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八章 侵略者と再会

第80話 お花見

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 再び集った宇宙人とガーディアン機関。一触即発の空気。顔面を叩かれた俺は右目が殆ど視界がぼやけている。どんだけの力だ。
「どうして、はこちらも聞きたい。宇宙人よ」
 土岐が前に出て、真剣な面持ちで睨みつけた。
「ふん。そんなのお花見に決まっているでしょう」
 嘲笑うかのようにダスクが言った。肌がピリつく空気だ。穏やかだった風が急に冷たくなった。桜の花びらがざぁ、と降ってくる。
 土岐は睨みつけ、くるりと背を向けた。
「他を当たる。宇宙人共と仲良くするわけない」
「困ったなぁ。ここしかないのに」
 白夜が頭の後ろをかいた。土岐がそう決断すれば、誰も否定する者はいない。ガーディアン機関たちが退く。ピリついていた空気がやっと解放されるかと思いきや、待ったをかけた人間が現れた。
「なぜ逃げる? 共に戦ったのであろう? それに、長も存在を認めた。逃げても無駄ではないか?」 
 同じガーディアン三大柱の千斗。
 陽気で大口開けて笑う第一印象だったけど、割と真剣な面持ちもできるんだな。千斗に言われ、土岐は足を止めてぎろりと睨んだ。またも一触即発の空気。
 殺気のような空気が流れた。今にでも殺し合いが起こりそう。風がピタリとやみ、ピンクの花びらが降ってこなくなった。

 ゴクリ、と唾を飲み込んだ。どうなるのかを見守る。コスモが駆け寄ってきて、地面にヘタリこんでいる俺に手を伸ばした。
 すると、この空気を察して白夜が手のひらを叩いた。
「はいはい。みんなが怖がっているからそのへんにしてください。和希の言い分も分かるよ。でもここはみんなを連れて楽しむために来たんだよ。ここは抑えて」
 白夜は土岐の肩をぽんと抑えた。土岐は周囲を見渡すと顔をうつむいた。千斗は真剣な面持ちからいつもの、陽気な表情になりいつものように大口開けて「あはは」と笑った。


 俺たちの場所と同じ場所に、ガーディアン機関も花見することに。一触即発の空気は変わらないまま。みんな、お弁当だけを食べて黙っている。まるで、葬式ムード。
「どうしたのかね?」
 金城先輩が耐えかねて訊いてきた。
「隣にガーディアン機関がいるの」
 ダスクが教えると金城先輩は、切れ長の目を大きくさせた。
「ほう。そうか、それじゃあ挨拶に」
 缶ビールを持って腰を持ち上げる。それを寸前で食い止める。この人だけはこの状況でもブレないな。
「なんか、一気に冷めてきたて感じ」
 スターがはぁとため息ついた。それはガーディアン機関も同じ台詞だ。すると、隣にいたコスモが袖を引っ張ってきた。
「楽しまないの?」
「コスモはあれと仲良くしたいのか?」
 コスモは俺の目をじっと見た。無垢で純粋な目がとても、直視できない。
「お花見は、笑って楽しむ場所だって言った。だったら、楽しまないと」
「コスモ……」  
 あぁ、そうだったな。
 それを言った本人がそれを忘れていては、示しがつけない。楽しむためにきたのに、コスモの笑顔、あんまり見ていない。
「悪かったな」
 ぽんと頭を撫でた。
 コスモは最初びっくりしてたけど、次第に気持ちよさそうに目をつぶった。宇宙人が行っては火種になるので、ここは俺が行くしかない。 
「ガーディアン機関の人たちも、こっちで一緒に食べませんか?」
 鋭く睨まれた。すごく勇気を持って言っただけに、この反応はつらい。
「そっちはもうお弁当ないんじゃないの?」
 白夜がこちらをうかがった。
「こっちは色々用意してくれる人たちがいるので、余っているところです。一緒に、食べませんか?」
 恐る恐る訊いてみた。
 心臓がさっきからドクンドクン言ってる。緊張で圧迫されそう。喉がカラカラだ。ガーディアン機関たちは、じっとこちらを見ている。白夜は、ふっと微笑してくれた。
「ありがとう。勇気をかけて言ってくれたんだね。お言葉に甘えちゃおうか」
 白夜の提案に反対意見が続出。特に土岐は殺すかのように睨んでくる。俺がまた喧嘩のスイッチ押した感じ。
「少年の勇気を褒め称えないと。それに、花見する前に長も言ってたでしょう。決して喧嘩はするな、て」
 長の単語を聞いて、みんな、押し黙ることしかできない。白夜の提案に乗る。青いシートをくっつけ、それぞれ持ってきたお弁当を食べる。
 金城先輩が話題を広げてくれるおかげで、三大柱の人たちは盛り上がっている。麦酒の効果もあるようだけど。
 席も同じで気まずいのは、コメットさんとの目線。目が合うと殺すぞ、と睨まれる。おっかねえ。殴られた頬がまだ痛む。俺の顔の原型大丈夫か。
 そういや女子だけど、あんなクネクネ曲がる剣を持っているんだ。そりゃ鍛えてるわな、それに殴られた俺の頬は、息していない。

