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五章 侵略者と戦争
第61話 鐘が鳴る
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残るは西。五十名ほど助けたから、残りは五十人。すると、べスリジアにもう一つの宇宙船が降りてきた。
なんと恐ろしいことに、ガーディアン機関たちだ。
「なんであんたらが!」
スターが大声をあげた。
「幹を絶つなら根元から。僕らも参戦しようかと」
白夜が怪しげにくすりと笑った。千枝ちゃん率いるコメットとウォーター。それから三大柱の白夜と千斗。ついこの前まで争っていた関係だったのに。共通の敵となると味方になり、手を貸し合う。ガーディアン機関たちは地球で侵略者がのたうち回っているのをみすみす見逃すことなしない。
この惑星に降りて、王ごと潰すと宣言。サターン様が交渉しているが、そこは絶対じゃない。交渉するつもりはない。地球に降りた侵略者は全部倒すと、長に言われたらしい。
「交渉している時間を待つつもりはない。早めに対処しないとね」
白夜が恐ろしいことを、飄々と言ってのけた。コスモが首をかしげた。人を指差して数える。
「一人足りない?」
「土岐様は地球にいる侵略者を狩っている。土岐様一人で充分足りる」
千枝ちゃんが言った。
世界各地に散らばった敵をどうやって一人で対処しているのか疑問だ。この惑星にガーディアン機関も降りてきたとなると、問題が生じた。サターン様の交渉を遮り、平和的解決ができない。むしろ、ガーディアンはそれを狙っている。
平和的解決ができずに、戦争が勃発。コスモたちの惑星と戦争を起こせば、これを期に侵略者たちが消える。
「そうさせない! サターン様の邪魔はさせない!」
ガーディアン機関の前にコスモたちが立ちはだかった。
「むろん、僕らも人質を解放する。なるべく戦争はしたくない。でも、この惑星はそう簡単に転がるはずがない」
白夜が俺を見て淡々と言った。コスモたちを退かしてほしい、という表情。あくまで、コスモたちと争うことはしない姿勢。
「まず最初に人質を救出しよう。何かあったら、その人たちが狙われる」
俺がそう提案すると、ガーディアン機関たちも従った。救出し終えたら、もちろんサターン様の交渉の邪魔をすると思うが、ここは同じ味方だ。
西側もさっきと同じように、毒虫が建築物を守っていた。さっきのと同族ぽい。足がカマキリでお尻に鋭い針がある。
白夜は影を止めたことで瞬殺。コスモたちが動くことはなかった。
屋内を覗くと巨大な実態実験が。血が天井までこびりついている。
一体何をしたらそんな高い所に付着するんだ。スターの〈探索〉では捕らわれた人々は三つの部屋に別けられている。
俺と千枝ちゃんは二つの部屋に向かっていく。薄暗い場所で畳二個分の部屋。そんな狭い空間に二十名が入っていた。中にいたのは全員、十歳未満の子供たち。
「もう大丈夫! 助けにきたよ」
駆けつけると、子供たちがわんわん泣き叫ぶ。出口まで案内し、もう一つのほうはコメットとウォーターが助けに行った。子供がこんなにいるなんて、泣き叫ぶ声が痛ましい。
宇宙船に乗るのにも、一苦労した。なんせ、助けにきた俺たちを離さないから。
わんわん泣き叫び、服をしがみつく。そりゃ当然だろうな。知らない場所に何日間も捕虜されていたのだから。
意外にも千枝ちゃんが子供の扱いに慣れていて「大丈夫だよ」と優しく頭を撫でている。今まで見たことない表情。初めて笑った表情を見た。笑った顔、刹那とそっくりだ。
「むむむ。子供に囲まれている図は家庭的だな」
「まるで新婚みたい」
千斗とスターが俺たちの姿を眺めて、そんなことを言っていたのは知らない。コスモが首をかしげて「新婚」について聞く。
「新婚て?」
「結婚したばかりの人間を指す言葉」
「結婚て?」
「中々難しいことを言うではないか! あはは!」
千斗が高らかに笑って去っていた。スターはじろりとその後ろ姿を睨みつける。
「あいつ逃げたな」
「ねぇねぇ、二人は結婚したの?」
「う~ん、あ、わたしたちも手伝いましょ!」
スターはコスモの難しい課題を振り切って、子供たちを宇宙船に乗せる手伝いをした。
どうせ記憶を消すにしても、根底にこびり付いたトラウマは消えない。ダスクはその根底ごと消えるように、超強力な暗示をかけた。
コメットとウォーターも救出作戦成功し、残りの三〇名を救出。子供たちと同じ船に乗せた。
