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第二章 前世と神と
第27話 帰宅
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それは、みるからに壺だった。
「壺……あった」
思わず女性のほうに顔を向けると、もうそこには女性はいなかった。姿影も。まるで、不思議の国のアリスのチェシャ猫みたいに姿を現したり消えたりする。
まだ頭は混乱するけど、あたしは草むらに紛れた壺を拾い上げる。なんだろう。天照の壺だというから凄い高級品でおしゃれなデザインしているんだなと思ったら違った。
ごく普通に店に売ってある安物と似ている。拾い上げると、いかにも草で隠してますよ、みたいな隠し通路を発見。
あぁ、女性が言っていた通路ってここのところだったんだ。安心して。壺発見したならもうここに用はない。さっさと帰るだけだからね。こんな怪しいいかにもでそうな場所は決して歩まない。これが人生の楽な楽しみかただよ。
「見つけたのか?」
不意に背後から思わぬ声がかけられ、びっくりしてまた尻もちをつく。睨むように振り返るとヘベと天照が不思議そうにあたしを見下ろしてた。
すぐに立ち上がり、お尻についた砂埃を手で払いのける。
「見つけたよ。まったくこんなところにあったよ。ちょっとは管理してよね」
「あらあら、ごめんなさいね」
天照に渡すと天照はニコッと申し訳なさそうに受け取る。その隣のヘベは、なぜか不審そうにあたしをまじまじ見ている。
「もしかして……見たのか? 白い服を着た」
「あ、そうなの! この壺もここにあるよって教えてくれたのもその人なんだ。人間だってバレてたけど」
ヘベと天照は顔を見合わせ、お互いに不安そうな表情をした。なにか言われた? とか怪しいもの食べた? とかそんな根掘り葉掘り聞いてくる。応えられないよ。だって、神さまだけど一応初対面の人物からお菓子貰って喜んで食べたんだもの。
それって今どきの子どもよりバカじゃん。怪しい人物にホイホイついていったよ。こんなのバレたら終わる。
あたしはさりげなく別に、と一言で済ませた。そのいってんばりを極めてたら、いつしか質問は終わり、帰りの道の話しをしていた。
「そういえば、あれから何時間かかったんだろ。貴重な休みが」
肩を落とし、へこむとヘベがニッコリと笑いかけてきた。
「大丈夫。高天原と人間界の時間の差は然程ない。一分も二分も経ってないさ」
「えぇ!? そうなの!?」
それ便利だな。今度忘れものしたとき天照に頼んで時間止めてくんないかな。
行きと同じ、目の前から神々しい光が現れた。そういえば、もう一つ心配だったのがあった。
「帰ったらあたしの家なんだよね?……――え」
「あ」
光がやみ、宙に浮いてたような感覚を失ったので、元の場所に戻れたんだ、そう思って目を開けてみた。
暫くぶりに目を開けてみたら、パチパチして目の前にあるソレが何かひと目で分からなかった。大きな冷蔵庫に、母が好きなチラシ、どこにでもあるテーブル、紛れもなくあたしの家のキッチン。
けど、見慣れた家に浮いてあるものがいた。冷蔵庫を隅からあさる月詠を発見。しかも、裸で。風呂あがりなのか真っ黒い髪の毛はびしょ濡れで下半身にはバスローブを巻いている。
「うっ……わあああああ!」
「いやああああ!」
あたしは反射的に上の階に向かって走った。全速力で。月詠はというと冷蔵庫の前で呆然と突っ立っている。
部屋にあがり、ガバッと頭まで毛布を被った。初めて見てしまった神さまの全裸。生まれてこのかた男の人の裸も見たことないあたしがあんな間近に凝視して。
下の階ではヘベが玄関先から急いでキッチンに走ってきた。
「玲奈、大丈夫か!?」
「大丈夫じゃない! とくにオレが!」
月詠が裸であることを見ると、これまでにない冷めた目をする。そのことに月詠は怒る。
「人間の女に見られた……あんなトロそうな女に!」
