うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

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七章 侵略者と玉座 

第73話 国民総選挙

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 応接間には、王族たちが集まっていた。この星の王族たちは多い。サターン様の先代のときから、兄弟姉妹が数えただけで八十人を超える。応接間だけじゃ人数分の椅子が入れなく、隣の部屋の壁を壊してまで使っている。

 椅子には王族たちが座り、その後ろには付き人や護衛の人たちが見守っている。王族たちは既に集まり、サターン様について話し合っていた。

『自分の命を使ったらしい』『残った我々のことを考えずに全く』『王位につけたのは先代の娘だったからだ。全くわたしは先代のころからよく思わなかったよ』『先代より短いな。もっと長く続くと思っていた』などと。逝去した理由を悪く言う者まで言う。あれやこれや、聞こえてくるのは悪口に似ている。ギャラクシーは聞いているだけで頭が痛くなる。

 腹の中にふつふつと沸いてくる感情を抑えて抑えて、平静を装う。すると、コンコンと外からノックの音が。静かに開いてみると、エンドを連れたコスモたちが。

 スターがドヤ顔で「連れた来たわよ」と笑う。それを見てギャラクシーは緊張していた糸が解けた。コスモがエンドの背中を叩いた。エンドは恐る恐る中に入る。

 室内は王族がいるせいで、シャンデリアがキラキラ輝いている。白い壁がより白く、茶色の机が光沢に光っている。赤い絨毯を目にすると目がチカチカする。明るい場所に恐る恐る足を踏み入れる。
「お久しぶりでございます。エンド様」
 ギャラクシーがニコリと笑った。
 エンドは急に話しかけられてびくりとする。
「あ、お、お久しぶりで、す」
 エンドは視線を足元に向けておどおどしていても、ギャラクシーは顔色を変えない。ニコリとした表情で招いてる。エンドが中に入ると閉めようとしてくる。ダスクが足を引っ掛けて閉まる戸を抑えた。ギャラクシーが足元を見て、じろりとダスクを睨む。
「ここまでやったんだし、あたしたちも知る権利があるんじゃない?」
 ダスクは怪しげに笑った。ギャラクシーはじと、とダスクの顔を見て無感情。普段から何を考えているのか分からないから、特に分からない。
「……そうですね。ご覧になりますか? あなた達が想像するものより、遥かに小汚い争いですが」
 ギャラクシーは閉めかけていた戸を開けた。ダスクは「どうも」とにこりと笑った。目は笑っていない。愛想笑いだ。


 ダスクが通ると、スターとコスモも入る。ギャラクシーは通っていった三人を見て「やれやれ」と呆れる。

 コスモたちは護衛の人たちと同じように後ろに控えた。エンドが中に入ってきた途端、しん、と静まり返った。噂話をしていた連中が固まって凝視している。多くの視線がエンドに集まる。

 エンドはガタガタと震えていた。恐れていたものが集まっているからだ。
「やっ、やっぱり、無理だ……怖い、みんなして僕をそんな目で……」
「エンド様」
 ギャラクシーが背後から肩を抑えつけて、耳元に話しかけた。エンドはびっくりする。距離が近いせいで振り向けない。
「大丈夫です。何も怖いものはありません。わたくしもついております。ここにいる者は全部芋だと思ってください」
「は、はい」
 エンドは黙って従うのみ。肩に置いていた手が離れ、エンドは恐る恐る椅子に腰掛けた。その後ろにはコスモたちがついている。


 ざわざわと小さな波紋が立っている。先代の病弱の息子が顔を出してきた、と。先代の葬式にも顔を出さなかった男が、今にして顔を出して自分が王位につくつもりか、と。


 小さな騒ぎが起きていることに、コスモとスターは眉間にシワを寄せた。
「何? そんなに珍しいわけ?」
 スターが怪訝に聞いてくる。もちろん小声で。
「そりゃあね。先代の葬式にも顔を出さないし、サターン様が王位についた降臨祭のときも顔を出さなかったのよ。そりゃ珍しいでしょ」
 ダスクが冷たく言った。スターがふぅん、と興ざめた返事を返す。


 小さな波紋を静寂にさせたのは、ギャラクシー。
「皆様、大変お集まりいただきありがとうございます。わたくしたちの女王、サターン様が突然の逝去をなさい、星中が混乱に満ちております。これから、王位を決めなければなりません」
 ギャラクシーが一礼しながら、悲しみの表情で叫んだ。顔を上げると、王族たちはギラギラと目の奥が光っていた。自分こそ王位につける人間だ、と燃えている。会場も心なしか燃えるように暑い。
 強欲、傲慢の表情が満ちていた。
 誰も国民のことを考えていない。自分の立場のことしか考えていない。

