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第三章:エヌという星
第59話 明らかになる真実
しおりを挟むサトルたちが最後のダンジョンをクリアした後に待っていたのはスカーレット王女だった。右手に杖を持ちながら、サトルたちへ向けて歩いてくる。
『皆さん、ダンジョンのクリアおめでとうございます』
スカーレット王女は4人を讃えるが、場違いな雰囲気に誰もが戸惑いを隠せない。
「なんで、こんなところに王女さんが…」
エリが驚くのも当然だろう。それは他の3人の思いを代弁した言葉でもあった。しかしサトルの反応はさらに上をいく。
「いや、この威圧感はあんたじゃない。後ろに何がいる?」
その言葉に3人に緊張が走る。何か得体のしれないものがいる、もしくは何か想定外の出来事が起きているからだ。
すると後ろからもう一人、男性がやってきた。
『よく気付いたな』
マサノリである。
見たこともない男性、しかしその姿は日本人そのもの。着ている洋服も靴も、日本ではお馴染みのブランドだからだ。しかしマサノリが発した言葉に4人は愕然とする。
『俺の名はマサノリ。みんなと同じ日本人で、このダンジョンを作ったものだ。さらに言い換えればソーマジック・サーガの作者でもある。まずはダンジョンの完全制覇、おめでとう。最短時間であり内容も満点に近い。他の4チームと比較してもかなり優秀な成績だった。さて、これから日本へ戻る話を含めて話したいことがあるので、ちょっと時間をくれないか?』
衝撃的な展開に4人は言葉が出ない。
『とはいえ、ここで突っ立ったまま話を聞くのも辛いだろうから、一度城に戻ることにしよう。いいかな?』
マサノリという男の存在が信用できるのか、サトルは判断できない。だがあの威圧感ははるかに自分たちの上回るものであり、もし自分たちに危害を加えるつもりであれば、回りくどい話をする必要もなく一瞬で済ますことができただろう。ここは穏便に従う方がいいと判断した。
「わかった… ただ、約束してほしい… 絶対に危害を加えないと…」
サトルはなんとか絞りだすようにマサノリに話しかけた。
『もちろんだ。そんなことはしない。これからは仲間であり、同志になるかもしれないからな。じゃぁ行くぞ。ハル、よろしく』
『わかりました。マサノリ様。それでは城に戻ります。…転移』
6人を白い光が包み込み、しばらくすると風景が一変した。
『ここはイスタの城にある特別な部屋だ。とりあえず席に座ってくれ。飯でも食べながら話していこう。今日は松坂牛と大間のマグロを持ってきている。うまいぞ』
「えっ?日本の食材?」
エリはマサノリの言葉に反応した。日本の食材があるということは、日本とエヌで行き来ができるのは本当だと証明するものだからだ。
そして続々と料理が運ばれてくるが、合わせて1人の人間が部屋に入ってきた。
『このお方はイスタ王国の宰相みたいな立場にある人間。今からこの国の歴史、そして何があったかを語ってもらう。そのあと、なぜ君たちがここに来たのか、そしてこれから何が起こるのか、俺から説明しよう』
サトルたちは緊張しながらマサノリの説明に頷いた。
『私はイスタ王国、八老会のひとりオブリバと申します。それでは皆様にこれまでのいきさつについてお話させていただきます』
そして説明が始まった。
その昔、このエヌは本当に平和な星でした。
争いもなく、差別もなく、人々は協力し合い、助け合い、そして収穫を祝い、子供の誕生を祝い、ありきたりな日々を過ごしていたのです。
ある日、この星に、別の星から旅をしてきたノダムールという男性がやってきました。
ノダムールはエヌにない様々な知識を持ち、そしてデイルと呼ばれる不思議な力が使えたのです。
彼はその知識とデイルをこの星に分け与えてくれました。
それらによって食料や医療の問題が解決し、エヌはさらに発展したのです。
ある日ノダムールは、星を去る前に恐ろしいことを話しました。
それはこの世界には多種多様の星があり、そこには様々な種族の生物が暮らしていると。
