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三章 侵略者とガーディアン

第40話 捕らえ

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 両腕燃やされたスターはコスモと同じように大きな鎖で縛られた。
「仲良くやろうて、矛盾してるじゃない」
 スターが涙目で千斗に言いがかりをつけた。千斗は誇らしげにニッと笑った。
「三人揃ってないから仲直りしていない」
「はぁ!?」
 スターは疑問詞を大ボリュームで口から漏れた。
「なにそれ、仲直りするのに縛るの!? それが趣味なの!?」
「そんな趣味してないが、確かに何故縛るのかわからん! 縛れと言われたからには縛る! あはははは!」
「ばかじゃないの!? 理由聞けよばか! あはははじゃねぇし、バァカ!」
 スターと千斗は「馬鹿」と言い合いお互い一歩も引かない。
「馬鹿はどっちだ。白夜、行くぞ。宇宙人はあともう一体いる」
 土岐はそんな二人を置いて、白夜を指名した。くるりと踵を返して、ダスクたちがいる方向に向かう。その後ろを白夜は追いかける。耳につけたイヤホンに手を伸ばすと、土岐を止まらせた。
「待って。もう決着はついたようだ」
 くるりと土岐は振り向いた。

 ソレイユはその間、地面に無造作に置かれたコメットに駆け寄る。息をしていることに安堵する。「ごめん」とか弱い声で呟いた声を誰も耳にしない。

 隣で横たわっていたコスモがもぞもぞと動いた。隣で大声で罵り合っている二人の声に、やむを得ず起きたのだろう。
「コスモ大丈夫?」
 スターは顔を覗く。コスモはコクリと頷く。すると、口を金魚みたいにパクパク動かした。スターはその行動に目を見張る。
「何? 何なの? コスモ、まさか……」
 コスモは口をあっ、と開けた。口の中はスターが思っていたとおりアレがなかった。
「舌、斬られたの?」 
 おずおず問うとコスモは頷く。
 舌がなくて喋れないと分かっていても、コスモは何かを言いたそうに、口をパクパク動かした。スターはじっと唇を読み解く。

『スターは勝ったんだね。流石スター。腕大丈夫?』

「あんた……なんで自分がそうなっているときに人の心配まで……」
 目の中にたまった涙がついに、ポロポロと雫が落ちた。溢れた涙は地面をすぐに濡らす。コスモは普段と何食わぬ顔していたから、余計に涙が出てきた。グスグス泣くスターを見て、コスモは首をかしげる。

 ドサリと重たい音がした。左隣を見るとダスクも同じように鎖で縛られ地面に横になっている。
 頭上には男が立っていた。ダスクを地面に落としたであろう男だ。眼鏡をかけたガーディアン。ウォーターだ。
「ダスク! 大丈夫なの!?」
 スターが声をかけても返事はしない。生命体の反応はある。けど、返事が出来ないほど弱っている。
 ウォーターは眼鏡をクィと直した。怪我どころか、砂埃もついていない。勝ったというのに表情すら変わらない。
「よくやった」
 ウォーターの近くに土岐が駆け寄った。ウォーターは頭を下げる。
「いえ、当然のことです。侵略者に負ける馬鹿はそういないでしょう」
 ちらりとコメットのほうを見る。コメットはまだ起きていない。苦しそうにぐったりと横になっている。コメットを抱えていたソレイユと目があい、ソレイユは眉間にシワをよせた。
「和希、褒めてる場合じゃないよ。君たち、自分たちが勝手なことをしたって分かっている?」
 間に白夜が入ってきてウォーターは顔をあげた。白夜は真剣な表情でウォーターに詰め寄る。
「勝った負けたの問題じゃない。ガーディアンとして宇宙人に自ら喧嘩を降るなんて、前代未聞だよ。しかも、来栖様に内緒でこんなこと……来栖様が知ったらどうなるか」
 ソレイユたちの顔色がさぁ、と青くなった。コスモたちと同じ、コスモたちが最も敬愛し尊敬しているのがサターン様であれば、ガーディアン機関からすれば長の来栖様。

 敬愛し尊敬しているお方に内密のことがバレれば、築きあげた信頼が失い、側に置いてくれなくなる。考えたくない。

 土岐が白夜の肩を叩いた。白夜は恐る恐る振り向く。
「せっかく新しい体制になったんだ。来栖様も悲しむだろう。そうならないために、こいつらを献上するんだ」
 ちらりとコスモたちを見下ろした。
 汚物を見るかのような眼差し。「縛る理由がそうだったのか!」と謎だったものが解き明かされ、千斗が明るい表情になった。
「俺は言ったぞ」
「言ったね」
「うっかりしてた!」
 土岐は深いため息ついて、ソレイユたちに顔を向けた。ソレイユたちは体を強張る。
「お前たちも来い」
 それだけ言うと立ち去った。縛られたコスモたちを抱えられ、ガーディアン機関の本部に。

