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第47話 小さな恋の予感
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今日の剣術の稽古は泊りがけである。
1年目の2人を6年目の2人と5年目の2人が護衛をして、近くの村まで行って帰ってくるというものである。子供達だけだと万一があってはいけないので、馬車の御者として大人の監督官2名が同行するらしい。基本的に護衛の4人がちゃんとやっているかを観察するだけでよっぼどのことがない限り関わらないそうだ。
1年目の俺達は護衛されながら、近隣の村に行って帰ってくるだけなので気分は遠足みたいなものだ。一応、先輩達の護衛を見て学ぶというのが今回の課題らしい。しかし、俺は王族なので、護衛されることはあっても、俺が誰か護衛するなんてことは起きないだろう。だから、あんまり護衛の仕事を見ても意味がない気もする。そんなことを同じ王族のミカエルに言ったら「護衛の動きを見ておけば、不測の事態が起きた時に、自分がどのように行動すればいいかわかるだろう。それは、そんな時のための予行練習だ」ともっともらしく返されてしまった。
近くの村へ行って泊って帰るだけなんだから、そんな不測の事態が起こるとも思えない。聞く限りでは、王都周辺の治安はかなりいいので、ちゃんとした街道で馬車を走らせるかぎり、そんなことはないらしいからな。つまり、これは護衛訓練とは名ばかりの先輩との交流会みたいなものだと俺は睨んでいる。6年目の2人は来年、王立学園に行くが、5年目の2人は来年も稽古でお世話になることだろう。このあたりと仲良くなるということが、今回の目的と俺は考えていた。
俺とエドガエル君は訓練場の外に行くと、護衛役の先輩4人が出迎えてくれた。
「今回、護衛のリーダーを務めるクルト=ゾンネだ。君は王族なんだろう? しっかりやるから、安心してくれ」
右手を差し出されたので握手をする。そのあとエドガエル君とも握手をしていた。
「僕はピョートル=エイリッヒだ。クルトとは同い年なんだ。ヨロシク」
2人とも11歳にしてはしっかりとした体つきである。170cmくらいはある身長に、その腕は真剣に剣を振り続けているのが分かるがっしりした腕周りをしている。
クルトさんは短髪黒髪でちょっと強面である。日に焼けた皮膚は健康的な色をしている。
ピョートルさんは金髪の髪が少しウェーブがかり、クルトさんとは対照的に白い肌をした優男という感じだ。
そして、その横には女の子が2人立っていた。その内の1人が自己紹介を始めた。
「私はクイン=ルゲッティだ。そして、こっちが同期のリーズ=メルシェだ」
「よ、よろしくお願いします」
剣術稽古を受けている女性は珍しいので、俺が王族だから気をつかってくれているのかもしれない。役得というやつである。
クインさんはいかにも剣士という感じの鎧を身に纏っている。兜からは長い赤髪が背のあたりまで出ている。身長が160cmくらいなのであまり威圧感を感じない。
もう一人のリーズさんは鎧を身につけておらず、動きやすそうな服を着ている。その手には剣ではなく何故か杖を持っている小さな女の子である。青い髪のお団子ヘアーが可愛らしい。
「リーズは剣よりも魔法が得意だから、今日は念のために杖の方を持って来たんだ」
俺がリーズさんの杖を見ていたのに気づいて、クインさんがその説明をしてくれる。
「魔法が得意なのに剣術の稽古を受けているんですか?」
俺は男性ということで問答無用で剣術稽古を受けさせられているが、女性は強制というわけではないだろう。エリィ姉さんもソフィーも剣術稽古は受けてないからな。でも、2人は王族だから特別なのか。
「ふ、剣が好きじゃなければ受ける必要はないんだが………何故受けているか知りたいか?うけるぞ」
何だろう。面白い理由があるなら聞いてみたい。
「教えてほしいです」
「実はな、ジークフリート様にも少し関係があるんだが……」
「や、や、や、やめてくださいっ!!」
