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Ⅳ 哀悼に咲き誇る~17歳~
第66話 邪鬼の呪怨
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負傷したユリスを美樹とミラノが抱え、この場に残ったのは、俺、ルイ、ジン、雨の四名。
一人二人欠ければ、少なくなる。
邪鬼の呪怨について、戦場で考えてる暇はない。
核を破壊されると分かったアダムが、それまで、完全無視だった俺たちに狙いを定めて攻撃してきた。
粒状の炎を口の中で溜め、息を吸い込むようにして膨張させた。遠く離れた距離からも熱さを感じる。
温かい。しかし、徐々に徐々に大きくなるにつれ、その温もりは焼き殺すほどの熱さに。
拳ほどの大きな玉に。
大きく口を開け、その中で火の玉を膨張させてから放つ。
すぐに結界をはった。だが、熱さでドロドロに溶けていく。拳なみの火の玉がこちらに近づいてくる。ものすごいスピードだ。目もくらむスピード。大きいくせに機動力がなっている。
ここでルイが時間操作を発動させ、時間を止まらせた。火の玉が空中で止まっている。海の波も、アダムも、全ての空間が氷のよう。俺たち以外止まっていた。
止まっている空間内で火の玉を回避する。
術者のルイがに止まってる時間を元に戻す。
火の玉を全員回避すると、火の玉は、
海のほうへ真っ逆さま。ドボン、と水しぶきをあげて落ちた。ジュワァ、と海面で溶けだす。熱したフライパンに水を注いだような音。それから間もなく、海面から白い湯気が立ち込める。
今度は、粒粒の火の玉がアダムの周りにボッボッボ、と出現。人魂のように小さな、無機物なもの。
レーザービームのように粒粒の火が降ってくる。降りしきる雨のよう。だが、何処から何処でも視界の端からでも降ってくるので、避けきれない。かすっただけで分厚い戦闘服がボロボロに切れて、肌にあたる。
紙で指を切ったような小さな切り傷。地味だが痛い。
どうにかして、近づきたい。だかアダムも隙は見せてくれない。隣にいたルイが息をのんだ気がした。
「私アダムの呪怨、分かったかも」
「え? ほんとか!?」
あまりに突然のことに、身を前に乗り出した。ルイはびっくりしてジリ、と後退。たじろきながらコクリと頷く。人差し指で海面のほうを指差した。
「さっき、粒のビームを出したでしょ? そのビーム、海のほうに落ちて消えると思ったけど、見て、海面を吸い取っている」
ルイの指差した方向をゆるゆると辿ると、海面にうっすらと小さな粒の影が浮かんでいた。その影の周りには、小さな渦と白い泡がぷくぷくとたっていた。その影はどんどん小さくなっていき、海底にゆっくりと沈んでいく。
海面からルイのほうへ再び顔をあげる。これを見てもちっとも分からない。頭の悪い俺には分からぬ。ルイ先生、教えてください。
「えっと、あの渦見て。影のほうに引き寄せられて渦を巻いているでしょ? 海面を吸い取っている証拠」
確かに。影を中心に渦を巻いている。
ルイは続けて喋った。真っ直ぐな目。
「【生命の呪怨】。対象者の命を吸い取ったり、長くさせたり、または逆に奪ったり、特殊な呪怨。たぶん、学園の中に侵入出来たのは、リリスの呪怨で救助班とスノー先生の命を奪ったのはアダム」
感服が胸を浸った。
昔から本を読んでて、知識や聡明さは同世代で遥かに凌いでいるのは、気づいていた。だが、邪鬼の呪怨まで判別するとは、もはや規格外だ。
しかし、ルイの顔色は暗い。やっとアダムの呪怨が分かったのに。
ルイは、悩んだ様子で首を何度も捻り、ポツリポツリと重い口を開いた。
「アダムは分かったけど、リリスは分かんない。結界にも侵入できるすり抜ける呪怨? いや、透視? 考えてみても、あの結界の中に侵入できるなんてリリスは、今までで一番やばい。シモン先輩は大丈夫かな?」
シモン先輩はとっくに空間を切って、その空間の中で邪鬼と闘っている。その空間内の情景は、残された現実の空間では、見ることはできない。
ただ見ることができるのは、その空間内に入った人物だけ。
