48 / 70
第三章:エヌという星
第47話 作戦会議
しおりを挟む惑星エヌの王族によって召喚された25名のチキュウ人ではなく、別のルートでこの星に転移してきた20人の日本人。
それは日本政府の密命を受けた自衛隊レンジャーの4人と、16名の一般人からなるメンバー構成だった。
その16人は日本でヒットしたオンラインゲーム「ソーマジック・サーガ」のトッププレイヤーであり、大々的に行われた「伝説の宝玉」イベントで優秀な成績をおさめ、エヌに転移するための魔法道具である「リアル・ソーマジック・ギア」を手に入れたものたち。
彼らは25人の召喚者の一人であるマサムネたちによって、この惑星エヌで「強さと資格」を手に入れるため、ダンジョンなどで鍛えられていた。
20名の転移者のうち、現時点で2チーム8名はレベル上げのためのダンジョンをクリア、資格も手にし、今は「黒き島」で本当の実戦を繰り返しながら、さらなるレベルアップを目指している。
残り3チームも順調にダンジョンの攻略が進んでおり、このままいけば想定の1か月前には全員が黒き島で戦える状況になる。これはマサノリたちにとってうれしい誤算であった。
およそ10年前に惑星エヌを襲った異星種族は、エヌの言葉で暗黒の侵略者の意味を持つ「デヴィ・アス」と名付けられた。
このデヴィ・アスはいまだエヌにとって驚異となっているが、空間術師シーナの結界によって、侵略のための転移地点が「黒き島」に限られたこと、黒き島の周囲に設置した撃退ポイントを活用することで被害が激減。侵略を抑えることに成功している。
ただしいまだ「黒き島」の完全な攻略には至っておらず、エヌの状況は膠着していた。
ここは神奈川県の湘南某所。海沿いに立つビルにあるweb系デザイン事務所。
この事務所は海が見える場所にあり、スタッフ達にとって光輝く海は癒しの象徴でもあった。
「今日は海が綺麗ね。風もないし、あら見てよ、烏帽子岩も綺麗に見えるわ。富士山と江ノ島もよく見えるわ。こんな時は海でのんびり昼寝でもしていたいわ」
「私はサーフィンね」
「私は釣り一択で」
「はいはい、雑談はそこまで。そろそろ会議が始めるわよ」
ここはマサノリたちが拠点とする基地への入口であり、室内にある魔法の扉を開けると、普段マサノリたちが使っているソーマジック・サーガの特別管理室に通じている。
その空間を管理しているのは、エヌによって召喚された召喚者の一人であり空間術師でもあるシーナこと富岡夏だ
そして本日、この星の行く末を決める重要な会議が行われる。
ここに集まったのは、ソーマジック・サーガの開発者であり、チームのリーダーであるマサノリ。そしていつもの召喚者メンバーである、シーナこと富岡夏、スカーレット王女こと小田貫波瑠、そして花村夫妻と、普段はエヌで黒き島を監視しているバーサーカーの大木。当然のことながら、ソーマジック・サーガの管理チームも参加している。さらにエヌに派遣されたレンジャーチームの四人、そして内閣の特命でエヌの調査を行っていた研究者の村田。また初めて内閣総理大臣、官房長官、自衛隊の各幕僚長、そして極秘に設置された内閣特命局の局長も参加している。
この日の会議のテーマは、いずれ地球を襲う異星からの侵略者に対抗するための作戦会議である。
まず最初に、ソーマジック・サーガ運営管理チームのリーダーである女性が説明を始めた。
「デヴィ・アスの侵略について現状での検証結果です。正確な時期はこちらの調査をもってしても不明ですが、アメリカのNASAからのデータ、マサノリ様とシーナ様の調査結果を見ても、おそらく一年以内、最短でも3ヶ月と見積もられています。前回までの会議では不確定でしたが、現時点で確定になったといって間違いありません。
初めて参加する方もいらっしゃいますので、ここでマサノリ様が捕獲した実際のデヴィ・アスをお見せします。ではマサノリ様、よろしくお願いいたします」
そう説明すると、マサノリに向かって頷いた。
「これから出す魔物は、エヌを襲っている実際の魔物を捕獲したもので、すでに死んでいる。レベル的には10段階中下から2番目といったあたりで、日本の警察の装備では倒せない」
その説明に内閣総理大臣ら政治家は息をのむ。そしてマサノリが手を広げた先を黙って凝視していると、その先に巨大な魔物が姿を現した。その姿は地球上の生物では比較できるものがなく、あえていえば有名なゲームに出てくる怪物。そして色は黒そのものであった。
「な、な、なんて恐ろしい姿なんだ…」
初めて魔物を見た参加者から悲鳴にも似た声が出た。他のメンバーは声も出ない。すると学者の村田が口を開いた。
「この魔物については私が解説します。この魔物の大きさは約3mですが、他の上のクラスになれば、8mほど巨大な魔物もいます。皮膚や内臓など体の構造は地球上の生き物とまったく異なっており、まず呼吸器がありません。さらに体温は10度ほどですが、高熱の火山帯でも活動しており、地球の気候でも難なく活動できると判断できます。消化器系は非常に発達しており、私は確認していませんが、エヌの記録では生物であれば人でも動物でも丸ごと捕食するとのこと。実際に解剖した際の胃にあたる内臓には、地球上の生物では考えられないほど強力な酸のような液体が検出されています。そして注目は血液がないこと。つまり出血多量といったものがなく、おそらく何らかの魔力的なもので体を動かしているのではないかと考えられます。また痛覚もないようで、手足がもぎれても行動への影響は軽微です。そして強靭な皮膚は、超硬質のゴムのような素材であり、現在警察で採用されている拳銃では傷をつけることもできません。また陸上自衛隊で採用されている89式小銃も相手の行動を一時的に制限するにとどまり、撃退には至りませんでした。弱点は体内にある心臓のようなもので、マサノリ君たちはコアと呼んでいます。これを破壊すれば活動が停止しますが、そこにいるレンジャーの4名が倒せるのは、この3mクラスまでと聞いています。また動きの俊敏さや力は尋常ではなく、魔法のような特殊な攻撃をする個体もおり、我々地球人が初見で対決すれば致死率は100%と断言します。結論から言えば、エヌのデイルと呼ばれる魔法や、召喚者が開発したスキルなどの技術を除いた場合、長距離からの迫撃砲、あるいは地対空ミサイルのような攻撃でなければ致命傷は与えられないと思います。しかし、100万匹単位の魔物がバラバラに、ギリギリまで襲来を察知できないことが予測される今回は、相手の出現ポイントに自衛隊を配備できず、自衛隊を中心とした戦略は非現実的だと考えられます」
その説明に自衛隊の各幕僚長はプライドを傷つけられたのか不満の表情を浮かべている。しかしそもそも自衛隊は、こんな魔物を撃退するシミュレーションも訓練もしていないし、そのための武器を開発していない。さらに本当に襲来してくるのか確証がない中で、巨額の予算を組んで武器を開発することは、野党の反対が目に見えており不可能だった。。
「そんな魔物が100万匹以上も地球にやってくるのか…。どうやって対抗するというのだ…」
沈黙が会議室を包んだ。
「撃退方法」へつづく
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
成長チートと全能神
ハーフ
ファンタジー
居眠り運転の車から20人の命を救った主人公,神代弘樹は実は全能神と魂が一緒だった。人々の命を救った彼は全能神の弟の全智神に成長チートをもらって伯爵の3男として転生する。成長チートと努力と知識と加護で最速で進化し無双する。
戦い、商業、政治、全てで彼は無双する!!
____________________________
質問、誤字脱字など感想で教えてくださると嬉しいです。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
異世界でスキルを奪います ~技能奪取は最強のチート~
星天
ファンタジー
幼馴染を庇って死んでしまった翔。でも、それは神様のミスだった!
創造神という女の子から交渉を受ける。そして、二つの【特殊技能】を貰って、異世界に飛び立つ。
『創り出す力』と『奪う力』を持って、異世界で技能を奪って、どんどん強くなっていく
はたして、翔は異世界でうまくやっていけるのだろうか!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる