16 / 34
第二章 前世と神と
第16話 雪という男
しおりを挟む
あたしは聞きたかった質問を思いっきって訊ねてみた。
「前世って見えたの?」
ぷっと吹き出し、お腹を抑えて笑われてしまった。そんなおかしなこと言ったかな。
「前世? いきなりなんですか」
フフと楽しげに笑う奈美。あたしは怪訝になり、一歩距離を置く。腰を浮かせながら、もう一度試しに訊ねてみた。
「あの、男の子」
「あぁ、雪くん」
他学校の先輩に〝くん〟。しかも、昨日偶然出会った人間にたいして。あたしの増す不安な空気に気づいたのか、奈美は宥めるように穏やかに言った。
「確かに。前世だったかもしれません。でも見えたのは一瞬で、夢みたいにパッと忘れちゃったんです」
跳び箱を失敗した少女のように照れくさく笑う。
「玲奈、自分からの依頼、引き受けてくれますか?」
突然の物言いだった。奈美の顔を思わず凝視した。依頼とは、占いについてのアレなんだろうか。なんだろう。一歩ずつ占い師の道に進んでいるような。親友からの依頼、引き受けないわけない。
「分かった」
「玲奈のお母様に占ってほしいのです。自分と男の子の前世を」
あたしはコクリと頷いた。母はもちろん占ってくれるだろう。けど、なんだろう。このモヤモヤは。結局、救えるのはあたしの力じゃなくて母の力なんだ。由緒正しき占いの道を進んだ母とそれに反対するあたし。
だよね。あたし、占いの力なんて持ってないもん。奈美のこと救えるのはあたしじゃない。
疎らに教室に人が集まってきた。みな、眠い顔をシャッキとしている。静かだった教室に他愛もない会話がどこからどこでも聞こえてくる。あぁ、今日も一日が始まったな。まだ朝なのに帰りたいと思ってしまう。
朝のホームルームの前、先生がまだ来ない頃、美穂が携帯電話を片手に持ち駆け寄ってきた。歩くたびに乳が振動してる。
「昨日の、雪くん。斗馬と同クラで同じ超距離なんだって」
斗馬に聞いたのかな。
実は携帯のメアドを持っていることに内心びっくりしてるあたし。そこのところを深く聞きたいけど、今はいいや。
昨日一度見たばかりではそんな、凄い選手とは思えなかったな。どちらかというと補欠の選手。
「私もそう思った。凄い痩せてたもんね」
美穂が言った。思わず、顔を見上げるとフフと頬の肉を上に貯め笑みを送った。まったく、天然そうな素振りして怖い子なんだから。
いつも母が占い営業を営んでいる商店街から外れた場所に奈美を連れていくことを話した。
すると、美穂は小難しい顔をした。顎に手を置き、考えるポーズ。なにかをひらめいたのか顎においた手をポンと叩いた。
「雪くんも連れていこう!」
「えっ!?」
そう言った美穂の表情はうっすらと自慢にみちてある。また、あの二人を会わすきなの? それじゃ、どうすんだろ。
「賛成です」
横から奈美が加わってきた。
「もう一度、あの人に会いたいのです」
いつもふわふわした表情から見せぬ、凛とした表情。美穂は奈美の応えを聞き、早速斗馬にメールをしている。
細長い指先でタッタと画面を弄っている。
まだ朝なのに放課後の心配をしてしまう。あらぬ方向に行かなければいいけど。
§
放課後の時間がやってきた。奈美は青い瞳をキラキラ輝かせ、あたしと共に母のもとに向かった。こうみえても、既に予約済みなのだ。毎日、人が寄っているらしく、予約は難しいのだが、一件無くなってらしい。その一件のおかげで夕方の四時半に予約している。
美穂はというと、今日もまた欠席した子のため部活に励む。美穂も人当たりが良いから断れないんだよなぁ。
商店街を通り抜け、斗馬に奢ってくれたあのアイスクリーム店を通り過ぎた。そういえば、ヘベのお土産、未だに渡してない。あたしのお菓子まで食べてんだよなぁ。あたしのお菓子がヘベに駆逐される。
はやく甘いもの買って侵食を塞がないと。
アイスクリーム店から陽気な声が。思わず、振り向くと斗馬がひらひら手を振っていた。その隣には噂の雪。
チャラ男と並ぶと真面目雰囲気が漂って来る。
「斗馬も一緒に?」
「うん。久しぶりに顔みたいし……美穂ちゃんはいないんだね」
お目当ては美穂だったらしい。残念。部活中です。一瞬、顔が寂しそうにしたのを見逃さなかった。でも、それは一瞬。すぐに顔を戻す。