顔を真っ赤にしてリーズさんがクインさんの会話を遮った。
「いいじゃないか。別に言ってしまっても」
「ダ、ダ、ダメですっ!! まだ心の準備が………」
こ、これは………ひょっとして、ひょっとするのか。人生で三度来るというモテ気の一度目がここでやって来てしまったということか。心の準備ができていないのに急かすのも悪い。準備ができるまで、ゆっくり待とうじゃないか。俺は紳士だからな。
「リーズさんが嫌がっているようですし、大丈夫になったら教えてください」
大方、俺の護衛になって俺と近づこうってことだろう。モテる男はつらいぜ。
「は、はい」
「こういうことはさっと言ってしまった方がいいのにな。大体のやつは知っているんだし」
クインさんはさばさばしているタイプなのだろう。告白というものはもっとロマンチックな状況でするものだというのに。やれやれだぜ。クインさんの女子力の低さが心配になるレベルである。
それにしても、出発前だというのに楽しみが増えてしまったぜ。告白されたらどうするか悩むところだな。本当にモテる男っての案外つらいものだ。
「それではジークフリート様とエドガエル君は馬車に乗ってください。荷物はあちらに………って2人とも荷物はそれだけですか?」
ピョートルさんが俺達の荷物の少なさに驚いている。
「はい。これだけなんで、持って座ります」
エドガエル君は俺の横で頷いている。
俺の【闇収納】の中に俺とエドガエル君2人のものを粗方収めているので、手下げ鞄だけを俺達は手に持っている状態である。
「そうですか、旅に慣れているんですね。それじゃあ、そろそろ出発するんで、乗りましょう」
俺達二人は馬車に乗る。御者台には剣術稽古の時にもいる大人2人が座っている。監督官役をしているのだろう。特に俺達に話しかけてくるようなことはない。
「あれ? 皆さんは乗らないですか?」
「そうですね。私達は護衛ですからね。馬車の周りを馬に乗りながら警戒しなきゃならないんですよ」
なるほど。中で護衛する人はいないのか。まぁ、まだそんなに仲良くないし、いきなり馬車の中のような狭い空間で一緒になっても気まずいだけか。
こうして俺たちの一泊移住の旅がスタートした。
1年目の2人を6年目の2人と5年目の2人が護衛をして、近くの村まで行って帰ってくるというものである。子供達だけだと万一があってはいけないので、馬車の御者として大人の監督官2名が同行するらしい。基本的に護衛の4人がちゃんとやっているかを観察するだけでよっぼどのことがない限り関わらないそうだ。
1年目の俺達は護衛されながら、近隣の村に行って帰ってくるだけなので気分は遠足みたいなものだ。一応、先輩達の護衛を見て学ぶというのが今回の課題らしい。しかし、俺は王族なので、護衛されることはあっても、俺が誰か護衛するなんてことは起きないだろう。だから、あんまり護衛の仕事を見ても意味がない気もする。そんなことを同じ王族のミカエルに言ったら「護衛の動きを見ておけば、不測の事態が起きた時に、自分がどのように行動すればいいかわかるだろう。それは、そんな時のための予行練習だ」ともっともらしく返されてしまった。
近くの村へ行って泊って帰るだけなんだから、そんな不測の事態が起こるとも思えない。聞く限りでは、王都周辺の治安はかなりいいので、ちゃんとした街道で馬車を走らせるかぎり、そんなことはないらしいからな。つまり、これは護衛訓練とは名ばかりの先輩との交流会みたいなものだと俺は睨んでいる。6年目の2人は来年、王立学園に行くが、5年目の2人は来年も稽古でお世話になることだろう。このあたりと仲良くなるということが、今回の目的と俺は考えていた。
俺とエドガエル君は訓練場の外に行くと、護衛役の先輩4人が出迎えてくれた。
「今回、護衛のリーダーを務めるクルト=ゾンネだ。君は王族なんだろう? しっかりやるから、安心してくれ」
右手を差し出されたので握手をする。そのあとエドガエル君とも握手をしていた。
「僕はピョートル=エイリッヒだ。クルトとは同い年なんだ。ヨロシク」
