三世町には絶対に住むな!

ハコニワ

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第8話 誰

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 出て行ったときちゃんと鍵を閉めたはずなのに、帰るときには開いていてもしや、泥棒が入ったのかもしれないと警戒しても、家の中は荒らされていないし何も取られていない。そんなのが続く。最初は不快だったけどだんだんと慣れていくうちに日常茶飯事となった。

 そんなある日、アパートの大家さんから苦情がきた。
「いつも彼氏と遊んでいるようだけど、大学は大丈夫なの? お金は? 仕送りしてもらっているの?」
 と。わけのわからないことを言ってきた。わたしには彼氏など持っていなければ、お家に招いたこともない。佐江ちゃんでさえもまだなのに。佐江ちゃんは怖がるから来てくれない。

 大家さんはきっと、わたしと誰かを間違えているんだ。きっと。深く考えずに過ごすとまた、お隣さんの若い人からも。 
「ほら、こないだ食べたいって言ってたクリームシチュー。作ったわよ。食べて食べて。味には自信があるから!」 
「はぁ、ありがとうございます」
 受け取ったクリームシチューを食べてみるとうん。美味しい。さすが主婦。料理全然できないから見習わねば。

 それよりもわたし、お隣さんにクリームシチュー頼んだ覚えがない。というより、お隣さんとは今日初めて話した。初対面な素振りも見せずにまるで、親しい間柄のように話してかけてきてびっくり。わたし人見知りだから、グイグイこられると遠慮がちになる。その翌朝、またしても。

 生ゴミを外に捨てると、大家さんが叫んだ。鬼のような形相で。
「こらこら! 今日は生ゴミの日じゃないよ! 回覧板見たろ⁉」
「え? 見てません」
 おずおず答えると大家さんは、はぁ⁉ みたいな顔で睨みつけてきた。大家さんは1回自分の家に戻って再びこちらに戻ってきた。手にはアパート住民のための回覧板が。

 これ見てみろ、と言いだけに回覧板を開いてこれ見ましたよ、という印の印鑑が押してある場所に、自分の印鑑が押してあった。
「ほら! 回覧板を見てんじゃないかい、何いってんだい! さっさとそのゴミ戻しな」
 大家さんはふん、とふんぞり返って去っていった。わたしは虚無にあてられ呆然としていた。わたし印鑑押していない。そんなの見たことない。


 わたしじゃない誰かがわたしだと偽装している。一体誰か。考えてもまとまらないので、ゴミを手に持って部屋に帰宅。


「おかえり」


 そこにはもう一人のわたしが立っていた。




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