「あっちだったよね?」
「うん」
あたしと斗馬を先頭にして向かう。奈美と雪はちょっと離れた距離からあたしたちの跡を追っている。
気まずそうに二人とも、顔が赤面している。なんだか、両思いになった恋人同士みたい。
そうして辿りついた。看板には正直言って胡散臭い単語が並べてある。2階建てのビルの建物。1階はカフェ。2階が母の営む場所だ。まず、第一門のカフェ店の扉を開く。カランと鈴の音が甲高く鳴り響いた。
疎らのお客さんたち退け、階段に向かった。トイレ近くにある。電気も点いていないので薄暗い。一歩一歩登る。
「いらっしゃい」
そう歓迎してくれたのは母だった。
「前世って見えたの?」
ぷっと吹き出し、お腹を抑えて笑われてしまった。そんなおかしなこと言ったかな。
「前世? いきなりなんですか」
フフと楽しげに笑う奈美。あたしは怪訝になり、一歩距離を置く。腰を浮かせながら、もう一度試しに訊ねてみた。
「あの、男の子」
「あぁ、雪くん」
他学校の先輩に〝くん〟。しかも、昨日偶然出会った人間にたいして。あたしの増す不安な空気に気づいたのか、奈美は宥めるように穏やかに言った。
「確かに。前世だったかもしれません。でも見えたのは一瞬で、夢みたいにパッと忘れちゃったんです」
跳び箱を失敗した少女のように照れくさく笑う。
「玲奈、自分からの依頼、引き受けてくれますか?」
突然の物言いだった。奈美の顔を思わず凝視した。依頼とは、占いについてのアレなんだろうか。なんだろう。一歩ずつ占い師の道に進んでいるような。親友からの依頼、引き受けないわけない。
「分かった」
「玲奈のお母様に占ってほしいのです。自分と男の子の前世を」
あたしはコクリと頷いた。母はもちろん占ってくれるだろう。けど、なんだろう。このモヤモヤは。結局、救えるのはあたしの力じゃなくて母の力なんだ。由緒正しき占いの道を進んだ母とそれに反対するあたし。
だよね。あたし、占いの力なんて持ってないもん。奈美のこと救えるのはあたしじゃない。
疎らに教室に人が集まってきた。みな、眠い顔をシャッキとしている。静かだった教室に他愛もない会話がどこからどこでも聞こえてくる。あぁ、今日も一日が始まったな。まだ朝なのに帰りたいと思ってしまう。
朝のホームルームの前、先生がまだ来ない頃、美穂が携帯電話を片手に持ち駆け寄ってきた。歩くたびに乳が振動してる。
「昨日の、雪くん。斗馬と同クラで同じ超距離なんだって」
斗馬に聞いたのかな。
実は携帯のメアドを持っていることに内心びっくりしてるあたし。そこのところを深く聞きたいけど、今はいいや。
昨日一度見たばかりではそんな、凄い選手とは思えなかったな。どちらかというと補欠の選手。
「私もそう思った。凄い痩せてたもんね」
美穂が言った。思わず、顔を見上げるとフフと頬の肉を上に貯め笑みを送った。まったく、天然そうな素振りして怖い子なんだから。
いつも母が占い営業を営んでいる商店街から外れた場所に奈美を連れていくことを話した。
すると、美穂は小難しい顔をした。顎に手を置き、考えるポーズ。なにかをひらめいたのか顎においた手をポンと叩いた。
「雪くんも連れていこう!」
「えっ!?」
そう言った美穂の表情はうっすらと自慢にみちてある。また、あの二人を会わすきなの? それじゃ、どうすんだろ。
「賛成です」
横から奈美が加わってきた。
「もう一度、あの人に会いたいのです」
いつもふわふわした表情から見せぬ、凛とした表情。美穂は奈美の応えを聞き、早速斗馬にメールをしている。
細長い指先でタッタと画面を弄っている。
まだ朝なのに放課後の心配をしてしまう。あらぬ方向に行かなければいいけど。
§
放課後の時間がやってきた。奈美は青い瞳をキラキラ輝かせ、あたしと共に母のもとに向かった。こうみえても、既に予約済みなのだ。毎日、人が寄っているらしく、予約は難しいのだが、一件無くなってらしい。その一件のおかげで夕方の四時半に予約している。
美穂はというと、今日もまた欠席した子のため部活に励む。美穂も人当たりが良いから断れないんだよなぁ。
