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Ⅲ 奪取の魔女 

第43話 一緒に

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 つくった屋台の上に、どうやって高さを詰むのかを、三人で考えた。いわば、三人寄れば文殊の知恵。

 暫く頭をひねり、お互いの意見を言いながら考えを導かせた。三人寄れば文殊の知恵、ということわざはあながち間違っていない。
 すぐにひらめきだした。

 まず、角材をさっきのように切る。これは、ナノカがやってくれた。ナノカはわたしよりも器用にノコギリを使っていく。
 看板を描いているナズナ先輩たちが騒がしくやっているので、途中からスズカ先輩が叱りに行った。

 それを見計らってか、ナノカがマドカ先輩の話を持ち掛けてきた。
『マドカ先輩、昨日目が覚めたんだって? 良かったぁ~』
 ほんとにどこから漏れてくるのか、その情報は間違っていない。本当だ。マドカ先輩は昨日目が覚めた。あの戦いから三日が過ぎた日。

 マドカ先輩は昨日起きて、徐々に回復していってる。回復能力がはやい。
 けど、やはり床から離れられなくて。
 それが、良かったと言えるものなのか。
 ナノカは知らない。ずっと床にふせ、苦しみ続けるマドカ先輩の姿を、どれだけ悲惨な光景か、見たことないだろう。
『でも、悔しいね。最後まで生徒会長じゃなくなって』
「そうだね……」
 その台詞は、一番スズカ先輩が思っているはずだ。あの人は、まだ自分が生徒会長だってこと、分かっているようで分かっていない。今でも生徒会長がマドカ先輩だと思っているから。

 ナノカは淡々と切りとっていく。器用すぎる。ほんと羨ましい。でも怪我だけはしないでね。 
『そういえば、祭り誘ったの?』
 ナノカが突然訊いてくる。わたしは首をかしげた。
「誰を?」
『リュウだよ。あたしと回る約束してたけど、あたし別にユナと二人っきりとか言ってないからね?』
 顔に火の手があがった。真っ赤になっていくのが分かる。
「ど、どどどどうしてわたしがリュウを誘うの!?」
 ナノカはわたしの反応を見て、悪戯っ子に笑った。目を細めて楽しい表情。
「だって、聞いたよ? リュウと保健室で何やらいい関係だったて」
「ほんとに何処から漏れてんのその情報は!」
 わたしは必死になった。なる分、ナノカはにやにや悪戯っ子に微笑んでいる。
「そんな、いい関係とかじゃ……それに今はいいかな」
 祭りの日になると、わたしは生徒会なので回れない。付き添ってくれるのは毎年ダイキだ。リュウは寮にこもって寝ている。人込みが嫌いだと。

 昔は付き添ってくれてたのにな。スバルが亡くなって、パタリと祭りに来なくなった。大きな金魚をとってくれたり、射撃で景品をとってくれたあの思い出は、スバルがいた昔の昔の記憶。
 わたしはめげずに誘ってみた。けどリュウはその誘いを頑なに受け取らなかった。誘っても来ないだろうな、て等の昔から諦めている。いまさら。
『どうして』
 ナノカがムッとした。
「わたしの話聞いてた? リュウは人込みが嫌いだから来ないの!」
 二度も言うと、何故かわたしの心がチクリと痛んだ。リュウに何度も何度も誘ってみても、リュウは応えてくれなかった。振り向いてくれなかった。そのときの痛みが、今になってまた心に刺さる。
『あたしから言ってみるよ』
「ナノカやめて」
 そんなの嬉しくない。
 ナノカはしぶしぶ諦めてくれたけど、ナノカの行動は時々狂気じみてるから。分からない。
『それじゃあ、ダイキだけ?』
「ダイキは、どうだろう」
 ダイキも毎年毎年一緒に付き添ってくれる。シノがいるからだと思う。でもシノも人込みが嫌いで、仕事が終わったらすぐに寮に帰る。ダイキは最後まで、わたしと付き添ってくれるけど。

 わたしが不安になって言うと、ナノカは「まぁ、ユナの浴衣姿毎年見にくる男だからね。来るでしょ」とさらりと言った。

 叱りに行ってたスズカ先輩が帰ってきた。それと同時に、ナノカは角材を切り終えた。切り終えたばかりの角材を組み立てる。

 さっきの組み立てとちょっと違う。違う所は一つ。真ん中のくぼみがない。いわば、四角の形。箱の形だ。それを前組み立て部分の上に設置する。

 組み立てて立てた、わたしたちの屋台を下から眺めた。通常の屋台より高くて、看板が派手派手。射撃なので、やたらハートマークが描かれている。
「まぁ悪くないですわ」
 とスズカ先輩は納得。 
 少し不機嫌な表情したけれど。考えるのを放棄して納得。わたしも考えるのを放棄した。もうこのままで行こう。