「どうせ取るに足らないだろう?」
「足るわショックで」
顔を梅干しみたいに赤くさせた月詠。その反応をまじまじと見たヘベはクスクス笑う。
§
「あんた……この休みでなにか変なもの食べた?」
東がひきつった表情で唐突に訊ねてくる。久しぶりの学校で第一声がそれ。
変なもの。思い出せない。確か、夜は焼きそば食べて腹の足しと思ってプリン食べたんだっけ。あとなにかあったかな。
「なにも? なんのこと?」
東は心底驚いているようでぽっかり口を開いている。
あたしの全身をなめ回すようにまじまじと見つめてる。一体朝から何用なの。
「なに? はっきり言って」
ムスッとした面持ちで訊ねると東は何事もなかったような表情をした。
「覚えてないなら……いいや」
「え!? 言って言って!」
しつこく接するもあんなにだらしなく開いていた口を頑なに閉じている。隣の席だというのに全くこちらを見ようともしない。
なんなの、朝から。もう、本当にいいや。あたしも全力で気にしない素振り。
けど、頭の中で不意に月詠の裸が蘇ってくる。だめだめ。いくら美形で細マッチョでも神さま、神さまなんだから。
東はこっそり隣の住人に目を配った。隣の住人は自分と同じように〝見える〟側の人間。そんな稀にいないから心を少し許している部分がある。
けど、一日置いて学校に来たらその子の雰囲気が変わっていた。というと〝気〟がね。わかりやすく言うとその人間特有の生まれながらに持った才能のオーラ。
人にはそれぞれいろんな才能のオーラを持っていて少なからず、この人優等生だ、仕事人間だ、といかにも雰囲気から見えるのがオーラなの。
そのオーラが小さい頃から感じ取れる私は少し戸惑った。玲奈のオーラが小さくなっている。いいや、今まで体から突き抜けていたオーラが萎縮し、通常の人間と同じオーラと変わっていた。
これは何かが起きたよね。体育祭の帰り道で二人組みの神とすれ違った時から何か違和感がある。
もしかたら、もうあの大きかった〝気〟は取り戻せないのかな。それは、お互い〝見える〟側に存在する私にとってちょっとした孤独感でした。
「壺……あった」
思わず女性のほうに顔を向けると、もうそこには女性はいなかった。姿影も。まるで、不思議の国のアリスのチェシャ猫みたいに姿を現したり消えたりする。
まだ頭は混乱するけど、あたしは草むらに紛れた壺を拾い上げる。なんだろう。天照の壺だというから凄い高級品でおしゃれなデザインしているんだなと思ったら違った。
ごく普通に店に売ってある安物と似ている。拾い上げると、いかにも草で隠してますよ、みたいな隠し通路を発見。
あぁ、女性が言っていた通路ってここのところだったんだ。安心して。壺発見したならもうここに用はない。さっさと帰るだけだからね。こんな怪しいいかにもでそうな場所は決して歩まない。これが人生の楽な楽しみかただよ。
「見つけたのか?」
不意に背後から思わぬ声がかけられ、びっくりしてまた尻もちをつく。睨むように振り返るとヘベと天照が不思議そうにあたしを見下ろしてた。
すぐに立ち上がり、お尻についた砂埃を手で払いのける。
「見つけたよ。まったくこんなところにあったよ。ちょっとは管理してよね」
「あらあら、ごめんなさいね」
天照に渡すと天照はニコッと申し訳なさそうに受け取る。その隣のヘベは、なぜか不審そうにあたしをまじまじ見ている。
「もしかして……見たのか? 白い服を着た」
「あ、そうなの! この壺もここにあるよって教えてくれたのもその人なんだ。人間だってバレてたけど」
ヘベと天照は顔を見合わせ、お互いに不安そうな表情をした。なにか言われた? とか怪しいもの食べた? とかそんな根掘り葉掘り聞いてくる。応えられないよ。だって、神さまだけど一応初対面の人物からお菓子貰って喜んで食べたんだもの。
それって今どきの子どもよりバカじゃん。怪しい人物にホイホイついていったよ。こんなのバレたら終わる。
あたしはさりげなく別に、と一言で済ませた。そのいってんばりを極めてたら、いつしか質問は終わり、帰りの道の話しをしていた。
