでいきました。その進路は目的地まで直線的に進むのではなく、物陰に隠れるために、蛇行しながら進みました。

 そのせいで、行きよりもかなりの日数を使い進んでいきました。
 そして、なんとか、砂漠地帯一歩手前の山脈地帯に辿り着きました。
 この山脈を越えると、少し樹海が広がっており、その後は砂漠地帯になります。そこさえ抜ければ、あとは密林を抜けて船で南の大陸へと帰るだけでした。

 しかし、この山脈越えには2つ問題がありました。1つは季節の問題でした。当初の予定と違い、季節は冬になっていました。山頂は凍えるような寒さとなっているでしょう。

 そして、2つ目は、この山頂付近には飛竜ワイバーンが生息しているということです。行きは、私の魔法とジークのオリハルコンの剣があったおかげでなんとか倒せましたが、今の杖のない私と剣を持たないジークではどうしようもありませんでした。

 1つ目の問題は春まで待って、この山脈を越えようということで解決しました。山の麓付近に、私の土魔法で家の土台や大まかな部分を作り出して、ガラフが木や岩などを使い玄関や窓などの細かい部分を作りました。私とマヤカ専用のお風呂もちゃんと作りました。

 水や火は私がいる限り不自由することがありません。あとはジークの武器です。なんとかしないといけません………

帰路140日目
~ドワーフ・ガラフの視点~

 ここで、待機したのは幸運だったとしか言えない。ワシがそれを発見したのは偶然じゃった。
 ここで春まで待機しようと決めて、ワシは食料を狩りに出かけた時じゃ。なにやら、洞窟のような入り口を見つけたのじゃ。その洞窟の先から微かに白く光るものを見た。その微かな光をみただけでワシには十分じゃった。

 その光の正体はプラチナじゃった。プラチナはミスリルよりも上位に位置する鉱物じゃ。その性能もミスリルより上じゃ。それに、プラチナなら1800℃もあれば融解するはずじゃ。だから、ティーエの火の魔法があれば、ここでも加工することできるはずじゃ。

 オリハルコンよりは劣るが、オリハルコンはどうせここでは加工することができん。ジークの鎧を直すことができないのはそのためじゃ。オリハルコンを加工するには、複数の術師により炎を100万℃にまで達することができなければいけない。

 そういう意味では、オリハルコンを見つけるよりも今のワシ達には幸運な事じゃった。
ワシはさっそくジークの剣の制作にとりかかった。春までには時間はある。防具やワシの斧なども制作してやろう。


帰路157日目
~僧侶・マヤカの視点~

 私は最近ティーエと一緒にお風呂に入る。私とティーエの間に何かあるかと言えば、全くそうではない。私の心は魔王様の事でいっぱいなのだ。

 ではなぜ一緒に入るかといえば、ティーエの魔法で、水も出るし、火の魔法で水を沸かすこともできるから、一緒に入った方が効率がいいからである。体を綺麗にしたあと、魔法で洗い流してもらえるし、温度の調節も頼めばやってくれるからだ。

 ティーエはこの冒険に出たのが14歳の時だった。しかし、今は16歳になっていた。そして、最近ある悩みを抱えており、私と2人きりになるお風呂でよく相談に乗っていた。

「私はこの旅に出たのは失敗だったかと後悔しています。」
ティーエは最近ある悩みのせいで悲観的になっていた。

「いや、こうして、薬も手に入ったし。この薬を王様に届ければ一生遊んで暮らせるよ。それに、南の大陸を渡った勇者の一行としてみんなから声援をもらえるよ。ティーエの言ってた大魔導士としての伝説の1ページを彩ってくれるよ。」
私はティーエを慰める。

「いえ、そのために失った代償はあまりにも大きかった……」

「いや、でもまだ大丈夫だよ。希望はあるって聞くよ。」

「まだ、大丈夫ですかね?どうすればいいんですか?」
目を輝かせて、私に詰め寄ってくる。

「その……マヤカさんが羨ましいです。」
ティーエは私の胸を見ながら続けた。

そう、ティーエは自分の胸が成長しない事に悩んでいたのだ。ティーエの胸は膨らみがまったくない絶壁だった。

 私はそれを見て気の毒に思った。その体では一部のマニアには受けるでしょうが………

 そして、ティーエはその胸の成長しないのがこの過酷な旅に原因があると思い込んでいたのだ。成長期にこの旅に出たために、胸に栄養がいかなかったと嘆いていたのだ。
 私は思いつく解決策を口に出した。

「胸を揉むと大きくなるって聞くよ。」

「えっ?!」
ティーエは顔を赤らめていた。しかし、自分の胸を見て、おそるおそる自分の胸に両手を伸ばしていた。

「こうですか?」
2、3回軽く揉んだ後聞いてきた。
何かいけない事を教えているような気がした。

「けど、揉んだから大きくなるってのは迷信かもしれないし。」
私は慌てた。

「それに、ティーエもこれからきっと大きくなるって。」

「そうだといいんですが………本当に私はこの旅で大切なものを失ってしまいましたよ………」

「それは何?」
聞くまでもない事だった………

「それは、私の胸です……」

風呂場に静寂が流れた………

   『 奇跡の水 』 残数 5 本

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・

マーラッシュ
ファンタジー
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

処理中です...