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第66話 聲
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試験が終わった後、門限が迫っていたので、落ちた人たちに後日王都にある食堂『止まり木亭』に来てもらえるように頼む。
話を聞いてくれなかった人達もいたが、俺の魔法に興味がある人や、俺の話に興味を示した人もいたので、何人かは来てくれることだろう。アリトマさんは絵の道を諦めようとしている様子だったので、特に根気強く当日来てもらえるように説得した。
そして今日は、紙の研究が一段落したという報告をわざわざお兄様が戻ってきて俺に伝えにきてくれた。ラズエルデ先生の授業は継続しているので、先生から教えてもらえればそれでよかったのだが、渡したいものがあるからと自ら伝えにやって来てくれたそうである。
なんでも紙のアイデアを提供してくれたことに対する報酬としてお金以外に渡したいものがあるらしい。
なんて優しいお兄様だろうか。
俺は有難く頂戴することにする。受け取ったのは手に持てるくらいの宝飾の施された箱であった。
「あけてごらん」
俺はお兄様に促されて箱を開ける。
中には漆黒の金属で作られた指輪が入っていた。それも五つも入っている。その指輪には何やら精巧な文様が刻まれているのが見てとれた。
「こ……こ、これは……」
その漆黒の輝きを見ていると吸い込まれそうになってくる。こんなものをラズエルデ先生を差し置いてもらってもいいのだろうか。
「はめてみるといいよ」
「はい!! お兄様!!」
俺は手に取り、右手に嵌めようとする。
「あっ、それは左手にはめた方がいいよ」
「?…そうなんですか? わかりました」
俺は右手に持ち替えて、左手の親指から順番に指輪を装着していく。
そのサイズは見事に俺の指にジャストフィットして俺のすべての指にはまる。まるで俺の指のために作られたかのようなフィット感。俺の指のサイズを調べてオーダーメイドで作ってくれたのだろう。
流石はお兄様だ。万事にぬかりがない。
「どうだい?」
「素晴らしいフィット感です。それに凄くかっこいいです」
5本の指に怪しく光る漆黒の指輪なんて、クールにもほどがある。刻まれた模様もイカしている。
「気に入ってくれて良かったよ」
「大切な時につけさせてもらいますね」
俺は指輪を箱に戻そうと、親指の指輪から外そうと手に掴む。
「………あれ?!!」
「どうしたんだい?」
「………すいません。抜けなくなってしまいました」
しまった。俺の指の肉が我儘ボディーすぎて、抜きとれなくなってしまった。第二関節のところで、止まって抜き取ることができない。くぅっ。恥ずかしすぎるぜ。
「………仕方ない。痛みはあるのかい、ジーク」
「いえ、痛みはありません。お兄様」
「そうか。それなら、指輪に【インビジブル】をかけてごらん」
「??………こうですか?」
俺は指輪に【インビジブル】をかける。すると漆黒の指輪が見えなくなり、指輪をつけていない指の状態へと元に戻る。しかし、指の付け根付近を触れば、たしかにごつごつとした指輪の感触が残っている。
「滑らかな発動だね。見事だよ。でも、それでつけてないように見えるんじゃない。指輪が必要な時は【インビジブル】を解除すればいいんだ」
なるほど。俺が【インビジブル】を解除すると指には漆黒の指輪が5つ現れる。
それを見て閃いたのは【絶対時間】を発動させる中二心をくすぐる漫画のキャラクターである。
くぅ、これで目の色さえ変化させれれば、まさしくなりきれるというのに。いや、魔法で目の色を変えるのはできそうな気がする。いずれやってみよう。
俺は【インビジブル】をかけたり解除させたりしてはしゃいでいると、お兄様が「気に入ったようで良かったよ」と言った。
「ありがとうございます。ところで、王都に不動産を借りたいのですが、自分は子供なので契約できないのですが、どうすればいいでしょうか?」