これで人質は全員救出。したと思った。救出したのは確かに五十名だ。でもスターが言うには、あと一人いると。生命体の反応が薄れているせいで、数に入っていなかったが、〈探索〉すると、実験室に明らかにおかしな生命体の反応があると。
実験室に恐る恐る足を運ぶ。腐敗臭が漂って、頭をガンガンいわせる。薄暗かったせいでよく分からなかったが、シーツに包まれた物体を発見。
シーツに包まれていない足が出ていた。全身の血を抜かれたように干からびていて、火傷を庇っているかのように黒く変色していた。
「死後一~二年。拉致された期間じゃない」
ダスクが淡々と冷たく言った。
「どうやらこの惑星は前にも地球人を襲っていたことになる」
白夜が顎に手をおいた。難しい表情。
冷たい風が吹いた。何年、ここに捕虜されここに放置されていたのか、考えたくない。ゾッとする。
すると、ダスクがその考えを止めた。
「いや、地球人じゃない。これは……あたしたちの――」
言いかけた途端、パンと大きな音が響いた。鼓膜が破れそうな音。耳を塞いでも、鼓膜がキーンとする。
暫くして何が起こったのか周囲をうかがうと、扉付近に委員長が倒れていた。地面にドロリと赤い血が。
「麻美っ!」
「委員長!」
俺とスターが一目散に駆け寄った。首を触ると微かに脈がある。でも浅い。血の量が海のように広がっていき、靴まで浸かった。
委員長を中心に、薔薇のように広がっていく。触っても反応がない。
「治癒してる。けど出血が酷い」
スターがポツリと呟いた。
俺は周囲を見渡した。屋外にいた委員長を狙い撃ったやつは何処のどいつだ。ガーディアン機関、コスモがいち早く行動に移した。屋外にいた狙撃手の動きを白夜が捉え、コスモと千斗がそちらに向かう。
ダスクの「やめて!」という叫び声は虚しく空気に消えていった。
屋外にいた狙撃手を、千斗の力でその場周辺を燃やし、狙撃手の足元が傾いた。それを見て、コスモが後頭部を蹴りあげ一瞬にして片付けた。
ダスクが慌てた様子で外に行く。一瞬で片付けたので、止めるスキはなかった。頭に手を置き、首をうなだれる。
「あぁもう、やめてって言ったのに……」
数m飛ばされ、土煙を舞、倒れた狙撃手の姿をようやく確認できる。子供だった。地球でいえば七~八歳くらいの。
茶色のヘルメットと薄汚れた服を着ている。男の子か女の子か分からない。白夜がすぐさまその子のもとに駆け寄った。ヘルメットを外す。
地球人でもない男の子。緑の肌をして、目の下や口元には赤い印をつけている。
「まさか……!」
白夜が顔を真っ青にして飛び起きた。べスリジア星の子供だ。故意にべスリジア星の子供を傷つけてしまった。
女性の甲高い声が響きわたった。子供の母親らしき女性だ。薄汚れた服、荒れた髪の毛、倒れた子供を見て、顔を真っ青。すぐさま子供を抱きかかえ、すごいスピードで逃げていった。
時速八十出ているぞ。委員長が撃たれ、べスリジア星の子供をいきなり連れ去っていき、それは僅か数分の出来事だった。状況が整理できない。
いち早く状況を整理したのは、ダスクと三大柱の白夜。
「べスリジアの子供を傷つければ、サターン様の行いが全て無駄になる。あの子に治癒を施して、黙秘させないと」
「このままではほんとに戦争に勃発する。僕らがやったとなると地球も危うい! 大事になる前に追うよ!」
猛スピードで逃げていったので、影を操る白夜はもう範囲が届かない。持久力のある千斗が女性の後を追う。
――その時。
『交渉は破断した。戦争だ』
誰の声か分からない。頭の中に響いてくる。途端に、黄金の大地が赤く染まった。赤いペンキを溢したように、地平線の彼方から彼方まで大地を赤く染める。
「なんだ、これは……」
状況の整理がつかないまま、事態が恐ろしい点に行っていることは分かる。
「はぁ!? さきに引き金を引いたのはそっちのくせに!」
隣にいたスターが空に向かって大声を上げた。委員長の治癒を施しながら。ゆっくりと海のように溢れでた血を体内に戻していく。
返事はなかった。誰の声かも分からないし、何処から降ってきたのかも分からない。
「何言っても無駄ね。傷つけた、これだけ見れば戦争の引き金を引いたのは間違いない」
ダスクが難しい表情で言った。
ひんやりとした空気が流れた。
風が氷のように凍てついて痛い。静かに、でも大きく戦争の鐘が鳴った。音はやがて、髑髏のように渦を巻き、惑星ごと包んだ。空も大地も、真っ赤にそまり戦場になるべく、舞台が完成した。
なんと恐ろしいことに、ガーディアン機関たちだ。
「なんであんたらが!」
スターが大声をあげた。
「幹を絶つなら根元から。僕らも参戦しようかと」
白夜が怪しげにくすりと笑った。千枝ちゃん率いるコメットとウォーター。それから三大柱の白夜と千斗。ついこの前まで争っていた関係だったのに。共通の敵となると味方になり、手を貸し合う。ガーディアン機関たちは地球で侵略者がのたうち回っているのをみすみす見逃すことなしない。
この惑星に降りて、王ごと潰すと宣言。サターン様が交渉しているが、そこは絶対じゃない。交渉するつもりはない。地球に降りた侵略者は全部倒すと、長に言われたらしい。
「交渉している時間を待つつもりはない。早めに対処しないとね」
白夜が恐ろしいことを、飄々と言ってのけた。コスモが首をかしげた。人を指差して数える。
「一人足りない?」
「土岐様は地球にいる侵略者を狩っている。土岐様一人で充分足りる」
千枝ちゃんが言った。
世界各地に散らばった敵をどうやって一人で対処しているのか疑問だ。この惑星にガーディアン機関も降りてきたとなると、問題が生じた。サターン様の交渉を遮り、平和的解決ができない。むしろ、ガーディアンはそれを狙っている。
平和的解決ができずに、戦争が勃発。コスモたちの惑星と戦争を起こせば、これを期に侵略者たちが消える。
「そうさせない! サターン様の邪魔はさせない!」
ガーディアン機関の前にコスモたちが立ちはだかった。
「むろん、僕らも人質を解放する。なるべく戦争はしたくない。でも、この惑星はそう簡単に転がるはずがない」
白夜が俺を見て淡々と言った。コスモたちを退かしてほしい、という表情。あくまで、コスモたちと争うことはしない姿勢。
「まず最初に人質を救出しよう。何かあったら、その人たちが狙われる」
俺がそう提案すると、ガーディアン機関たちも従った。救出し終えたら、もちろんサターン様の交渉の邪魔をすると思うが、ここは同じ味方だ。
西側もさっきと同じように、毒虫が建築物を守っていた。さっきのと同族ぽい。足がカマキリでお尻に鋭い針がある。
白夜は影を止めたことで瞬殺。コスモたちが動くことはなかった。
屋内を覗くと巨大な実態実験が。血が天井までこびりついている。
一体何をしたらそんな高い所に付着するんだ。スターの〈探索〉では捕らわれた人々は三つの部屋に別けられている。
俺と千枝ちゃんは二つの部屋に向かっていく。薄暗い場所で畳二個分の部屋。そんな狭い空間に二十名が入っていた。中にいたのは全員、十歳未満の子供たち。
「もう大丈夫! 助けにきたよ」
駆けつけると、子供たちがわんわん泣き叫ぶ。出口まで案内し、もう一つのほうはコメットとウォーターが助けに行った。子供がこんなにいるなんて、泣き叫ぶ声が痛ましい。
宇宙船に乗るのにも、一苦労した。なんせ、助けにきた俺たちを離さないから。
わんわん泣き叫び、服をしがみつく。そりゃ当然だろうな。知らない場所に何日間も捕虜されていたのだから。
意外にも千枝ちゃんが子供の扱いに慣れていて「大丈夫だよ」と優しく頭を撫でている。今まで見たことない表情。初めて笑った表情を見た。笑った顔、刹那とそっくりだ。
「むむむ。子供に囲まれている図は家庭的だな」
「まるで新婚みたい」
千斗とスターが俺たちの姿を眺めて、そんなことを言っていたのは知らない。コスモが首をかしげて「新婚」について聞く。
「新婚て?」
「結婚したばかりの人間を指す言葉」
「結婚て?」
「中々難しいことを言うではないか! あはは!」
千斗が高らかに笑って去っていた。スターはじろりとその後ろ姿を睨みつける。
「あいつ逃げたな」
「ねぇねぇ、二人は結婚したの?」
「う~ん、あ、わたしたちも手伝いましょ!」
スターはコスモの難しい課題を振り切って、子供たちを宇宙船に乗せる手伝いをした。
どうせ記憶を消すにしても、根底にこびり付いたトラウマは消えない。ダスクはその根底ごと消えるように、超強力な暗示をかけた。
コメットとウォーターも救出作戦成功し、残りの三〇名を救出。子供たちと同じ船に乗せた。
これで人質は全員救出。したと思った。救出したのは確かに五十名だ。でもスターが言うには、あと一人いると。生命体の反応が薄れているせいで、数に入っていなかったが、〈探索〉すると、実験室に明らかにおかしな生命体の反応があると。
