神様記録

ハコニワ

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第二章 前世と神と

第16話 雪という男

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 あたしは聞きたかった質問を思いっきって訊ねてみた。
「前世って見えたの?」
 ぷっと吹き出し、お腹を抑えて笑われてしまった。そんなおかしなこと言ったかな。
「前世? いきなりなんですか」
 フフと楽しげに笑う奈美。あたしは怪訝になり、一歩距離を置く。腰を浮かせながら、もう一度試しに訊ねてみた。
「あの、男の子」
「あぁ、雪くん」
 他学校の先輩に〝くん〟。しかも、昨日偶然出会った人間にたいして。あたしの増す不安な空気に気づいたのか、奈美は宥めるように穏やかに言った。
「確かに。前世だったかもしれません。でも見えたのは一瞬で、夢みたいにパッと忘れちゃったんです」
 跳び箱を失敗した少女のように照れくさく笑う。
「玲奈、自分からの依頼、引き受けてくれますか?」
 突然の物言いだった。奈美の顔を思わず凝視した。依頼とは、占いについてのアレなんだろうか。なんだろう。一歩ずつ占い師の道に進んでいるような。親友からの依頼、引き受けないわけない。
「分かった」
「玲奈のお母様に占ってほしいのです。自分と男の子の前世を」
 あたしはコクリと頷いた。母はもちろん占ってくれるだろう。けど、なんだろう。このモヤモヤは。結局、救えるのはあたしの力じゃなくて母の力なんだ。由緒正しき占いの道を進んだ母とそれに反対するあたし。
 だよね。あたし、占いの力なんて持ってないもん。奈美のこと救えるのはあたしじゃない。

 疎らに教室に人が集まってきた。みな、眠い顔をシャッキとしている。静かだった教室に他愛もない会話がどこからどこでも聞こえてくる。あぁ、今日も一日が始まったな。まだ朝なのに帰りたいと思ってしまう。
 朝のホームルームの前、先生がまだ来ない頃、美穂が携帯電話を片手に持ち駆け寄ってきた。歩くたびに乳が振動してる。
「昨日の、雪くん。斗馬と同クラで同じ超距離なんだって」
 斗馬に聞いたのかな。
 実は携帯のメアドを持っていることに内心びっくりしてるあたし。そこのところを深く聞きたいけど、今はいいや。
 昨日一度見たばかりではそんな、凄い選手とは思えなかったな。どちらかというと補欠の選手。
「私もそう思った。凄い痩せてたもんね」
 美穂が言った。思わず、顔を見上げるとフフと頬の肉を上に貯め笑みを送った。まったく、天然そうな素振りして怖い子なんだから。
 いつも母が占い営業を営んでいる商店街から外れた場所に奈美を連れていくことを話した。
 すると、美穂は小難しい顔をした。顎に手を置き、考えるポーズ。なにかをひらめいたのか顎においた手をポンと叩いた。
「雪くんも連れていこう!」
「えっ!?」
 そう言った美穂の表情はうっすらと自慢にみちてある。また、あの二人を会わすきなの? それじゃ、どうすんだろ。
「賛成です」
 横から奈美が加わってきた。
「もう一度、あの人に会いたいのです」
 いつもふわふわした表情から見せぬ、凛とした表情。美穂は奈美の応えを聞き、早速斗馬にメールをしている。
 細長い指先でタッタと画面を弄っている。
 まだ朝なのに放課後の心配をしてしまう。あらぬ方向に行かなければいいけど。

§

 放課後の時間がやってきた。奈美は青い瞳をキラキラ輝かせ、あたしと共に母のもとに向かった。こうみえても、既に予約済みなのだ。毎日、人が寄っているらしく、予約は難しいのだが、一件無くなってらしい。その一件のおかげで夕方の四時半に予約している。
 美穂はというと、今日もまた欠席した子のため部活に励む。美穂も人当たりが良いから断れないんだよなぁ。
 商店街を通り抜け、斗馬に奢ってくれたあのアイスクリーム店を通り過ぎた。そういえば、ヘベのお土産、未だに渡してない。あたしのお菓子まで食べてんだよなぁ。あたしのお菓子がヘベに駆逐される。
 はやく甘いもの買って侵食を塞がないと。
 アイスクリーム店から陽気な声が。思わず、振り向くと斗馬がひらひら手を振っていた。その隣には噂の雪。
 チャラ男と並ぶと真面目雰囲気が漂って来る。
「斗馬も一緒に?」
「うん。久しぶりに顔みたいし……美穂ちゃんはいないんだね」
 お目当ては美穂だったらしい。残念。部活中です。一瞬、顔が寂しそうにしたのを見逃さなかった。でも、それは一瞬。すぐに顔を戻す。
「あっちだったよね?」
「うん」
 あたしと斗馬を先頭にして向かう。奈美と雪はちょっと離れた距離からあたしたちの跡を追っている。
 気まずそうに二人とも、顔が赤面している。なんだか、両思いになった恋人同士みたい。
 そうして辿りついた。看板には正直言って胡散臭い単語が並べてある。2階建てのビルの建物。1階はカフェ。2階が母の営む場所だ。まず、第一門のカフェ店の扉を開く。カランと鈴の音が甲高く鳴り響いた。
 疎らのお客さんたち退け、階段に向かった。トイレ近くにある。電気も点いていないので薄暗い。一歩一歩登る。

「いらっしゃい」
 そう歓迎してくれたのは母だった。
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