「不動産? ジークが? どうしてだい?」
俺はお兄様に新しい【漫画】という文化を創出したいことを相談する。
「ジークも【インビジブル】を使って抜け出していたんだね。血は争えないってことか」
「もってことはお兄様も?」
「うん、まあね。でも危ないことはしちゃあいけないよ。それにお母様に心配をかけるようなこともね」
「分かってます」
理解のあるお兄様で良かった。基本的に俺のやることは全てやらしてくれるのがお兄様だからな。非常に助かる。
「うん。それで、不動産だったね。ジークが無断で外出していることは内緒にしておいた方がいい。警備の人達が職を失うかもしれないし。ともすれば、警備が厳重になる可能性もあるからね。そうすれば自由に動けなくなるよ。そうだな。誰か信用ができる人に頼むのがいいかもしれないね。ラズに頼むのはどうだい?」
「先生ですか?」
「そうだね。ジークのことを気に入っているようだったし、話せば、内密で代わりに契約してくれるんじゃないかな。もちろんお金はこちらが負担しなければならないけどね。僕からも話をしておこう」
「ありがとうございます」
お兄様はいろいろと多忙なようで、俺に指輪を渡して話した後、お母様のところで少し話をして王族寮へと戻って行った。
そして、次の日の朝、俺は【鎧換装】を使い着替えを済ます。その時、【鎧換装】があれば指輪を収めることができることに気付く。
【インビジブル】で消さなくても、【鎧換装】で【闇収納】の中に入れてしまえばいいのだ。
俺は早速、指輪に【鎧換装】をかける。
しかし、指輪は収納されない。
??
どういうことだ? 俺はもう一度【鎧換装】をかける。
またもや、指輪は指から外れない。
【闇収納】は生きているもの以外は収納することができるはずである。何故、指輪が収納されないのか、まさか、この指輪が生きている?
なんてね。そんなことはないか………
その時俺の頭の中に聞いたことのない低い声が流れた。
「我の声が聞こえるか?」
吃驚して、俺の眠気は一瞬で覚めるのだった。
話を聞いてくれなかった人達もいたが、俺の魔法に興味がある人や、俺の話に興味を示した人もいたので、何人かは来てくれることだろう。アリトマさんは絵の道を諦めようとしている様子だったので、特に根気強く当日来てもらえるように説得した。
そして今日は、紙の研究が一段落したという報告をわざわざお兄様が戻ってきて俺に伝えにきてくれた。ラズエルデ先生の授業は継続しているので、先生から教えてもらえればそれでよかったのだが、渡したいものがあるからと自ら伝えにやって来てくれたそうである。
なんでも紙のアイデアを提供してくれたことに対する報酬としてお金以外に渡したいものがあるらしい。
なんて優しいお兄様だろうか。
俺は有難く頂戴することにする。受け取ったのは手に持てるくらいの宝飾の施された箱であった。
「あけてごらん」
俺はお兄様に促されて箱を開ける。
中には漆黒の金属で作られた指輪が入っていた。それも五つも入っている。その指輪には何やら精巧な文様が刻まれているのが見てとれた。
「こ……こ、これは……」
その漆黒の輝きを見ていると吸い込まれそうになってくる。こんなものをラズエルデ先生を差し置いてもらってもいいのだろうか。
「はめてみるといいよ」
「はい!! お兄様!!」
俺は手に取り、右手に嵌めようとする。
「あっ、それは左手にはめた方がいいよ」
「?…そうなんですか? わかりました」
俺は右手に持ち替えて、左手の親指から順番に指輪を装着していく。
そのサイズは見事に俺の指にジャストフィットして俺のすべての指にはまる。まるで俺の指のために作られたかのようなフィット感。俺の指のサイズを調べてオーダーメイドで作ってくれたのだろう。
流石はお兄様だ。万事にぬかりがない。
「どうだい?」
「素晴らしいフィット感です。それに凄くかっこいいです」