 ギャラクシーは会場内を軽く見渡して、ぱっと視線を逸した。ギャラクシーがいなくなっても、王族たちが話を自ら進めてくれる。もちろん、自分だという主張ばかり。
「みんな主張するね」
「先代の頃から、サターン様の家系が王位についているからね。王族は王族であっても、王位についているほうが華がある、て考える人が多い」
「ギャラクシーが言ってた、小汚いてこれのこと?」
 コスモが指をさした。両隣にいたスターとダスクがその腕を下にそらす。小汚いというのは、自分の主張しかしない王族たちのこと。みんな、国民のことを考えていない。だから、ギャラクシーはエンドを手っ取り早く王位につこうとしている。 

 しかし、主張するばかりじゃ拉致があかないのは自分たちも知っている。やがて国民総選挙の話が持ち上がった。国民が王を決める総選挙。

 国民総選挙は初めてじゃない。先代が突然逝去した場合、よく行われる。サターン様は既に後継として注目が集まり国民総選挙を行わずに、すぐに玉座についた。この行事が行うのは約五十年ぶり。エンドは暗い表情をした。国民総選挙となれば、不利になるからだ。
「詰んだ」
 コスモが指摘した。
「まだだから! 挽回チャンスある」
 スターが声を上げた。
 が、国民総選挙になると弱いことは事実。国民総選挙が行うのは、三回までで明日、明後日、四日後で行われる。

 この短期間でエンドが玉座につくには難しい。コスモの言うとおり「詰んだ」。これにて会場は解散。王族たちは国民総選挙のために動く。こちらも動かなければ。

 エンドは倒れるように机にうつ伏せになった。会場にはもう誰もいない。全身に脂汗が浮かんでいて、ずっと緊張していた。その緊張が解れている。
「お疲れ様でした」
 ギャラクシーが側による。
「どうするの?」
 ダスクが真剣な表情で問いた。
「う~ん、なんとかやらないと。今さっき見たけどわたしも、あんたが玉座に座ったほうがいいかも」
 スターが胸の下に腕を組んだ。
 エンドを「あんた」呼ばわりしていることにギャラクシーに睨まれ叱られる。


 他の者を玉座に座らせないため、コスモたちは明日開かれる国民総選挙のために動く。具体的にいえば、エンドの顔を情報番組、告知に晒す。
「え、えぇ!? む、無理だよ。テレビに出るてこと? こ、この汚い顔を晒せって!? あ、あんまりだよ」
 泣言をペラペラ口にするエンドに、ダスクは睨んだ。エンドはひ、と小さな悲鳴を漏れる。
「汚くない」
 コスモがじと、と顔を見て口にした。
 それでもエンドはやりたくない表情。
 スターを叱っていたギャラクシーがやってきて、ぽんと背中をさする。
「大丈夫です。さっきもおっしゃった通り、エンド様を見る輩は芋だと思えばいいのです。ご自分のレッテルを低く下げないでください」
 ギャラクシーがにこりと笑った。
 エンドはギャラクシーの笑顔をみて、背筋が凍る。白い肌がさらに白くなった。

 エンドはやむを得ずダスクの提案通り、テレビ出演することに。国民総選挙になると誰もがやる手法らしい。番組がすでに決まっていて、席も簡単に入れた。
 特報番組で、出演者は全員王族という異例。控え室ではエンドが、ミジンコのように小さくなっていた。
「あぁ、駄目だ……僕が人前に顔を曝すなんて、怖くてできない」
「ここまで来て勇気見せなさい!」
 スターが喝を入れるも、エンドは体育座りをしてさらに小さくなる。コスモがぽんとエンドの背中を叩いた。
「大丈夫。人前に出るのが恥ずかしいのは最初だけ。手のひらに「人」て書いてそれを飲み込めば怖くないらしい。私は飲み込まなかったけど」
 後半は聞こえなかったが、コスモの言うとおり、手のひらに「人」という漢字をかいてそれを口の中に持っていった。

 飲み込んだエンドは目を見開いた。
「なんだか、大丈夫な気がしてきた! ありがとうコスモさん!」
 ぱぁと無邪気な笑顔をコスモに向けた。
 それを遠くから見ていたスターとダスクが顔を引き攣らせた。「騙されやすい性格だ」と同じことを思う。
 人を食べたエンドは、すっと立ち上がり舞台に向かう。まぁ本人に士気が高くなればいいか、と内心安堵する。

 他の王族の隣に座り、いざ本番が始まった。途端、顔色が青くなり携帯バイブのように震え出した。
「地震だ」
「違う! あれは武者震いよ!」
「震えすぎて画面に映っていない!」
 コスモたちは慌てて、カンペを取り出した。

『一人じゃない! あたしたちがついている!』

 とね。エンドはそのカンペを見て、表情が変わる。
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