商店街を通り抜け、斗馬に奢ってくれたあのアイスクリーム店を通り過ぎた。そういえば、ヘベのお土産、未だに渡してない。あたしのお菓子まで食べてんだよなぁ。あたしのお菓子がヘベに駆逐される。
はやく甘いもの買って侵食を塞がないと。
アイスクリーム店から陽気な声が。思わず、振り向くと斗馬がひらひら手を振っていた。その隣には噂の雪。
チャラ男と並ぶと真面目雰囲気が漂って来る。
「斗馬も一緒に?」
「うん。久しぶりに顔みたいし……美穂ちゃんはいないんだね」
お目当ては美穂だったらしい。残念。部活中です。一瞬、顔が寂しそうにしたのを見逃さなかった。でも、それは一瞬。すぐに顔を戻す。
「あっちだったよね?」
「うん」
あたしと斗馬を先頭にして向かう。奈美と雪はちょっと離れた距離からあたしたちの跡を追っている。
気まずそうに二人とも、顔が赤面している。なんだか、両思いになった恋人同士みたい。
そうして辿りついた。看板には正直言って胡散臭い単語が並べてある。2階建てのビルの建物。1階はカフェ。2階が母の営む場所だ。まず、第一門のカフェ店の扉を開く。カランと鈴の音が甲高く鳴り響いた。
疎らのお客さんたち退け、階段に向かった。トイレ近くにある。電気も点いていないので薄暗い。一歩一歩登る。
「いらっしゃい」
そう歓迎してくれたのは母だった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
【完結】おれたちはサクラ色の青春
藤香いつき
青春
国内一のエリート高校、桜統学園。その中でもトップクラスと呼ばれる『Bクラス』に、この春から転入した『ヒナ』。見た目も心も高2男子?
『おれは、この学園で青春する!』
新しい環境に飛び込んだヒナを待ち受けていたのは、天才教師と問題だらけのクラスメイトたち。
騒いだり、涙したり。それぞれの弱さや小さな秘密も抱えて。
桜統学園で繰り広げられる、青い高校生たちのお話。
《青春ボカロカップ参加》🌸
各チャプタータイトルはボカロ(※)曲をオマージュしております。
ボカロワードも詰め込みつつ、のちにバンドやアカペラなど、音楽のある作品にしていきます。
青い彼らと一緒に、青春をうたっていただけたら幸いです。
※『VOCALOID』および『ボカロ』はヤマハ株式会社の登録商標ですが、本作では「合成音声を用いた楽曲群」との広義で遣わせていただきます。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
さようなら思い出
夏瀬檸檬
青春
中学2年生の松風 百合。
彼女の幼馴染加奈は幼い頃から入退院を繰り返し病気と闘っている。
中学生になって加奈は長期入院となり、一年生から今まで一度も学校へ登校したことがない。
加奈がクラスの一員ではあるものの、教室にはいないことが当たり前になっているクラスメイト。別の学校から来た子達は加奈の存在すらわからないというだろう。
加奈は、お見舞いの来ない病室で一人で戦っていることに気づいた百合は…???
同い年のはずなのに、扱いがおかしい!
葵井しいな
青春
柊木葵は低身長・童顔・ソプラノボイスの三拍子が揃った男子高校生。
そのことがコンプレックスで、同時に男らしさや大人っぽさに憧れを持つようになっていた。
けれどそのたびに幼馴染みの女の子に甘やかされたり、同級生にもからかわれたりで上手くいかない毎日。
果たして葵は、日々を過ごす中で自分を変えることが出来るのか?
※主人公は基本的にヒロインポジションですが、たま~に身の丈に合わないことをします。
バンキシャ部!
マムシ
青春
由緒ある生徒会長のパンツを全校に晒すという大事件が起こった。
いつもボッチ飯の最底辺たちによって築き上げられたアニメ部。だがその憩いの場が生徒会によって没収されてしまう。
復讐を誓う三人。部室奪還のために動き出す作戦。そしてこの学校の闇を、リア充を、全てを白日の下にさらし、スクリールカーストの下剋上を狙うためバンキシャ部の設立を宣言する。
元アニメ三人組はどのような復讐劇をするのだろうか
疾走感全開の青春ギャグ小説。ここに爆誕!
クソ一軍生徒め、覚えていやがれ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる