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五章 侵略者と戦争 

第64話 待っていた場所へ

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 べスリジアの本当の支配者、ヴァルアニ。
「ここまで来たとは、歓迎に値する」
 その声は、大きな風によって掻き消される。それまで静かに吹いていた風がブワと大きくなり、宇宙船ごと吹き飛ばす勢い。
 天井にいたスターとコメットが飛ばされる。その場にいたコスモがその腕を掴んで地面に落とされずに済んだ。

 ゲートに入っていた宇宙船が飛ばされ、赤い大地に戻された。ゲートの上に大砲があって、ヒュンヒュン飛んでくる。巨大な大砲丸。

 特殊なもので、バリアを突き抜ける。スターがいくらバリアを貼っても、突き破って、宇宙船に命中する。雨のように降ってきた。機械の損傷が激しくて、ガタガタ揺れる。


 コスモが強くジャンプして、降りまくる大砲弾を蹴りながら、ゲートの大砲を壊していく。二台、三台と壊していく。


 損傷した宇宙船から降りて、コメットが降りしきる大砲弾を斬っていき、スターが天高に矢を放った。湾曲の弓をさらに湾曲に歪ませ、糸を極限まで引く。


 天に飛ばした一本の矢は、数秒後雨のように降り注いだ。自分たちには当たらない、大砲弾に当たるとバチンと弾ける。
「派手な歓迎ね」
 ダスクが宇宙船を懐にしまい、タブレットを出した。タブレット端末がザザと荒波になっている。情報操作できない。
 完全敗北、ダスクの頭の中にそんな言葉が浮かんだ。

 情報を全てオフにしたはずが、どうしてここにヴァルアニがここにいるのか、ダスクの頭の中は消化しきれない謎がムクムクと広がって、頭の中ごちゃごちゃだ。


 追い打ちをかけるようにして、べスリジアの街から巨大なアンテナが出てきた。
「なにあれ」
「あれは……!」
 天高まで届く巨大な生命体。
 全身甲冑を着た巨人。体の割に手足が細く、足まで届くほど異常に細長い。頭に兜を装着してて、隙間からボサボサの髪の毛がはみ出ている。
 

 街から甲高い悲鳴が空中に響きわたった。巨人が現れたのは、街のど真ん中だ。言うなれば、べスリジアの宮殿近くの地下から、這い上がってきた。
 都にいたべスリジアの住民たちがゲートのほうに流れ込んでくる。


 雨のように降りしきる大砲弾が止み、コスモたちも動きを封じるのをやむを得ない。ダスクは口をパクパクし、巨人を見上げていた。その生命体の正体を知っているかのような驚嘆な表情。
「ダスク、何なのあれ!」
 スターは焦って、放心状態のダスクを叩いた。それに叩き起こされたダスクは、ゆるゆると顔をスターに向ける。
「あれは……あれは、絶滅したはずの大型巨人。それを奴隷にして軍のように扱う、禁忌の行い。べスリジアがどうしてあんなものを!」
 ダスクはヴァルアニを睨み付けた。
 遠くにいても、ヴァルアニの目が怪しく光り鋭い刃を向けている。


 コスモが巨人を倒そうと、強く地面を蹴ろうとした。その寸前で止めたのはスター。
「ばかなの!? いくらコスモでも、あんなの倒せっこないわよ!」
「やってみなきゃ分からない」
「分かるわ! コスモの自慢の蹴りを入れてみ!? 巨人が倒れてきたら街ドカーン! 大砲ドカーンよ!」
 スターは必死にコスモを止めた。コスモはなる程と理解。


 すると、巨人が口を開けた。兜がガチャンと揺れる。口の中から炎の球体が浮いて出てきた。

 最初カッと眩しい太陽が現れたと思った。でもこの惑星は太陽の光が殆ど通らない冷たい場所。巨人は口の中で太陽をつくり、それが次第に大きくなってきた。

 周囲の景色が白黒になっていく。周りの景色の色を全て太陽が飲み込んだみたい。大砲よりも大きな球体。

 住民たちは天を見上げていた。カッと照らす太陽を眺めていたのか、恐ろしくて足が止まったのか、コスモたちも天を見上げ、地面にピタリと足裏をくっつき合わせていた。
 カッと照らす球体を息を吹きかけるように飛ばした。その瞬間、焼けるような熱さと痛いほどの砂埃が襲った。


 気がついたら、赤い地面がさらに赤くなっていた。周囲に煙臭さと腐敗臭が漂っている。大地が紅蓮の炎をあげている。
「ゔ……いた」
 起き上がったダスクは頭を抱えた。
「コメット、ソレイユ、大丈夫?」
 砂に埋もれた二人を見つけ、スターが駆け寄る。雪崩に埋もれたかのように、砂に埋もれている。コスモが砂を盛り上げて、救出。