 宇宙人共は隅っこに固まっている。楽しみたいて言った本人は、影で隠れている。委員長はゴミや空き缶をゴミ箱に捨てに行ったから、隠れる壁はない。
 当然俺の後ろに隠れるべきだが、俺の隣は金城先輩であって、三大柱も共にいるから、迂闊に近づいてこない。

 固まって身動き取れないコスモたちに、一歩近づいたのは千枝ちゃん。
「これ」
 差し出したのは、自分で作ってきたお弁当。コスモは目を輝かせ、差し出したものを遠慮なく受け取る。
「こら、コスモ!」
「スターにはやらないよ」
「当たり前だわ。というか、あんたの腹どうなってんの? どっかの異次元でも繋がってんの?」
「いじけん、て何?」
 コスモは千枝ちゃんのお弁当をパクパク食っていく。美味しそうに食べてる様子を見て、千枝ちゃんは静かに去っていく。ダスクがそれを食い止めた。
「仲良くしようて思ってる?」
 棘のある言い方。千枝ちゃんはくるりと振り向いて表情変えずにこう言った。
「姉なら、北山刹那なら、こうすると思って」
 千枝ちゃんはそれだけ言って、また自分の場所に戻った。コスモは千枝ちゃんのお弁当を残さずに食べて満足。   

 ガーディアン機関たちも入ってきて、一触即発の空気がガラリと変わった。特に何もすることなく、ただ桜を見上げてお弁当を食すのみ。ただ、それだけなのに笑い声が飛び交っていた。

 穏やかな風が吹いた。桜の花びらがざぁ、と音をだしてチラチラと降ってくる。青いシートに花びらがたくさん落ちている。今日は快晴でお花見日和で昼になると、少し気温があがって日向ぼっこができる気温だ。温い。このまま、眠りそう。

「楽しい?」
 コスモが顔を覗いてきた。
「楽しい、というか安堵感がでけぇ」
 コスモは首を傾げた。
「楽しくない?」
「楽しい楽しい」
 俺がこう答えると、コスモはぱぁと笑った。満足げだな。桜吹雪が吹いて、髪の毛がなびく。最初肌寒かったから厚着をしていた。日向ぼっこができる気温になると、暑くなる。
 ゴミを捨てに行ってた委員長が帰ってきた。
「さて、と。わたしたちはもうこれでお開きにしようかな」
「あ、委員長勉強会だっけ?」
「うんそうなの」 
 委員長は今忙しい。なんせ、叶えたい夢を叶えるために大学に行くのだから。いきなり呼び出して、お弁当もわざわざ作ってきて、大変だったろうな。そんでもって、迷惑してないだろうか。
「今日久しぶりにみんなと、笑った気がする。楽しかった。また呼んでね」
 今日一番の笑顔を振りまいた。
 委員長が帰るとスターも自ずと帰っていく。
「じゃあね、くれぐれも餌付けされないように」
「もうそれは遅い」
 コスモはもうとっくに餌付けされている。いろんな所に行っては自分から強請るからだ。スターと委員長が帰っていき、こちらもお開きの話が出た。でもまだ、麦酒を飲んでいる大人たちは残ると。
「ダスクは金城先輩と帰らないのか?」
「誰があんな酔っぱらいと帰るの。面倒事はごめんよ」
 ダスクは飲んでいた紙コップをくしゃくしゃにしてゴミ箱に投げた。麦酒を飲んでいた大人たちは残ることになると、千枝ちゃんたちが大変だ。千枝ちゃんたちは黙々とお弁当だけを食べていた。
「お構いなく。早く視界から消えて」
 コメットさんが言った。
 根に持っている。そりゃ確かに揉んだけど、あれは不意打ちだった。なんて言っても男としてらしくないな。

  俺とコスモとダスクはお開きにした。後ろに酔っている大人たちの介抱を、控えているエスピーに頼むことに。ガーディアン機関とこうして一緒の席になるのは、初めてだ。ベスリジアのときとは、打って変わって空気が違う。
 地球の空気で、桜吹雪が舞うこの季節、一緒の席になってお弁当を食べた。これは、一度もないことだろう。
「それ、洗って返さないとな」 
 千枝ちゃんのお弁当箱を持っていたコスモに言う。コスモはうん、と一言返事。

 茜色に染まった町並みを歩いていく。満開だった桜がやがて散っていき、地面にピンクの絨毯が出来上がっていく。
 太陽により、桜並木の影が大きく伸びている。鮮やかなピンクの景色が赤に染まっている。そういえば、腹踊りしなくて良かった。お腹にはオッサンが住んでいて、未だに出番はまだかと息をしている。
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