 あとは、景品台だ。景品台は揃えてきた板よりも分厚いのを選ばないといけない。わたしたちは角材を集めていたので、分厚い板はない。また他所から集めないといけない。
「そういえば、例年に射撃とかなかったですっけ?」
 わたしは怪訝に訊ねると、ナズナ先輩たちがぽんと手のひらを叩いた。
「あったあった! あった……ありましてよ。確か、わたくしたちが小さい頃ですので、板はだいぶ腐っていると思いますが」
 わたしもなんとなく覚えてる。

 まだココアとスバルが生きていた頃の話だ。四人で祭りを回って、生徒会での出し物にも参加した。そのとき、リュウが長い銃を持って、構えていた。それで何かを取って、わたしに……ほんとに断片的な記憶でしかない。

 記憶とは曖昧なもので、あの二人がいたのかさえも、分からない。
 リュウがあのとき、わたしにくれたものさえも。

 スズカ先輩が海より深いため息をこぼした。ギロリとナズナ先輩を睨みつける。
「どうしてそれを早く言わなかったのですわ! それを思い出していれば、玩具の銃や看板も、古いのを使っていれば生徒会の予算はだいぶ減っていたのですことよ!」
 またもやスズカ先輩の叩きつけるような一喝に合い、ナズナ先輩はしょんぼり。それをいうなら、スズカ先輩だって、というのを誰も口にしない。怖いから。

 でも、それが本当だとしたら過去の先輩たちがつくってきた景品台があるはず。もう一度学校に戻ることに。

 スズカ先輩たちが学校に。わたしたちはここに残り、屋台が壊されないか見張っておく。ここら学校への道のりは、だいぶ長い。

 ここは、街の中央。商店街を抜け、広場があり、その右側にいくと神社にいる。ここから学校への距離は、せいぜい三㌔。
 学校に戻り、それを探しあて、もう一度ここに戻ってくるにはせいぜい一時間かかる。足が速い人でもそれなりに時間がかかる距離だ。

 その間、わたしたちはお喋りだ。
「そういえば、シノ、お祭り行くって言ったけ?」
 思い返すと、言ってなかったような。戸惑っていたふうに見えて、シノの返事ちゃんと聞いてない。ナノカは怪訝に眉をひそめた。
『ちょっとちょっと~、もうすでに針千本飲まされたいようだな』
「針千本は勘弁」
 帰ったら、ちゃんと聞いておかないと。行かないという、返事以外は受け取らない。強引な強制。 

「彼氏さんとうまくいってないの?」
 それが地雷だと知らずに、通普にその地雷を踏んでしまった。ナノカは暫く黙り込んだ。落ち込んでいるように、肩を落とし、うつむく。その反応を見て、トントンと理解してしまった。
「ごめ、ごめんね! 聞いちゃまずかったよね!! ごめんね!」
 慌てて謝ると、ナノカはポツリと何かを言ったような気がする。わたしへの罵りだろうか。
『最近、上手くいってないの。五年付き合ってたんだけど、すれ違いがあって』
「五年も付き合ってて、すれ違いがあるの!?」
『あるんだよ。彼氏彼女だからといって、同じ考え方とかじゃないし、ましてや、彼氏はあたしの体目当てだったんだよね』
「それ、別れたほうが良くない?」
『でも、えっちのとき良いんだよ。体の相性過去最高なんだ』
 分からない。ナノカの考え方も理屈も何もかも分からない。わたしだったら、速攻で別れてたよ。

 ナノカの拗れた恋愛話聞いて、わたしは呆れた。やっぱり、わたしは付き合うんだったら、ちゃんとしっかりしてて優しくて、頼れる男の人がいいなぁ。

 ぽわんと無意識にリュウの顔が出てきた。
「どうして、こんなときにあいつが!?」
  わたしは頭を降った。
 ぽわんとぽわんと浮き出るあいつの顔を振り払う。どうしてこんなときに出てきたのか、もう。

 突然の行動に、隣にいたナノカはびっくり。
『何何!? どうしたの!?』
「何でも……」
 頭の振りすぎで、少しめまいがする。
 視界がグルングルン回っている。まるでジェットコースターに乗ったあとの回り方だ。

 まだ先輩たちは帰ってこない。そりゃ当たり前だ。まだ10分程度しか経っていないのだから。ナノカが次に話題を出してきた。

 浴衣の話だ。
 そういえば、生徒会での準備とマドカ先輩のことがあって、頭のすみに置いていなかった。すっかり忘れてた。
「そういえば、浴衣、あったけ?」
 前に着たのは、中学のときだ。
 以来、着ていない。高校入って勉強が忙しくなり、続いて二年になると、生徒会に選ばれて、もう着なくなった。

 というか、生徒会での屋台もあるから浴衣なんて着ていられない。
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