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第三章:エヌという星

第47話 作戦会議

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 惑星エヌの王族によって召喚された25名のチキュウ人ではなく、別のルートでこの星に転移してきた20人の日本人。

 それは日本政府の密命を受けた自衛隊レンジャーの4人と、16名の一般人からなるメンバー構成だった。

 その16人は日本でヒットしたオンラインゲーム「ソーマジック・サーガ」のトッププレイヤーであり、大々的に行われた「伝説の宝玉」イベントで優秀な成績をおさめ、エヌに転移するための魔法道具である「リアル・ソーマジック・ギア」を手に入れたものたち。

 彼らは25人の召喚者の一人であるマサムネたちによって、この惑星エヌで「強さと資格」を手に入れるため、ダンジョンなどで鍛えられていた。

 20名の転移者のうち、現時点で2チーム8名はレベル上げのためのダンジョンをクリア、資格も手にし、今は「黒き島」で本当の実戦を繰り返しながら、さらなるレベルアップを目指している。

 残り3チームも順調にダンジョンの攻略が進んでおり、このままいけば想定の1か月前には全員が黒き島で戦える状況になる。これはマサノリたちにとってうれしい誤算であった。


 およそ10年前に惑星エヌを襲った異星種族は、エヌの言葉で暗黒の侵略者の意味を持つ「デヴィ・アス」と名付けられた。

 このデヴィ・アスはいまだエヌにとって驚異となっているが、空間術師シーナの結界によって、侵略のための転移地点が「黒き島」に限られたこと、黒き島の周囲に設置した撃退ポイントを活用することで被害が激減。侵略を抑えることに成功している。

 ただしいまだ「黒き島」の完全な攻略には至っておらず、エヌの状況は膠着していた。






 ここは神奈川県の湘南某所。海沿いに立つビルにあるweb系デザイン事務所。

 この事務所は海が見える場所にあり、スタッフ達にとって光輝く海は癒しの象徴でもあった。


「今日は海が綺麗ね。風もないし、あら見てよ、烏帽子岩も綺麗に見えるわ。富士山と江ノ島もよく見えるわ。こんな時は海でのんびり昼寝でもしていたいわ」

「私はサーフィンね」

「私は釣り一択で」

「はいはい、雑談はそこまで。そろそろ会議が始めるわよ」


 ここはマサノリたちが拠点とする基地への入口であり、室内にある魔法の扉を開けると、普段マサノリたちが使っているソーマジック・サーガの特別管理室に通じている。

 その空間を管理しているのは、エヌによって召喚された召喚者の一人であり空間術師でもあるシーナこと富岡夏だ

 そして本日、この星の行く末を決める重要な会議が行われる。



 ここに集まったのは、ソーマジック・サーガの開発者であり、チームのリーダーであるマサノリ。そしていつもの召喚者メンバーである、シーナこと富岡夏、スカーレット王女こと小田貫波瑠、そして花村夫妻と、普段はエヌで黒き島を監視しているバーサーカーの大木。当然のことながら、ソーマジック・サーガの管理チームも参加している。さらにエヌに派遣されたレンジャーチームの四人、そして内閣の特命でエヌの調査を行っていた研究者の村田。また初めて内閣総理大臣、官房長官、自衛隊の各幕僚長、そして極秘に設置された内閣特命局の局長も参加している。


 この日の会議のテーマは、いずれ地球を襲う異星からの侵略者に対抗するための作戦会議である。

 まず最初に、ソーマジック・サーガ運営管理チームのリーダーである女性が説明を始めた。


「デヴィ・アスの侵略について現状での検証結果です。正確な時期はこちらの調査をもってしても不明ですが、アメリカのNASAからのデータ、マサノリ様とシーナ様の調査結果を見ても、おそらく一年以内、最短でも3ヶ月と見積もられています。前回までの会議では不確定でしたが、現時点で確定になったといって間違いありません。

 初めて参加する方もいらっしゃいますので、ここでマサノリ様が捕獲した実際のデヴィ・アスをお見せします。ではマサノリ様、よろしくお願いいたします」


 そう説明すると、マサノリに向かって頷いた。


「これから出す魔物は、エヌを襲っている実際の魔物を捕獲したもので、すでに死んでいる。レベル的には10段階中下から2番目といったあたりで、日本の警察の装備では倒せない」


 その説明に内閣総理大臣ら政治家は息をのむ。そしてマサノリが手を広げた先を黙って凝視していると、その先に巨大な魔物が姿を現した。その姿は地球上の生物では比較できるものがなく、あえていえば有名なゲームに出てくる怪物。そして色は黒そのものであった。


「な、な、なんて恐ろしい姿なんだ…」


 初めて魔物を見た参加者から悲鳴にも似た声が出た。他のメンバーは声も出ない。すると学者の村田が口を開いた。


「この魔物については私が解説します。この魔物の大きさは約3mですが、他の上のクラスになれば、8mほど巨大な魔物もいます。皮膚や内臓など体の構造は地球上の生き物とまったく異なっており、まず呼吸器がありません。さらに体温は10度ほどですが、高熱の火山帯でも活動しており、地球の気候でも難なく活動できると判断できます。消化器系は非常に発達しており、私は確認していませんが、エヌの記録では生物であれば人でも動物でも丸ごと捕食するとのこと。実際に解剖した際の胃にあたる内臓には、地球上の生物では考えられないほど強力な酸のような液体が検出されています。そして注目は血液がないこと。つまり出血多量といったものがなく、おそらく何らかの魔力的なもので体を動かしているのではないかと考えられます。また痛覚もないようで、手足がもぎれても行動への影響は軽微です。そして強靭な皮膚は、超硬質のゴムのような素材であり、現在警察で採用されている拳銃では傷をつけることもできません。また陸上自衛隊で採用されている89式小銃も相手の行動を一時的に制限するにとどまり、撃退には至りませんでした。弱点は体内にある心臓のようなもので、マサノリ君たちはコアと呼んでいます。これを破壊すれば活動が停止しますが、そこにいるレンジャーの4名が倒せるのは、この3mクラスまでと聞いています。また動きの俊敏さや力は尋常ではなく、魔法のような特殊な攻撃をする個体もおり、我々地球人が初見で対決すれば致死率は100%と断言します。結論から言えば、エヌのデイルと呼ばれる魔法や、召喚者が開発したスキルなどの技術を除いた場合、長距離からの迫撃砲、あるいは地対空ミサイルのような攻撃でなければ致命傷は与えられないと思います。しかし、100万匹単位の魔物がバラバラに、ギリギリまで襲来を察知できないことが予測される今回は、相手の出現ポイントに自衛隊を配備できず、自衛隊を中心とした戦略は非現実的だと考えられます」


 その説明に自衛隊の各幕僚長はプライドを傷つけられたのか不満の表情を浮かべている。しかしそもそも自衛隊は、こんな魔物を撃退するシミュレーションも訓練もしていないし、そのための武器を開発していない。さらに本当に襲来してくるのか確証がない中で、巨額の予算を組んで武器を開発することは、野党の反対が目に見えており不可能だった。。


「そんな魔物が100万匹以上も地球にやってくるのか…。どうやって対抗するというのだ…」


 沈黙が会議室を包んだ。


「撃退方法」へつづく
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