実験室に恐る恐る足を運ぶ。腐敗臭が漂って、頭をガンガンいわせる。薄暗かったせいでよく分からなかったが、シーツに包まれた物体を発見。
シーツに包まれていない足が出ていた。全身の血を抜かれたように干からびていて、火傷を庇っているかのように黒く変色していた。
「死後一~二年。拉致された期間じゃない」
ダスクが淡々と冷たく言った。
「どうやらこの惑星は前にも地球人を襲っていたことになる」
白夜が顎に手をおいた。難しい表情。
冷たい風が吹いた。何年、ここに捕虜されここに放置されていたのか、考えたくない。ゾッとする。
すると、ダスクがその考えを止めた。
「いや、地球人じゃない。これは……あたしたちの――」
言いかけた途端、パンと大きな音が響いた。鼓膜が破れそうな音。耳を塞いでも、鼓膜がキーンとする。
暫くして何が起こったのか周囲をうかがうと、扉付近に委員長が倒れていた。地面にドロリと赤い血が。
「麻美っ!」
「委員長!」
俺とスターが一目散に駆け寄った。首を触ると微かに脈がある。でも浅い。血の量が海のように広がっていき、靴まで浸かった。
委員長を中心に、薔薇のように広がっていく。触っても反応がない。
「治癒してる。けど出血が酷い」
スターがポツリと呟いた。
俺は周囲を見渡した。屋外にいた委員長を狙い撃ったやつは何処のどいつだ。ガーディアン機関、コスモがいち早く行動に移した。屋外にいた狙撃手の動きを白夜が捉え、コスモと千斗がそちらに向かう。
ダスクの「やめて!」という叫び声は虚しく空気に消えていった。
屋外にいた狙撃手を、千斗の力でその場周辺を燃やし、狙撃手の足元が傾いた。それを見て、コスモが後頭部を蹴りあげ一瞬にして片付けた。
ダスクが慌てた様子で外に行く。一瞬で片付けたので、止めるスキはなかった。頭に手を置き、首をうなだれる。
「あぁもう、やめてって言ったのに……」
数m飛ばされ、土煙を舞、倒れた狙撃手の姿をようやく確認できる。子供だった。地球でいえば七~八歳くらいの。
茶色のヘルメットと薄汚れた服を着ている。男の子か女の子か分からない。白夜がすぐさまその子のもとに駆け寄った。ヘルメットを外す。
地球人でもない男の子。緑の肌をして、目の下や口元には赤い印をつけている。
「まさか……!」
白夜が顔を真っ青にして飛び起きた。べスリジア星の子供だ。故意にべスリジア星の子供を傷つけてしまった。
女性の甲高い声が響きわたった。子供の母親らしき女性だ。薄汚れた服、荒れた髪の毛、倒れた子供を見て、顔を真っ青。すぐさま子供を抱きかかえ、すごいスピードで逃げていった。
時速八十出ているぞ。委員長が撃たれ、べスリジア星の子供をいきなり連れ去っていき、それは僅か数分の出来事だった。状況が整理できない。
いち早く状況を整理したのは、ダスクと三大柱の白夜。
「べスリジアの子供を傷つければ、サターン様の行いが全て無駄になる。あの子に治癒を施して、黙秘させないと」
「このままではほんとに戦争に勃発する。僕らがやったとなると地球も危うい! 大事になる前に追うよ!」
猛スピードで逃げていったので、影を操る白夜はもう範囲が届かない。持久力のある千斗が女性の後を追う。
――その時。
『交渉は破断した。戦争だ』
誰の声か分からない。頭の中に響いてくる。途端に、黄金の大地が赤く染まった。赤いペンキを溢したように、地平線の彼方から彼方まで大地を赤く染める。
「なんだ、これは……」
状況の整理がつかないまま、事態が恐ろしい点に行っていることは分かる。
「はぁ!? さきに引き金を引いたのはそっちのくせに!」
隣にいたスターが空に向かって大声を上げた。委員長の治癒を施しながら。ゆっくりと海のように溢れでた血を体内に戻していく。
返事はなかった。誰の声かも分からないし、何処から降ってきたのかも分からない。
「何言っても無駄ね。傷つけた、これだけ見れば戦争の引き金を引いたのは間違いない」
ダスクが難しい表情で言った。
ひんやりとした空気が流れた。
風が氷のように凍てついて痛い。静かに、でも大きく戦争の鐘が鳴った。音はやがて、髑髏のように渦を巻き、惑星ごと包んだ。空も大地も、真っ赤にそまり戦場になるべく、舞台が完成した。
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※すでになろうで完結済みの小説です。
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