シモン先輩たちの健闘を祈るしかない。
「俺たちは俺たちのことを考えよう」
ジンが肩にポン、と手を置いた。
俺は「そうだな」と大きく頷く。
ジンの言うとおり、今、目の前の相手を倒すことに専念しろ。シモン先輩は強い。学園一。シモン先輩はこの夜に死なないさ。だって約束したんだ。一緒に島の外に出るって。約束を破いたことは一度もない。だから大丈夫。
胸にそう言い聞かせ、再び高揚感が胸を踊った。
顔面の前を飛行していたとき、あのときアダムは振り払うこともしなかった。それは、フィールドが発動しなかったのも原因だが、もしかしたら、フィールドは核の周りしか発動しないのかも。
つまり、正面の位置ではフィールドを張らない。
「私が適任だな」
雨が自信満々にニッと笑った。
そう。俺たちがくだした作戦で、核を破壊するのは雨と決まった。
どんな邪鬼でも、雨の呪怨には勝てない。無効の邪鬼も破壊の邪鬼も、どちらも強かったが、腐敗には勝てずに未だ全勝。
雨の呪怨でアダムを倒す。
そのためには、俺がアダムを引きつける。各自、ポジションに立つ。雨はそわそわとしながらくっついてきた。なんだか、顔が真っ赤だ。
「あ、あの……」
「うん?」
口をモゴモゴしながら、その先をポツリポツリと喋った。
「こ、この闘い終わったら……言いたいことがあるんだ、その、大事な話……」
近くにいるのに、目線が合わない。チラホラと視線が曖昧。シモン先輩みたいに先の未来の話だろうか。それなら付き合おう。
「お互い、生きてたらな」
「うん……!」
雨は、安堵した表情で自分のポジションに向かった。そのとき、大事な話とやらを今聞けば良かったと、後々後悔することになる。
アダムは核が破壊されるのを恐れてか、粒粒のレーザービームを躊躇なく俺たちに襲いかけてきた。近くにいけないのは分かっている。なら、これならどうだ。
フレイムインパクトを顔面に乱射。
アダムは、顔に手を持ってき痛苦にまみれた悲鳴をあげて蠢いた。
モクモクと広がる黒煙とオレンジの飛沫が空気に舞う。邪鬼の痛苦の悲鳴は、いつ聞いても耳を塞ぎたくなるおぞましさだ。
とても低い声で、この世の全てを妬み、憎んでいるような、悲痛に似た叫び。アダムは、何度も頭を振ったり、体を反りたり、黒煙と炎から逃げてる。
今がチャンスだ。
そろりと近づき、雨がアダムの体に乗る。核があるうなじのところ。赤い核に腕を伸ばす。
みるみる近づいていく。
小さな指先が触れていく。
突然、グルンとアダムの首が後ろに回った。人だったらありえない角度。首が後ろを向いている。
パカッとカバのように口を大きく開いた。遠くからでも、迫力が分かった。大きく開けた口は漆黒に満ちていた。光はない漆黒の闇。
雨の体を上回る巨大な口。
「え――」
上空に、その途切れた言葉が異様に響いた。
ブチリ、ゴキッと硬い構造した人体が噛み砕かれた音も鮮明に響き渡る。
雨は丸呑みにされ、まるで、ご飯を食べているようにモグモグと何度も噛み砕く。
バキッ、ゴキッ、と丈夫な骨を噛み砕き、内蔵や脳汁などの臓物を啜る音が、嫌でも耳に浸った。
嫌な音だ。耳を塞ぎたくなる痛々しい音。微かな悲鳴も聞こえる。助けて、と泣き叫ぶ声が。でも、徐々にその声は聞こえなくなる。
虚しくも、俺は、呆然と様子を見ていることしかできなかった。
まるで、俺たちがご飯を食べているのと同じ。美味しそうに食べ、モグモグと食べている。
ゴックンと全てを飲み干し、アダムは再びグルンと首を元の位置に戻った。
あっという間。
あっという間に雨は食された。
「あ……雨……」
全身にダラダラと汗が出てきた。小さな汗玉がツゥ、と頬を伝う。
大事な話を、この闘いが終わったあとするんじゃないのか? そう言ったときの雨の必死な顔を思い出す。顔は真っ赤だったけど、言葉一つ一つに想いをぶつけるように力強かった。
あのとき聞けば良かった、大事な話を。そうすれば、こんなドス黒い後悔は。
「そんな……」
背後に美樹の声がした。恐る恐る振り返ると、隣にはユリス、その隣にはミラノ。ユリスを抱えるように肩を組んでいる。
美樹は、いつからそこにいたのだろう。美樹の声は震えていた。涙混じり。雨が食された場面から見ていたに違いない。