5本の指に怪しく光る漆黒の指輪なんて、クールにもほどがある。刻まれた模様もイカしている。
「気に入ってくれて良かったよ」
「大切な時につけさせてもらいますね」
俺は指輪を箱に戻そうと、親指の指輪から外そうと手に掴む。
「………あれ?!!」
「どうしたんだい?」
「………すいません。抜けなくなってしまいました」
しまった。俺の指の肉が我儘ボディーすぎて、抜きとれなくなってしまった。第二関節のところで、止まって抜き取ることができない。くぅっ。恥ずかしすぎるぜ。
「………仕方ない。痛みはあるのかい、ジーク」
「いえ、痛みはありません。お兄様」
「そうか。それなら、指輪に【インビジブル】をかけてごらん」
「??………こうですか?」
俺は指輪に【インビジブル】をかける。すると漆黒の指輪が見えなくなり、指輪をつけていない指の状態へと元に戻る。しかし、指の付け根付近を触れば、たしかにごつごつとした指輪の感触が残っている。
「滑らかな発動だね。見事だよ。でも、それでつけてないように見えるんじゃない。指輪が必要な時は【インビジブル】を解除すればいいんだ」
なるほど。俺が【インビジブル】を解除すると指には漆黒の指輪が5つ現れる。
それを見て閃いたのは【絶対時間】を発動させる中二心をくすぐる漫画のキャラクターである。
くぅ、これで目の色さえ変化させれれば、まさしくなりきれるというのに。いや、魔法で目の色を変えるのはできそうな気がする。いずれやってみよう。
俺は【インビジブル】をかけたり解除させたりしてはしゃいでいると、お兄様が「気に入ったようで良かったよ」と言った。
「ありがとうございます。ところで、王都に不動産を借りたいのですが、自分は子供なので契約できないのですが、どうすればいいでしょうか?」
「不動産? ジークが? どうしてだい?」
俺はお兄様に新しい【漫画】という文化を創出したいことを相談する。
「ジークも【インビジブル】を使って抜け出していたんだね。血は争えないってことか」
「もってことはお兄様も?」
「うん、まあね。でも危ないことはしちゃあいけないよ。それにお母様に心配をかけるようなこともね」
「分かってます」
理解のあるお兄様で良かった。基本的に俺のやることは全てやらしてくれるのがお兄様だからな。非常に助かる。
「うん。それで、不動産だったね。ジークが無断で外出していることは内緒にしておいた方がいい。警備の人達が職を失うかもしれないし。ともすれば、警備が厳重になる可能性もあるからね。そうすれば自由に動けなくなるよ。そうだな。誰か信用ができる人に頼むのがいいかもしれないね。ラズに頼むのはどうだい?」
「先生ですか?」
「そうだね。ジークのことを気に入っているようだったし、話せば、内密で代わりに契約してくれるんじゃないかな。もちろんお金はこちらが負担しなければならないけどね。僕からも話をしておこう」
「ありがとうございます」
お兄様はいろいろと多忙なようで、俺に指輪を渡して話した後、お母様のところで少し話をして王族寮へと戻って行った。
そして、次の日の朝、俺は【鎧換装】を使い着替えを済ます。その時、【鎧換装】があれば指輪を収めることができることに気付く。
【インビジブル】で消さなくても、【鎧換装】で【闇収納】の中に入れてしまえばいいのだ。
俺は早速、指輪に【鎧換装】をかける。
しかし、指輪は収納されない。
??
どういうことだ? 俺はもう一度【鎧換装】をかける。
またもや、指輪は指から外れない。
【闇収納】は生きているもの以外は収納することができるはずである。何故、指輪が収納されないのか、まさか、この指輪が生きている?
なんてね。そんなことはないか………
その時俺の頭の中に聞いたことのない低い声が流れた。
「我の声が聞こえるか?」
吃驚して、俺の眠気は一瞬で覚めるのだった。
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