「そういえば、あれから何時間かかったんだろ。貴重な休みが」
肩を落とし、へこむとヘベがニッコリと笑いかけてきた。
「大丈夫。高天原と人間界の時間の差は然程ない。一分も二分も経ってないさ」
「えぇ!? そうなの!?」
それ便利だな。今度忘れものしたとき天照に頼んで時間止めてくんないかな。
行きと同じ、目の前から神々しい光が現れた。そういえば、もう一つ心配だったのがあった。
「帰ったらあたしの家なんだよね?……――え」
「あ」
光がやみ、宙に浮いてたような感覚を失ったので、元の場所に戻れたんだ、そう思って目を開けてみた。
暫くぶりに目を開けてみたら、パチパチして目の前にあるソレが何かひと目で分からなかった。大きな冷蔵庫に、母が好きなチラシ、どこにでもあるテーブル、紛れもなくあたしの家のキッチン。
けど、見慣れた家に浮いてあるものがいた。冷蔵庫を隅からあさる月詠を発見。しかも、裸で。風呂あがりなのか真っ黒い髪の毛はびしょ濡れで下半身にはバスローブを巻いている。
「うっ……わあああああ!」
「いやああああ!」
あたしは反射的に上の階に向かって走った。全速力で。月詠はというと冷蔵庫の前で呆然と突っ立っている。
部屋にあがり、ガバッと頭まで毛布を被った。初めて見てしまった神さまの全裸。生まれてこのかた男の人の裸も見たことないあたしがあんな間近に凝視して。
下の階ではヘベが玄関先から急いでキッチンに走ってきた。
「玲奈、大丈夫か!?」
「大丈夫じゃない! とくにオレが!」
月詠が裸であることを見ると、これまでにない冷めた目をする。そのことに月詠は怒る。
「人間の女に見られた……あんなトロそうな女に!」
「どうせ取るに足らないだろう?」
「足るわショックで」
顔を梅干しみたいに赤くさせた月詠。その反応をまじまじと見たヘベはクスクス笑う。
§
「あんた……この休みでなにか変なもの食べた?」
東がひきつった表情で唐突に訊ねてくる。久しぶりの学校で第一声がそれ。
変なもの。思い出せない。確か、夜は焼きそば食べて腹の足しと思ってプリン食べたんだっけ。あとなにかあったかな。
「なにも? なんのこと?」
東は心底驚いているようでぽっかり口を開いている。
あたしの全身をなめ回すようにまじまじと見つめてる。一体朝から何用なの。
「なに? はっきり言って」
ムスッとした面持ちで訊ねると東は何事もなかったような表情をした。
「覚えてないなら……いいや」
「え!? 言って言って!」
しつこく接するもあんなにだらしなく開いていた口を頑なに閉じている。隣の席だというのに全くこちらを見ようともしない。
なんなの、朝から。もう、本当にいいや。あたしも全力で気にしない素振り。
けど、頭の中で不意に月詠の裸が蘇ってくる。だめだめ。いくら美形で細マッチョでも神さま、神さまなんだから。
東はこっそり隣の住人に目を配った。隣の住人は自分と同じように〝見える〟側の人間。そんな稀にいないから心を少し許している部分がある。
けど、一日置いて学校に来たらその子の雰囲気が変わっていた。というと〝気〟がね。わかりやすく言うとその人間特有の生まれながらに持った才能のオーラ。
人にはそれぞれいろんな才能のオーラを持っていて少なからず、この人優等生だ、仕事人間だ、といかにも雰囲気から見えるのがオーラなの。
そのオーラが小さい頃から感じ取れる私は少し戸惑った。玲奈のオーラが小さくなっている。いいや、今まで体から突き抜けていたオーラが萎縮し、通常の人間と同じオーラと変わっていた。
これは何かが起きたよね。体育祭の帰り道で二人組みの神とすれ違った時から何か違和感がある。
もしかたら、もうあの大きかった〝気〟は取り戻せないのかな。それは、お互い〝見える〟側に存在する私にとってちょっとした孤独感でした。
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