 幸い二人は気絶しているだけで死んでいない。二人の他に生命体の反応はない。
「何、今の?」
 スターが服の中に入った砂をパタパタさせた。
「奴隷となった巨人は改造されて、さっきみたいなものを投げてくる」
 ダスクが淡々と巨人について語る。大地が荒れ果てても尚、そこに自然と立っている巨人。街の風貌は変わっていない。狙いは宇宙人たちのいる場所。


 兜を装着しているせいで、狙いが何処なのか分からなかった。巨人がまた口を開けた。カッとまばゆい光りが。

「また来る。どうするの!?」
 スターが叫んだ。バリアも貫通するほどの爆発、あの勢いを止める手段はない。ダスクは顔をしかめ、頭の中で必死に対処法を考えていた。
「考える手段はない。やるだけ」
 コスモがダスクの前に立つ。
 コスモの力強い声に、スターとダスクは呆気。コスモとて巨人がやれないのは分かっている。
「まさか、あの球体を!?」
「無茶よ。コスモでも!」
 丸い球体がさらに口の中で、大きくなっていく。スターとダスクを庇うように前に立つコスモ。

 あれをどうにかする手段はない。次の攻撃がくると分かっていても、中々動けない。まるで氷漬けにされた感じ。
 しかし、巨人の顔が上を向いていることにダスクが気がつく。
「待って。あれ、どこに撃つきなの」
「あの方角……地球よ!」
 スターの触覚がピンとはねた。
 地球と聞いたコスモは目を見開いた。すでに丸い球体は口から出ていて、目で追えないスピードで天にのぼっていった。


 あんなものが飛んで来れば、地球は木っ端微塵。宇宙のちりのとなる。


 なす術なし――そう思った直後、炎を纏った球体が上空で消滅した。コスモたちは目を疑った。阻止したのは、サターン様。


 自分たちと同じバリアを貼りながら巨大な球体を消滅させた。
「地球に手出しはさせません」
 上空に飛んでいて、艶のある長い髪の毛と白いドレスが揺れている。
「サターン様っ!!」
 スターとダスクは涙を浮かせ、子供の表情になった。サターン様は三匹に顔を向けない。普段から落ち着いた母のような姿を見せている彼女が、このときだけ、真面目な表情で上空を見上げている。


 その姿に、コスモが違和感を抱いて首を傾げる。

「禁忌を冒してまで、手に入れて残るのは虚しさだけです。交渉は本当に決裂しましょう。長きに渡ったこの戦争を、わたしが、この戦いに終止符を討ちます。この為に生きていたと過言じゃありません。残り僅かな灯火を使って、未来のために」

 もう一度、球体が飛んできた。サターン様はさっき消滅したであろう、球体を自らも飛ばす。力と力のぶつかり合い。

 三匹はバリアを貼りながら、気絶している二人を守る。爆風がとてつもない。力と力のぶつかり合いは、弱いほうが負ける。弱さを見せたのは、巨人のほうだった。

 自ら撃った球体が自らの身を滅ぼし、街もろとも消滅させた。消滅させた対象も代償が大きくて、爆発に飲み込まれた。
「サターン様!」
 三匹はサターン様を探すが、見つからない。
「どこにもいない……」
 スターとダスクがポロポロと涙を流した。街が消滅し、盛り上がった大地に、一滴の涙が落ちる。












 ザザと足元に冷たい何かが浸かった。また引いては、足元に打ちひしがる。冷たい風が吹いて、潮の香りが運ぶ。ふと顔を上げると、青い空が天高にあった。
 腕を伸ばしてみても、掴めない。空振りするばかり。

「おんし、そこで何しとる?」

 知っている声だった。とても懐かしい、ずっとずっと聞きたかった声。

 一番に待ち望んだものは、他にない。望んだものが、手に届く距離にある。今度は絶対に空振りしない。


 男の人に手を伸ばし、抱きついた。心臓と心臓を重なり合わせる。ないはずなのにとても、温かい。心の中がじん、と染み渡る。


誠一郎せいいちろうさん。誠一郎さん! あぁ、誠一郎さんだぁ」
 胸に強く顔を埋めた。
 彼はあの頃と変わらない。時間が止まったかのように、姿そのまま。
「ごめんな。おんしをもう、一人ぼっちにさせんぜよ」
 腰に手が回った。もう離さないと、強く抱きしめる。波が二人の足元を静かに浸かった。また引いては、打ちひしがる。まるで、波が歓迎をしているかのようだ。


「ずっと、待っていたの?」 
 繋がれた体を離し、繋がれたのは右手と左手。彼は屈託なく笑った。


「当たり前ぜよ。一人ぼっちはお互い嫌じゃけ」


「帰ってくる場所が、この場所が帰ってくる場所だって、信じて待っていてくれてありがとう」


 繋いだ手とともに、海の中を歩いていく。踝ほどの波が次第に足まで浸かっていく。そのまま海の中に消えていった。






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