「雨が……食べられた」
今まで見たことない青白い顔で硬直していた。視線はアダム。大きな目に水が溜まっていた。
一人二人欠ければ、少なくなる。
邪鬼の呪怨について、戦場で考えてる暇はない。
核を破壊されると分かったアダムが、それまで、完全無視だった俺たちに狙いを定めて攻撃してきた。
粒状の炎を口の中で溜め、息を吸い込むようにして膨張させた。遠く離れた距離からも熱さを感じる。
温かい。しかし、徐々に徐々に大きくなるにつれ、その温もりは焼き殺すほどの熱さに。
拳ほどの大きな玉に。
大きく口を開け、その中で火の玉を膨張させてから放つ。
すぐに結界をはった。だが、熱さでドロドロに溶けていく。拳なみの火の玉がこちらに近づいてくる。ものすごいスピードだ。目もくらむスピード。大きいくせに機動力がなっている。
ここでルイが時間操作を発動させ、時間を止まらせた。火の玉が空中で止まっている。海の波も、アダムも、全ての空間が氷のよう。俺たち以外止まっていた。
止まっている空間内で火の玉を回避する。
術者のルイがに止まってる時間を元に戻す。
火の玉を全員回避すると、火の玉は、
海のほうへ真っ逆さま。ドボン、と水しぶきをあげて落ちた。ジュワァ、と海面で溶けだす。熱したフライパンに水を注いだような音。それから間もなく、海面から白い湯気が立ち込める。
今度は、粒粒の火の玉がアダムの周りにボッボッボ、と出現。人魂のように小さな、無機物なもの。
レーザービームのように粒粒の火が降ってくる。降りしきる雨のよう。だが、何処から何処でも視界の端からでも降ってくるので、避けきれない。かすっただけで分厚い戦闘服がボロボロに切れて、肌にあたる。
紙で指を切ったような小さな切り傷。地味だが痛い。
どうにかして、近づきたい。だかアダムも隙は見せてくれない。隣にいたルイが息をのんだ気がした。
「私アダムの呪怨、分かったかも」
「え? ほんとか!?」
あまりに突然のことに、身を前に乗り出した。ルイはびっくりしてジリ、と後退。たじろきながらコクリと頷く。人差し指で海面のほうを指差した。
「さっき、粒のビームを出したでしょ? そのビーム、海のほうに落ちて消えると思ったけど、見て、海面を吸い取っている」
ルイの指差した方向をゆるゆると辿ると、海面にうっすらと小さな粒の影が浮かんでいた。その影の周りには、小さな渦と白い泡がぷくぷくとたっていた。その影はどんどん小さくなっていき、海底にゆっくりと沈んでいく。
海面からルイのほうへ再び顔をあげる。これを見てもちっとも分からない。頭の悪い俺には分からぬ。ルイ先生、教えてください。
「えっと、あの渦見て。影のほうに引き寄せられて渦を巻いているでしょ? 海面を吸い取っている証拠」
確かに。影を中心に渦を巻いている。
ルイは続けて喋った。真っ直ぐな目。
「【生命の呪怨】。対象者の命を吸い取ったり、長くさせたり、または逆に奪ったり、特殊な呪怨。たぶん、学園の中に侵入出来たのは、リリスの呪怨で救助班とスノー先生の命を奪ったのはアダム」
感服が胸を浸った。
昔から本を読んでて、知識や聡明さは同世代で遥かに凌いでいるのは、気づいていた。だが、邪鬼の呪怨まで判別するとは、もはや規格外だ。
しかし、ルイの顔色は暗い。やっとアダムの呪怨が分かったのに。
ルイは、悩んだ様子で首を何度も捻り、ポツリポツリと重い口を開いた。
「アダムは分かったけど、リリスは分かんない。結界にも侵入できるすり抜ける呪怨? いや、透視? 考えてみても、あの結界の中に侵入できるなんてリリスは、今までで一番やばい。シモン先輩は大丈夫かな?」
シモン先輩はとっくに空間を切って、その空間の中で邪鬼と闘っている。その空間内の情景は、残された現実の空間では、見ることはできない。
ただ見ることができるのは、その空間内に入った人物だけ。
シモン先輩たちの健闘を祈るしかない。
「俺たちは俺たちのことを考えよう」
ジンが肩にポン、と手を置いた。
俺は「そうだな」と大きく頷く。
