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一章 侵略者と地球人 

第12話 ご対面

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 コスモが侵略者長になっても、変わることはない。表向きはコスモでも、裏ではダスクとスターだからな。

「何すればいい?」
 毎度のことでお約束。
「この地域はもう侵略したも同然だから、隣町に行きましょう」
 スターがそう提案する。
 それに素直に従うコスモ。この地域は既に侵略済と聞いて、ダスクが目を見開いた。
「もう侵略したの? 具体的にどんな?」
「この地域を周っているだけよ」
 スターが自慢げに言った。
 ダスクは「は?」と眉間にシワを寄せる。
「この地域をぶらぶら歩いているだけで、地球人はわたしたちに挨拶するの。もうこれって、わたしたちのことを恐れているてことよね。侵略したも同然ね」 
「たぶんそれ、ただの挨拶」
 ダスクは、やれやれとため息ついた。すると、さくと立ち上がるや悪戯っ子のように笑った。
「あたしについてきなさい。侵略てものを教えてやるわ」
 ダスクはそのまま部屋を出て、外に向かう。その後ろをついて歩く二匹。部屋に残されたのは、静寂だった。バタバタ忙しい時間がまるで、嘘のような静か。嵐のように行きやがった。

 俺も勉強机に向かった。止まっていた手を進めるために。でも、部屋が急に広く感じて居心地悪い。仕方なく、イヤホンを耳につけて音楽を最大にした。

 相原家の家を出たと思っていた三匹は、玄関で止まっていた。前を歩くダスクを止めたのはスター。
「そのかっこうで外行くの?」
「何か悪い?」
 ダスクは自分の服を見下ろした。ダスクの服はワイシャツ一枚に腰には民族衣装のマントをくくって、学校用のジャージのズボンを着ている。はっきり言ってダサいのだ。
「ダサ! ダッサっ! そんなかっこうで一緒に歩きたくないんだけど」
「別にいいじゃない。さぁ」
「こっちは良くないの!」
 スターの反対を押し切り、ダスクはそのまま外に一歩踏み歩く。その後ろを文句なしでついていくコスモ。仕方なく、スターもついていく。ダスクを先頭にして、二匹の距離は離れている。  

 外に行くと、地域の人たちがコスモたちをみて挨拶した。頭を撫でたり、お菓子をくれたり、宇宙人たちの見た目は十二歳の女の子か、都合が悪かったら犬猫に化ける。

 ダスクのかっこうは誰も気に留めなかった。ダスクは「ほらね」と晴れた表情で言うが、スターとコスモの距離は遠い。ダスクが考えついた侵略とは、街の境内を掃除するという。

 コスモたちは今、街の一角にある古びた神社にいる。神主の記憶を弄り、ここのバイト生という設定。白装束は普段着なれなくて、居心地悪い。そんでもって、境内の掃除とかもしたことがない。
「なんで掃除なの?」
 スターが不満げに聞くと、ダスクはほうきを手に取りながら、境内に落ちてる枝や葉を集める。
「人間はいつの時代も神様を敬愛しているの。神社には、神様が祀ってて人間はいつもそれに手を合わせてる。その神様がいる神社をあたしたちが掃除したら、人間や神様もあたしたちにひれ伏すでしょ」
「なるほど! そんな意図が」
 スターは目を見開いて、ダスクをさらに感心した。銀河一の天才少女はやっぱり違う。スターはほうきを握りしめて、コスモのほうに振り向いた。
「そうとなれば、コスモ! やるわよ!」
 コスモは大口開けて空を眺めていた。
 空から降ってくる葉っぱが口の中に入っても、微動だにしない。ずっとそこの位置にいて、コスモの肩やら頭には葉っぱがついていた。スターはそれを振り払う。
「さっ、やるわよ!」
「何を」
「掃除よ」
 コスモにほうきの扱いを教えて、境内を掃除しまくる三匹。神主はそれを見て、涙を流した。古びた神社が綺麗だと、大粒の涙を流し感謝する。

 森の近くの神社なので、よく野良が境内に入ってくる。猫ならまだしも、猪が下りてくることも。
 茂みが何やらゴソゴソ音を出していると、ダスクがいきなり地面に横になって、こちらを振り向く。
「何してるの! 態勢を低くして!」
 と言った顔は本気だった。
 コスモは素直にそれに従う。二匹して、地面に横になっている。
「え、コスモまで、え? なにこれ、わたしもしないといけないの? というか、いきなり何?」
「肉食動物かもしれない。隠れて! 武器はこれしかないけど、あたしたちの力なら、殺れるわ!」
 と言った顔は殺気混じりで怖い。スターはやれやれと手のひらを上に向かせ、ため息ついた。
「この地域には肉食動物なんかいないわよ。いるとすれば、遠い先祖が狼だった犬だけど」
「動物はみな、肉を食うのよ。犬も肉を食うでしょ! いつまでそうしてるつもり? そんな態勢でいたら、真っ先に喰い殺されるよ。サバンナの常識でしょ!」
「ここサバンナじゃないって」
 そんな口論している間に、茂みから足音が聞こえ、その音が徐々に近づいてくる。足音が止んだと思ったら、茂みからバサリと顔を出した。知っている顔だった。