「離せ」と抗議するスターの舌を土岐が斬った。斬られた舌を回収すればすぐに回復てきるのに、地面にポトリと落ちた。コスモもこれが原因で未だに回復していない。舌は回復するの眼球より遅い。

 暴れたら斬られるし、抵抗が無駄だと分かるものすぐ。ガーディアン機関たちにどんぶらこ抱えられて、ついに本部へ。

 到着してしまった。
 大きな屋敷。日本家屋。お城のような城壁があって、その壁がずっと奥まで続いている。白い壁だから、暗闇でもよくわかる。
 頭上高くある玄関。真新しい木材の色。ノックもないしインターホンもない。どうやって開くのかそれは、力自慢の千斗が扉をこじ開ける、なんという近代離れした開けた方だった。

 開けた玄関からまず最初に綺麗な庭が目に入った。白くて丸みを帯びた小石が踏むたびにジャリジャリなる。

 赤い金魚と白い金魚と黒い金魚が泳いでいる池もあった。池の間には橋が跨いであって、池を覗くと金魚が優雅に泳いでいた。
 池の水は暗くて空面を映していた。転々と煌めく星が映し出されていた。金魚が動けば波紋を作り、真っ平らだった空面の景色が揺れ動く。

 ここに入って良い匂いが鼻孔をくすぐる。金木犀の香りだ。季節でもないのに一体何処から風に運ばれているのか。

 また少し行くと、また玄関がある。今度こそ本物のようだ。戸に手をかける部位がある。が、しかしそこには行かなかった。逆方向に向かっていく。何処にいくのかと思いきや、そのまま庭に到着。そこで降ろされた。

 何処までも続く縁側が目の前にある。コスモたちは無造作に置かれて、三人柱がその後ろでソレイユたちがその後ろに膝をついている。縁側の奥には誰もいないのに、六人は頭を垂れている。
「夜遅く申し訳御座いません。この度はわたくしたちの観察が行き届かず、ご迷惑をおかけになったこと切に思います。それで、侵略者三体を捕獲しました」
 土岐が語った。
 すると縁側に奥に蝋燭がボっとたった。最初の一個がつくと次々に横に燃えていき、縁側の奥が初めて明らかになる。暗かった場所が明るく鮮明になる。
 縁側の奥にいたのは、着物をきた一人の男性。歳は三十代ごろ。
 大きな畳の部屋でたった一人座っている。
 額に大きな傷がある。傷があるけど、それ以外は整った顔たちだ。
 優しい風貌でこちらを見つめていた。
「顔を上げて。みんな、よく来たね」
 神経が茹でる声。
 聞いていると気持ちのいい声だ。優しくニッコリと笑った。六人はその言葉に顔をゆっくりあげた。 
「ソレイユもコメットもウォーターも、怪我はあれど、こうして顔を出してくれたこと、嬉しく思うよ。わたしは怒っていないよ。和希も叱らないであげて」
「はい」
 土岐は素直に返事した。
 ソレイユたちは一体どんな表情しているのか分からない。強者共を集めたガーディアン機関の長、来栖。
 一体どんな人物か想像したが、以外にも穏やかな人だ。来栖様は宇宙人たちに目を向けた。何も語らなかった。宇宙人たちの全身を見て、何も表情は変わらない。
 じっと漆黒の瞳を向けたまま、微動だにしない。

 こちらも動けない。ガーディアンの長をやってしまえば、取り返しがつかない。まさに戦争の引き金になってしまう。
 暴れることもなく、ただじっとした。それが功を奏したのかやっと長が口を開いた。
「鎖を解いてやって、かわいそうだ」
「はい」
 土岐がすぐに返事をすると、背後に気配が回ってきてガシャガシャと鎖を解放する。これで解放されたわけじゃない。 

 ここから何があるか、何をされるか、コスモたちは嫌でも想像しなくてはならない。

 鎖を解かれた宇宙人たちを眺め、来栖様は何かを呟いた。でも近くにいる宇宙人たちでさえもその声は聞きとれなかった。
「さて、どうしようか……わたしも分からないんだ」
 来栖様は苦笑した。ガーディアン機関の六人が目を見開いて、びっくりしている。
「恐れながら、わたくし共は来栖様に〝侵略者は決して許してはいけないよ〟とそう、教えられました。そして、わたくし共はその言葉通りに宇宙人を殺めてきました。その逆もあるのです。わたくし共はこのままでは仇討ちをやりかかねません。どうか、貴方様のお言葉を下さい」
 土岐が頭を垂れた。
 ソレイユたちも下げる。それを見た来栖様は悲しい表情をした。
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