ジンの言うとおり、今、目の前の相手を倒すことに専念しろ。シモン先輩は強い。学園一。シモン先輩はこの夜に死なないさ。だって約束したんだ。一緒に島の外に出るって。約束を破いたことは一度もない。だから大丈夫。
胸にそう言い聞かせ、再び高揚感が胸を踊った。
顔面の前を飛行していたとき、あのときアダムは振り払うこともしなかった。それは、フィールドが発動しなかったのも原因だが、もしかしたら、フィールドは核の周りしか発動しないのかも。
つまり、正面の位置ではフィールドを張らない。
「私が適任だな」
雨が自信満々にニッと笑った。
そう。俺たちがくだした作戦で、核を破壊するのは雨と決まった。
どんな邪鬼でも、雨の呪怨には勝てない。無効の邪鬼も破壊の邪鬼も、どちらも強かったが、腐敗には勝てずに未だ全勝。
雨の呪怨でアダムを倒す。
そのためには、俺がアダムを引きつける。各自、ポジションに立つ。雨はそわそわとしながらくっついてきた。なんだか、顔が真っ赤だ。
「あ、あの……」
「うん?」
口をモゴモゴしながら、その先をポツリポツリと喋った。
「こ、この闘い終わったら……言いたいことがあるんだ、その、大事な話……」
近くにいるのに、目線が合わない。チラホラと視線が曖昧。シモン先輩みたいに先の未来の話だろうか。それなら付き合おう。
「お互い、生きてたらな」
「うん……!」
雨は、安堵した表情で自分のポジションに向かった。そのとき、大事な話とやらを今聞けば良かったと、後々後悔することになる。
アダムは核が破壊されるのを恐れてか、粒粒のレーザービームを躊躇なく俺たちに襲いかけてきた。近くにいけないのは分かっている。なら、これならどうだ。
フレイムインパクトを顔面に乱射。
アダムは、顔に手を持ってき痛苦にまみれた悲鳴をあげて蠢いた。
モクモクと広がる黒煙とオレンジの飛沫が空気に舞う。邪鬼の痛苦の悲鳴は、いつ聞いても耳を塞ぎたくなるおぞましさだ。
とても低い声で、この世の全てを妬み、憎んでいるような、悲痛に似た叫び。アダムは、何度も頭を振ったり、体を反りたり、黒煙と炎から逃げてる。
今がチャンスだ。
そろりと近づき、雨がアダムの体に乗る。核があるうなじのところ。赤い核に腕を伸ばす。
みるみる近づいていく。
小さな指先が触れていく。
突然、グルンとアダムの首が後ろに回った。人だったらありえない角度。首が後ろを向いている。
パカッとカバのように口を大きく開いた。遠くからでも、迫力が分かった。大きく開けた口は漆黒に満ちていた。光はない漆黒の闇。
雨の体を上回る巨大な口。
「え――」
上空に、その途切れた言葉が異様に響いた。
ブチリ、ゴキッと硬い構造した人体が噛み砕かれた音も鮮明に響き渡る。
雨は丸呑みにされ、まるで、ご飯を食べているようにモグモグと何度も噛み砕く。
バキッ、ゴキッ、と丈夫な骨を噛み砕き、内蔵や脳汁などの臓物を啜る音が、嫌でも耳に浸った。
嫌な音だ。耳を塞ぎたくなる痛々しい音。微かな悲鳴も聞こえる。助けて、と泣き叫ぶ声が。でも、徐々にその声は聞こえなくなる。
虚しくも、俺は、呆然と様子を見ていることしかできなかった。
まるで、俺たちがご飯を食べているのと同じ。美味しそうに食べ、モグモグと食べている。
ゴックンと全てを飲み干し、アダムは再びグルンと首を元の位置に戻った。
あっという間。
あっという間に雨は食された。
「あ……雨……」
全身にダラダラと汗が出てきた。小さな汗玉がツゥ、と頬を伝う。
大事な話を、この闘いが終わったあとするんじゃないのか? そう言ったときの雨の必死な顔を思い出す。顔は真っ赤だったけど、言葉一つ一つに想いをぶつけるように力強かった。
あのとき聞けば良かった、大事な話を。そうすれば、こんなドス黒い後悔は。
「そんな……」
背後に美樹の声がした。恐る恐る振り返ると、隣にはユリス、その隣にはミラノ。ユリスを抱えるように肩を組んでいる。
美樹は、いつからそこにいたのだろう。美樹の声は震えていた。涙混じり。雨が食された場面から見ていたに違いない。
「雨が……食べられた」
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