 ガーディアンの三人の一人。アポロ。森の中を彷徨っていたのか、全身傷だらけ。木の葉や蜘蛛の糸まで頭にくっついている。ブレザーの制服が砂で汚れていた。
「うぅ、やっと着いた……」
 バタンと倒れた。
「死んだ」
 コスモが頬を突く。
「生命反応があるから死んでるわけない。でもこの死んだふり、見事ね」
 ダスクが褒める。
「普通に行き倒れだよ! え、地球人がこうなったらどうするの? 麻美が持っていた本では確か――」
 スターがポクポクと考えこむ。
 スターの飼い主、麻美が持っていた本でこのシチュエーションでは、男同士だった。唇と唇を重ねて舌を絡ませ、次に服を脱ぐ。

 男のモノを手の中に包みながら、奪うかのように唇を重ね何度も、相手を求める。そして、お互いどんどん欲に溺れていく。
「男同士もありなら、女の子同士もあるのよ」
 スターは、アポロの唇に近づく。アポロは苦しそうに眉をしかめて、口を半開き。舌を入れるにも容易い。ゆっくりと近づき、目を閉じる。
 それを寸止めで止めるダスク。
「ナニしてるか分かってる!?」
「ちょっと黙ってて」
「目の前で同胞が変な方向に行ってたら、止めたくなるわ!」
「あーもう! 放してたらっ! キスできないじゃない」
「ヤラせるもんか」
 バチバチと火花が散った。そんな状態でもアポロは起きない。つんつんと頬を突くコスモ。  

 すると、神社の階段を駆けのぼってこちらにやってきたのは、同じくガーディアンのルナ。
「だから普通の道に行けって言ったのに!」
 ルナはドスドスと足音を立てながら寝ているアポロを足で叩き起こした。口論でも起きなかったのに、ルナの足蹴りで目が覚めた。苦しそうにしていたのに、起きたらあっけらかんとしていた。ルナに手渡された水を飲む。
「あれ、レイは?」
 水を飲み終わると、アポロが聞いた。
「さっき疲れたて言ってそこで寝てる」
「そっか」
 飲み干したペットボトルをルナに手渡す。ルナは、ゴミ箱に捨てに行く。アポロは腰に手をつき、コスモたちを威嚇。
「宇宙人め、ここで会ったが百年目! 地球侵略させないんだから!」
 割と最近会っているのに、百年も関係ない。
 威嚇された三匹は呆然としている。それを見てアポロは勝利の笑みを隠さなかった。
「宇宙人がここで掃除していると聞いて、駆けつけたら、ほんとに掃除してたわ。でも、ガーディアンはそんなことは許さない。地球を脅かす宇宙人はここで消えてもらう」
 勝利の笑みのアポロと同じように、コスモたちも勝利の笑みを漂わせていた。

 この前はガーディアン三人で宇宙人が二匹。でも今は違う。三匹揃った。おまけにガーディアンは二人に宇宙人は三匹。逆転している。どっちが勝つか、明確にわかっている。

 この三人についてダスクは知らないので、ガーディアンだと説明するとすぐに理解した。
「悪いけど、ガーディアンに付き合っている暇はないわ」
 くるりと踵を返すダスク。それに一同は驚いた。
「何言っているの。ギャラクシーが言ってたでしょ『地球侵略する前にガーディアンを滅ぼせ』て」 
 スターが叫ぶと、ダスクは目を細めた。切れ長の目を更に細めた。
「そっちこそ何言ってるの。あたしたちはサターン様に地球を侵略しろ、て言われて、それ以外は何も言われなかった。たとえギャラクシーが言っていたとしても、それはサターン様の言いつけじゃない。サターン様が言ってたなら守るけど、それ以外はしない」 
 コスモがうんうんと頷いた。
 すっかりその気が失せた三匹は、ガーディアンを無視して境内を掃除する。

 アポロたちは、目を白黒させる。ここに来たのは、宇宙人と決着つけるため。それなのに、無視された待遇じゃ相手してくれない。
「帰りましょ」 
 諦めたルナが言った。
「ぐやじい、くやしいよぉ」
 アポロは悔し涙を流しながら帰っていった。その次の日。相原家に集まってテレビゲームをすることをまだ知らない。

 境内を掃除した三匹はお礼にと、お金が配られた。初の給料。
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