神様記録

ハコニワ

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第二章 前世と神と

第21話 体育祭

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 片桐東が転校してきて早、一週間。待ちに待った体育祭の日。澄み切った青空に温かな日差しが注ぐ。一ヶ月前から体育祭の準備と練習を重ねたあたしたち。
 高校生になって初の体育祭を飾る日です。
「はぁ」
 奈美がひときわ大きなため息をついた。木陰に休み、その真っ白な肌を日焼けしないように頑丈に日焼け止めを塗っている。
「どうしたの?」
 訊ねると奈美は面倒臭そうに顔をあげた。
「見てください。この炎天下。もう秋なのに気温三十二度ですよ。こんな熱い中やるなんてクソです」
 うん。確かに。まだ何も始まっていないのに外出向いただけで小汗が額に浮かぶ。こんな熱い中、汗だくになって競技やるのは運動ばかしかいない。
「さぁ! みんな張り切って行くよ!」
 美穂が声を張り上げた。
 美穂はクラスの中心格でもあり、まとめあげる天才の持ち主で、その才をみんなが高く評価したうえにこのクラスの体育祭リーダーになった。
 美穂が声を張り上げると、一斉に美穂の後を追った。まるで、アイドルを追う小汚いファンみたい。
「うわぁ。なんであんな元気なんですか」
「さぁ……」
 いたよ。目の前に運動ばかが。木陰に休んでいたあたしたちは急いでクラスのみんなの後を追う。けど、情けないことに全然距離が縮まらない。
「情けないなぁ」
 背後から声をかけてきた。振り返ると東がピッタリくっついてきてる。
「うわぁ。びっくりした。あんたこそついていけないくせに」
 いびりで言うと東はフッと笑った。勝ち誇った笑い方だ。
「開会式がまだなのにこれで本気だすバカいるわけないじゃん」
 やれやれといった感じで、手のひらを参ったというポーズを見せた。なるほどと納得してしまうあたしと奈美。
 東はやっと制服が間に合ったのか、今日からあたしたちと同じ制服へと着用している。くびれや張り詰めた乳のラインがピチピチだった目のやり場に困る服からやっと解放したかと思いきや、身の丈に合わないサイズを選んで、またピチピチに体を晒している。
「はぁ。ダルイ帰ろっかな」
 あたしがそう言うと、東は丸い瞳をぱちくりさた。
「あれ? そのへベみたいな神さまにお祈りしてないの? 体育祭ごとなくなれーみたいな」
「え、なにそのブラックな願いごと。するわけないじゃん。それにヘベは元は縁結びの神さまだからそんなのできないできない」
 東の目玉がますますとびださんと大きくなった。彼女の活発な黒い目玉にあたしが映り込んでいる。
「言ってなかったけ? 加護を受けている人間はその神さまの力と対価して力を授かるんだよ」
 冗談を言っているような彼女の顔ではなかった。
「え、それって」
 あたしは空いた口を塞げなかった。あまりにショックで東のことをどういう表情で見つめていたのだろう。
「縁結びの神だったから、周りが恋仲になったとかない?」
 占い師でもないのに、東ははっきりと言った。あたしは度肝を抜かれ、奈美の件や東が転入してきたのはその力のせいではないのかと思った。

 開会式が始まり、列に並ぶものの、気になって気になって体育祭どころではなかった。
「ねぇ、さっきのどういうこと?」
 開会式が終わり、プログラム一番二年生のリレーが早速始まった。みんな、旗を持ったりして上級生の応援をしている。
 こんな炎天下でよく熱く応援できるもんだと関心する。
「さっきって……対価の話し?」
「確かに、周りが突然、仲睦まじくなったりしたけどそれってヘベの力なの?」
 あたしは必死な血相を見て、東はクスクス笑った。なにをそんなおかしいのか全く分からないけど、さっさと応えてほしい。
「そんな心配することないよ。でも、そのヘベ様っていうのすごいね」
 彼女の丸い瞳が大きく見開いた。鏡のように綺麗な瞳の中に口をぽっかりだらしなく開いているあたしが映っている。
「半分の力がこもった櫛も与えて、なおかつ、私も存在も気づくなんて、元はすごい神さまだったんだね」
 関心した面持ちをし、一人でうんうんと赤べこのように首を頷く。
 そういえば、ここ一帯は神社とかなくなったな。昔はもうちょっと……。あ、昔もそんなになかったか。昔はヘベが守護していた泉森神社だけ。だから、ヘベはそこいらの神さまとは少し違うかも。
 地域のたった一つの神社さえも立て壊してヘベを追い出したのかな。立て壊した理由、覚えてないや。
「れっちゃん! 次は私たちのリレーだよ。行こう!」
 美穂が声をかけてきた。
 気合十分に頭にしたハチマキをキュと強く締める。あたしは嫌々美穂と一緒に列に並ぶ。第一走目は奈美、東、あたしでアンカーは美穂だ。
「ねぇ、覚えてる?」
「ん? 何?」
 もうすぐで第一走目の奈美が走る間際、訊ねてみた。
「泉森神社ってさ、なんで取り壊したんだろう? なんで?」
 ピストルが鳴った。周りにいた観客たちが一斉に応援歓声を上げている。炎天下の日差しに負けないぐらいの熱い歓声だ。誰もがコースに走っている者らに顔を向けて、あたしたちの話しなんて耳にしていないだろう。
「うぅんと、なんでだろう」
 乾いた炎のような熱さがこもった風が吹いてきた。地面にいるせいで、その熱さがひしひしと体に当たる。
 ピアノ線みたいに細い指先でなびく髪の毛をせき止める。
「奈美が一番詳しんじゃない? 最近、古事記とかそんなの読んで神さまの流れとか知ってそうだし」
 まじか。最近、放課後一緒に帰らないで図書館で閉じこもっているのはそんな怪奇的な本読んでたんだ。
 奈美が東にバトンを渡し、東が前を走っていた生徒をぐんぐん抜いていく。
 あぁ、もう出番だ。嫌々立ち上がり、コースの前に立つ。第一走で三人も抜かれてたのに、今や一位になっている。あたしの応援声がさらに強まった。やめて。プレッシャーかけないで。
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