2人とも11歳にしてはしっかりとした体つきである。170cmくらいはある身長に、その腕は真剣に剣を振り続けているのが分かるがっしりした腕周りをしている。
クルトさんは短髪黒髪でちょっと強面である。日に焼けた皮膚は健康的な色をしている。
ピョートルさんは金髪の髪が少しウェーブがかり、クルトさんとは対照的に白い肌をした優男という感じだ。
そして、その横には女の子が2人立っていた。その内の1人が自己紹介を始めた。
「私はクイン=ルゲッティだ。そして、こっちが同期のリーズ=メルシェだ」
「よ、よろしくお願いします」
剣術稽古を受けている女性は珍しいので、俺が王族だから気をつかってくれているのかもしれない。役得というやつである。
クインさんはいかにも剣士という感じの鎧を身に纏っている。兜からは長い赤髪が背のあたりまで出ている。身長が160cmくらいなのであまり威圧感を感じない。
もう一人のリーズさんは鎧を身につけておらず、動きやすそうな服を着ている。その手には剣ではなく何故か杖を持っている小さな女の子である。青い髪のお団子ヘアーが可愛らしい。
「リーズは剣よりも魔法が得意だから、今日は念のために杖の方を持って来たんだ」
俺がリーズさんの杖を見ていたのに気づいて、クインさんがその説明をしてくれる。
「魔法が得意なのに剣術の稽古を受けているんですか?」
俺は男性ということで問答無用で剣術稽古を受けさせられているが、女性は強制というわけではないだろう。エリィ姉さんもソフィーも剣術稽古は受けてないからな。でも、2人は王族だから特別なのか。
「ふ、剣が好きじゃなければ受ける必要はないんだが………何故受けているか知りたいか?うけるぞ」
何だろう。面白い理由があるなら聞いてみたい。
「教えてほしいです」
「実はな、ジークフリート様にも少し関係があるんだが……」
「や、や、や、やめてくださいっ!!」
顔を真っ赤にしてリーズさんがクインさんの会話を遮った。
「いいじゃないか。別に言ってしまっても」
「ダ、ダ、ダメですっ!! まだ心の準備が………」
こ、これは………ひょっとして、ひょっとするのか。人生で三度来るというモテ気の一度目がここでやって来てしまったということか。心の準備ができていないのに急かすのも悪い。準備ができるまで、ゆっくり待とうじゃないか。俺は紳士だからな。
「リーズさんが嫌がっているようですし、大丈夫になったら教えてください」
大方、俺の護衛になって俺と近づこうってことだろう。モテる男はつらいぜ。
「は、はい」
「こういうことはさっと言ってしまった方がいいのにな。大体のやつは知っているんだし」
クインさんはさばさばしているタイプなのだろう。告白というものはもっとロマンチックな状況でするものだというのに。やれやれだぜ。クインさんの女子力の低さが心配になるレベルである。
それにしても、出発前だというのに楽しみが増えてしまったぜ。告白されたらどうするか悩むところだな。本当にモテる男っての案外つらいものだ。
「それではジークフリート様とエドガエル君は馬車に乗ってください。荷物はあちらに………って2人とも荷物はそれだけですか?」
ピョートルさんが俺達の荷物の少なさに驚いている。
「はい。これだけなんで、持って座ります」
エドガエル君は俺の横で頷いている。
俺の【闇収納】の中に俺とエドガエル君2人のものを粗方収めているので、手下げ鞄だけを俺達は手に持っている状態である。
「そうですか、旅に慣れているんですね。それじゃあ、そろそろ出発するんで、乗りましょう」
俺達二人は馬車に乗る。御者台には剣術稽古の時にもいる大人2人が座っている。監督官役をしているのだろう。特に俺達に話しかけてくるようなことはない。
「あれ? 皆さんは乗らないですか?」
「そうですね。私達は護衛ですからね。馬車の周りを馬に乗りながら警戒しなきゃならないんですよ」
なるほど。中で護衛する人はいないのか。まぁ、まだそんなに仲良くないし、いきなり馬車の中のような狭い空間で一緒になっても気まずいだけか。
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