そして中にはエヌよりもはるかに進んだ文明や技術がある星もあれば、他の星を侵略するような悪しきものがいることも。
そしてノダムールは、エヌの力では悪しきものの侵略に対抗できないということも明かしたのです。
その時エヌを治めていた王はノダムールに訊ねました。
「その侵略から民を守る方法はないのか」
と。
しかしノダムールは、エヌの民では強力なデイルを使うための魔力が足りないことを理由に、現実的には困難であると伝えました。
さらに本人の魔力と生命を犠牲に、他の星から強力な戦士を召喚する手法があることも明かしますが、それもエヌの民では魔力が足りないと語ったのです。
すると二人の王女が自ら志願し、ノダムールの子を産むことで、その魔力を受け継いでいこうと考えました。
ノダムールは違う星に住む住人と子を為すことの危険を考えて否定的でしたが、ノダムールに秘かな思いを抱いていた王女たちの強い意志もあり、最終的に二人の王女はノダムールの子を身ごもったのです。
その後子供が誕生し、ノダムールの魔力が子どもに引き継がれたことがわかりました。
ノダムールはその後エヌで生涯を終える決意をし、子孫を鍛え、様々なデイルと知識、技術を伝えました。
そしてノダムールと王女の子供が成人したとき、王は国を二つに分け、東の大陸を第一王女とその子供に分け与え、西の大陸を第二王女とその子に託しました。
これは将来のために、王族を分散させることで、血が絶えるのを防ぐ意図があったと聞きます。
時は流れ、二つの大陸でノダムールの力を引き継いだ子供たちは、確かにエヌの住民にはない膨大な魔力がありました。
そして時に大量に発生した魔物から民を守り、また未曾有の天変地異が発生した際も、その王族によって国は守られてきたのです。
しかし意外なことに、その魔力を引き継げるのは王族の女性が生んだ子供のみ。
王族の男性が王族以外の女性となした子供には、不思議とその魔力が引き継がれませんでした。
その結果、このエヌは特に王族の女性が大切にされ、また常に先頭に立って戦ってきた男子の王族は、国民から多くの尊敬を集めたのです。
そんな時代が何百年と続いたある日、もっとも恐れていたこと、つまり他の星からの侵略を受けたのです。
それがおよそ11年前。
当初、王族の男子が中心となり、その魔物を撃退していましたが、より強力な魔物が現れ始めると状況は一気に悪化。
当時エヌには合計12の国家がありましたが、その侵略によって西の大陸を中心に5つの国家がほぼ壊滅、ノダムールの血を引いた王族の戦士たちも、多くが戦場で殺されたのです。
そこで王は最後の望みを託し自らの命を犠牲にして戦士の召喚を行ったのです。
実際に召喚は成功し、王族は戦士たちと協力しながら魔物は撃退したものの、より強力な魔物に対抗するには戦力的に足りず、さらに残った王族も命を犠牲に召喚を実施。
最終的に合計28名が他の星から召喚されました。そのうちチキュウから召喚されたのは26名です。
その後、その召喚者たちの活躍もあって戦局は落ち着きましたが、ある日まさかの事件が起こったのです。
遠く離れた戦場にいるはずの魔物の集団が、突如このイスタ王国に現れ、街を蹂躙したのです。
当時イスタ王国にいた3名の召喚者も撃退され、もはや成すすべもない状況でした。
その時、残された最後の王族であるノカ姫とルー王子が、自らを犠牲に最後の召喚を行いました。
『そして呼ばれたのが俺だ』
エヌの重鎮とマサノリが話す衝撃の話に、サトルたちは言葉も出ない。
『ノカとルーはこの国で、ノダムールの血を引く最後の王族だった。だが俺たちを呼んだことで、その命も失っている。だからこの星は新たに戦士を召喚することができない。そして君らが地球からこのエヌに来るには、その王族の召喚魔法に匹敵する魔力が必要だった。そこで、召喚後に命を落とし、埋葬された王族の遺骨を使用した。あのリアル・ソーマジック・ギアは、王族の遺骨で作られたものなんだよ』
「!!!!」
「帰還」へつづく
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